織物製造業みやしんの廃業はメードインジャパン衰退の象徴
2012年09月18日 17:00 JST来春予定しているギンザ・ファッションウイークとGINZA RUNWAYの準備のため、東レのご協力をいただいてバイヤー数名とお取引先アパレルメーカーと一緒に北陸産地回りをしてきました。今回は能登半島まで足を伸ばし、石川、福井の織物工場、経編ニット工場など数社を訪問、どのお取引先ブランドにどんな技術を使って商品開発してもらうか、ウインドーやVPスペースのマネキンをどう飾るか、RUNWAYでどんな見せ方するのか具体的にアイディアを固めることができました。

同行したMD担当のS課長は3度目の北陸視察、産地の特性を理解し、工場での質問もかなりマトを得ていました。今春尾州産地に同行した婦人服バイヤーのFくん、あまり目立たない製造中織物の織りキズにちゃんと気がついてました。モノづくりの現場に直接足を運ぶチャンスが少ない百貨店、でも工場見学の場数を踏むとチェックすべきポイントが自然と身に付くと改めて実感、この経験を商品開発や格好良いVP演出につなげてくれたらと思います。
最初に訪問した越前市の丸編ニット工場ミツカワ、砂漠の緑化に一役買っています。ミツカワ本社ビル屋上(写真2枚目)にはサッカー場のような芝生が敷いてありました。丸編の技術を活かしてニットで長い筒状のものを作り、そこに土を入れて芝をセットするとニット中の土に根付く原理。写真の芝生の下はソーセージ状のニットの筒がびっしり、これならセットするのは簡単そう、「RUNWAYのステージに使えませんか」と質問しました。が、設営時間がたった2時間ではとても無理、いいアイディアかなと思ったのですが断念。
初回にお邪魔した小松精練、松屋の屋上に省エネ効果の大きい超保湿性ブロックを敷き詰めてもらっています。日本の合繊技術が地球環境にも十分役立つことを認識させられましたが、ミツカワの芝生用ニットも技術は異なれど地球環境に貢献しています。自社技術を駆使して環境問題と取り組む、素晴らしい発想と姿勢ですね。
小松精練は前回お邪魔したとき時間をたっぷりとれず、いま売り出し中の「モナリザ」(1670万色の細密プリントが可能)の工程を拝見できませんでしたが、今回は特別な計らいでじっくり見せていただきました。機械そのものは私たちが普段利用しているパソコンプリンターが巨大になったもの、インク自体もちょっと見では家庭用プリンターのカートリッジと原理は変わりありません。そのサンプル(写真3枚目)見本がショールームに展示されていましたが、この技術をなんとかGINZA RUNWAYで一般消費者の皆さんに見せたい。
バイヤーたちには来春イベントで「高密度合繊織物」、「ハイテクプリント」、「経編ニット」の3つに「スポーツ」を絡めて、日本の合繊技術がどれくらいレベルが高いのか、なぜ世界に冠たるブランドが活用しているのかをお客様にわかりやすく紹介するよう指示してあります。さらに、単発のイベントで終わらせるのではなく、アパレルメーカーと共に継続的に北陸合繊を使って魅力的な商品を開発したいです。
北陸出張前、地元商店街の協力は正式に得られることになりました。3回の産地入りでヒントは山のようにありますから、あとは警察の許可さえ下りれば第2回GINZA RUNWAYは実現します。今春の「ジャパン・デニム」では雨に悩まされましたが、次回は撥水、防水の合繊、暴風雨でも来ない限り雨天決行と考えております。


さて、今朝の繊研新聞2面に「みやしん廃業 物作りに厳しさ」の記事。数ヶ月前、八王子のみやしん宮本英治社長からメールで廃業のお知らせがきましたが、正式に発表されるとやはりショックですね。記事には、「長い付き合いのアパレルメーカーの若い担当者からの唐突な連絡」が廃業を決意するきっかけだったとありますが、この解説に胸が痛みます。「1メートル当たり2000円もする宮本さんの生地は使えませんから」と電話した担当者が私の知り合いでないことを祈ります。
名古屋に近い尾州産地もそうですが、生地メーカーに融資する金融機関は、本業で赤字経営するより広大な敷地を売却するかマンション建設を勧めたがります。都心部に近い工場の敷地は不動産価値が高いので仕方ないことでしょう。でも、先祖代々続けてきた織物製造業を自分の代で廃業したくない、と何人かの経営者は歯を食いしばってモノを作っていますが、供給先のアパレルメーカーやデザイナーブランドから評価されないとなると、心が折れてしまいます。記事から察するに、恐らく宮本社長もそうだったのでしょう。
北陸合繊産地でもよく言われました。「海外は評価してくれるのになぜ日本は評価してくれないのか」。日本のメーカーは「布の価値を云々する前にすぐ値段の話になる」とも。世界のラグジュアリーブランドに高密度素材を供給する織物メーカーの社長は、「韓国の一般アパレルメーカーが大量に使ってくれるのに、どうして日本は使ってくれないんだろう」と嘆いていました。日本はコストカットを素材から入る、つまり素材の質を落としてコスト削減を考えるからだと思います。欧米のトップブランドは素材の質を落とさず、生産工程全体の中でコスト削減をプランする傾向にあります。
産地に同行したバイヤーたちにも何度も言いました。良い素材を使うなら、生地をたくさん使わないデザインを考案するなり、過度に丁寧な縫製仕様はやめる、無駄な付属は省くなりしてコストカットを図れ、数百円、数十円の生地値の違いなら絶対に素材の質で妥協するな、と。
前職であるプロジェクトを立ち上げる際、最初の高密度コート地は私が第一織物で選びました。値段は決して安くありません。そこで、企画担当に「生地をたくさん使わないデザインを考案してくれ」、生産担当には「従来わが社がお願いしている縫製工場は使わず、独自に生産ルートを探してくれ」と命じました。既存の縫製工場はコレクションブランドを手がける腕の良いところ、この新規プロジェクトにはここまでのクオリティは求めないからです。つまり生地はコレクションブランド並み、仕様は標準的レベルで十分、価格はコレクションコートの半分、実際に出来映えの良いコートが安く上がりました。
前回のジャパン・デニムでも同じような話があります。どん底から完全復活した米国のSPA企業、社長命令で「素材の質は落とすな」、デニムは日本製を使用しています。この名物社長がかつて経営再建した米国を代表するSPA企業、最近ほとんど話題になりませんし店頭でも魅力を感じなくなりましたが、こちらは現経営陣の方針なのかほとんど日本製デニムを使用していません。コスト削減から、中国生産の安いデニムを主に使っています。前者は米国視察するたび商品そのものやVMD、ウインドー表現に感心させられますが、後者は近年「視察不要リスト」に私は入れています。経営者が替わるとこうも方針が違うのかと思いますが、後者の元気のなさは素材のチープさにあると思います。
今春ギンザ・ファッションウイークで取り上げたデニムも、今秋の尾州の毛織物も、来春予定している北陸合繊も、中国製に比べたら割高ですが、中国製では得られないクオリティがあります。世界の冠たるブランドがメードインジャパンの織物やニットを使用するのは、このクオリティが欠かせないからです。しかしながら、日本国内では近年安易に安い中国製に走る傾向にあり、産地は疲弊しています。他社にはマネのできな特別な生地を作ってきたみやしんの廃業はメードインジャパン衰退の象徴です。技術を持った織物メーカーが1社でも多く仕事が続けられるよう、日本のアパレル、ブランド企業は素材以外の部分でコスト削減する工夫を研究すべきと思いますし、我々百貨店はメードインジャパンを側面から支援する企画をもっとたくさん立てねばと思います。
来春の合繊の次も、そのまた次のシーズンも、メードインジャパンをお客様に訴求する企画を三越銀座店と一緒に考案したいです。


