デザイナーに復帰した理由が垣間見える「菊池武夫の本」
2012年06月01日 12:00 JSTワールドが展開するメンズブランドTAKEO KIKUCHIの創始者である菊池武夫氏が クリエイティブディレクターに復帰することが発表されました。2003年にTAKEO KIKUCHIの クリエイティブディレクターの座を降りたので9年ぶりの復帰。40ct&525およびメンズ全体の ディレクターにも就任することが決まり、それらの発表と同時に出版されたのが『菊池武夫の本』です。
本書は菊池武夫氏が「私の考えを書籍の形にして表現したい、何らかの形で残したい」 という考えから書籍化された本です。「青瓢箪」「青嵐」「青草」「青い花」 「青海原」「青二才」「青天井」「青の人」「青写真」の全9章から成り立っており、 全ての章に青がつくのは菊池武夫氏の幼少期のあだ名が青(瓢箪)だから。
内容は幼少期から現在までを時系列で振り返る自叙伝というよりも菊池武夫読本という感じでしょうか。 過去、現在、未来、仕事、写真家や触発された人々、 クリエイション、私生活、座談会&寄稿等を通した自分語りが中心です。
シャネルのようなドラマチックな話もなければ、ヨウジのような詩的な語りもない。 淡々と菊池武夫氏が歩んできた過程とその結果が綴られているだけでエンタメ性には欠けるのですが、 各章で断片的に示される考え方や主張は一貫しておりブレません。そこが本書の見所です。
私はデザインというものは、自分の中にあるイメージを具体的な形にすることである、と思っている。 そこに必要なのは、人に共鳴感を覚えさせ、それを欲する情熱を持ってもらう″結果″である。 そこにタイムラグがあってはならない。さまざまな条件を押しのけてしまうエネルギーが そのデザインにあれば、人に伝わる可能性が大いにあることを私は信じている。
「どの時代に生きるかではなく、どのような時代を迎えたいのか」と目標を掲げイメージを広げていく。 すると、ブランドはライフスタイル提案型になり、その対象もヤングビジネスマンになった。 それが社会人の登竜門的ブランドTAKEO KIKUCHIということなのでしょう。
ただ、我々がスタートした古き良き時代は、情熱で流されることをいとわない人が 多くいた時代であった。21世紀に入って将来に陰りが出てきた時代に生きる人たちの条件とは、大いに違う。 今は先を見据え、賢く冷静に、一時の情熱に流され興奮してエネルギーを燃やす、 といったことを避けて通る、クールな人間像が理想化されてしまっている。 このことがデザイン界の方向性を決定づけているといっても過言ではない。
閉塞感漂う社会全体が抱えるエネルギー不足を危惧されているようで、簡素化されていく洋服や生活、 あらゆることに醒めた若者、飽和しこれ以上成長するエネルギーを感じない日本市場を挙げておられました。
昔、「7歳まで生きれれば幸運」と医者に言われていた私は、先に何があるかではなく、 自分がその先に何を望み、それをどう実現させるか、その情熱が、 生きるための重要なエネルギーになっている、という思いを強く持っている
先を見据え、目標を掲げ、情熱をもって生きていく。それが菊池武夫氏なので、 「今時の若者は・・・今時のデザイナーは・・・最近の簡素化された服は・・・」と嘆くのではなく、 クリエーションを通して自分の考えを世の中に伝えていこうと思ったのではないでしょうか? だからこそのデザイナーカムバックでしょう。
現実を踏まえた上で思い描くのは、日本が少し前の、まだ満足感を得るには 何もかも乏しかった時代。目の前に思い描く夢、その実現に向けて邁進する エネルギーに満ちていた時代に遡る必要がある。
アメリカもMade in USAが見直されてきており「ヘリテージ」がキーワードになっています。 「古き良き時代のアメリカ」をテーマにした服作りも増えてきていますが、 菊池武夫氏はその日本版をやろうとしているのでしょうか? 御年73歳とはいえまだまだ目が離せそうにありませんね。

