法務博士の河瀬季とニシムラミカがファッションと法律を考えるサイト「FASHIONLAW.JP」

ストリートスナップと「肖像権」の関係

ストリートスナップと「肖像権」の関係の画像

ファッションスナップを無断で撮影して公開すると、「肖像権」の侵害として違法になる......少なくとも、違法になる場合がある(参考:ストリートスナップの無許諾掲載は違法なのか | Fashionsnap.com)。しかし素朴な疑問として、なぜ公道で歩行者を、「あのコーディネート良いな」などと思って写真撮影してはダメなのだろうか。
この問題について考えるには、結局のところ、「そもそも肖像権って結局何なの?」という事を考えざるを得ない。そして「肖像権」の正体を探っていくと、ビル・カニンガムからファッション系ブログまで、「ファッションと写真」にまつわる様々な問題を理解することができるのだ(上画像は「ビル・カニンガム&ニューヨーク」公式サイトより)。

「肖像権」は「プライバシー」の一種である

一般的に言われる「肖像権」とは、

自分の顔などを勝手に写真に撮られたりしない権利
撮られた写真を勝手に公開されない権利
の総称であり、そして、プライバシー権の一部と考えられている。......そう、意外に思えるかもしれないが、「肖像権」は「プライバシー権」の一部なのである。

では、「プライバシー」とは何なのか

Instagramで紙のドレスを公開する小さい女の子が世界中で人気になり、Twitter上で粗相をした一般人が一躍時の人になったりする。一度ネットで公開された情報は一瞬で拡散し、手に負えない情報化社会だ。
そんな情報化社会の中で、自分の知られたくない情報を勝手に公開されると、自分らしくのびのび生きていけなくなる。そこで、「人には、知られたくない情報を勝手に公表されない権利がある!」と言われるようになった。これが「プライバシー権」だ。
実は、「プライバシー権」は、法律で明確に規定された権利ではない。「明確な規定はないけど、人には当然そういう権利があるはず」と言われてきて、裁判でも「人にはそのような権利がある」と認められてきた権利......という感じなのだ。
そして、自分の顔や姿についてのプライバシー、つまり「自分の顔や姿を勝手に撮影・公開されない権利」を特に肖像権と呼ぶ。「勝手に」というのが問題だから、許諾があれば肖像権侵害ではない。

「肖像権」と「表現の自由」

肖像権の侵害は、写真が無許諾で撮影・公開されたときに起こる。
しかし、プロカメラマンが自ら撮った写真を作品として公開することも、私たちがスマホで撮った写真をInstagramにアップすることも、表現の自由として憲法上保護された行為である。
そこで、無許諾撮影が必ず違法......というわけではない。違法かどうかは、共に重要な価値を持つ「プライバシー(肖像権)」と「表現の自由」の調整によって決まるのだ。

スナップ写真家の写真と「肖像権」

スナップ写真を撮る写真家と言えば、日本では「STYLE from TOKYO」のシトウレイさんが有名だ。彼女の写真は、被写体がこちらを向いてニッコリと微笑み、許可を取ってカメラを向けていることがわかる。おそらく、ウェブへの掲載も許可をとっているであろうから、プライバシー侵害は全くない。
一方、ニューヨーク・タイムズ紙にスナップ写真を掲載するビル・カニンガムは違う。ビルは、写真を撮る時にいちいち名乗ったり許諾を取ったりしない。しかし、去年公開されたドキュメンタリー映画「ビル・カニンガム&ニューヨーク」のコピーは「彼に撮られることこそが、ニューヨーカーのステータス」。ビルに写真を撮られることはNYのファッショニスタにとって名誉であり、ビルを知る人は、彼がカメラを向けると喜んでポーズをとる。これは、言葉を交わしていなくても許諾があるとみなしてよいだろう。......そう、「許諾」は、黙示のものでも良い。

ビル・カニンガムの写真は違法?

しかし、同映画には、ビルが道行く若い人の写真を撮り、勝手に撮るな、と怒られるシーンもある。これはまさに肖像権の侵害で違法なのでは?
もし筆者がビル・カニンガムの弁護士だったら、二個の反論をしてみたい。
まず、許諾は撮影後であっても、公開後であってもよい。たとえビルの顔を知らなかった若者も、ニューヨーク・タイムズ紙にビルの賞賛のコメントと共に写真を掲載される名誉を得たなら、きっと公開後に黙示に許諾を行い、文句を言わないはずだ。
次に、自由の国アメリカでは、表現の自由は強く保護される。神様ビル・カニンガムの表現の自由は、仮に許諾がない場合だって、「肖像権」との調整のレベルできっと勝つはず。......というのは、ちょっと苦しい反論かも。

(執筆:ニシムラミカ / 監修:河瀬季)