法務博士の河瀬季とニシムラミカがファッションと法律を考えるサイト「FASHIONLAW.JP」

ファッションの未来を発明する1日「100人の大会議」レポート

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「100人の大会議」開会式

6月29日、「ポストファッションプロジェクト」によるイベント「ファッションの未来を発明する1日「100人の大会議」が、台東デザイナーズビレッジにて開催された。デザイナーや製造、流通、デザイン、ウェブ開発、企画、ネットビジネス、投資、法律、広告、建築、行政など、様々な世界で活躍するキーマンが集まり、「ファッションを通して未来を考える」という目的で会議を行う、というイベントだ。スタッフとして参加した、FASHIONLAW.JPの法務博士 河瀬季とニシムラミカによるレポートをお届けする。

「100人の大会議」とは?
100人が一堂に会する会議は、以下のような手順で行われた。

1. 参加者一人一人が、「これからのファッションには○○という視点・考え方が重要だ!」というキーワード(とその解説)を紙に書く
2. お互いのキーワードを読み、面白いと思ったものに付箋紙でコメントを付けていく
3. 付箋紙が多数貼られているキーワード14個が選ばれ、各テーブルで参加者がディスカッションを行う

1,2の間、参加者は番号で識別される。従って、「あの有名な○○さんの言うことだから......」というネームバリューは関係ない。純粋な内容勝負だ。


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参加者一人一人が書いたキーワードが掲示され、各参加者は面白いと思ったものを選ぶ

○ファッションの未来を発明する14のキーワード

上記の方法で選ばれたキーワードは、以下の14個だった。

(1)違法でもいいのでは
(2)NERD/GEEKに負けない
(3)新たな民族衣装の創造
(4)月並みですがOPEN
(5)少し前から売る
(6)シンデレラ・テクノロジー
(7)服育
(8)エンジニア
(9)流れの遅いもの
(10)批評
(11)1秒の共有
(12)手ぶらカッコイイ
(13)BODY AREA INTERFACE
(14)出る杭保全計画

これらの各キーワードは、明らかに、各参加者が共有する問題意識などを反映している。以下、上記の順序には拘らず、各テーマの内容やディスカッションの模様などについて解説する。

○ハイブランドを中心としたファッション業界の閉塞感


ハイブランドを中心とする業界構造が、終わりつつある。現在のファッション業界には、どのような問題点があるのだろうか。
「(4)月並みですがOPEN」は、外から見てファッション業界は「閉じている」という点を問題視する。ファッション業界に関わる人は、外から見ても何ができる人なのか分からない。ファッションはアートなのか産業なのか分からない。ファッションウィークなどのイベントは都市空間に現れておらず、いつどこで開催されているのか分からない。......といった意味で、現状のファッション業界は「閉じている」という問題意識だ。
「(8)エンジニア」は、「ファッションはテクノロジー的な最先端の素材を取り入れるべき」といった問題意識だったのだが、ディスカッションでは、「そうしたテクノロジーに明るい人は既にブランドの中にいる」ということが指摘された。そして、「中にいるにも関わらず、外から見えないことが問題である」というテーマについて議論が行われた。
「(10)批評」は、映画などでは行われている、創作と批評の相互巡回が、ファッションでは行われていないことを問題視する。売上は重視されるが、しかし例えば東京ガールズコレクションなどにおいても「批評」は行われていない。結果として作り手のプロセスが外に出てこないのではないか、といった声もあった。

○法律はファッションを阻害しているか

「(1)違法でもいいのでは」は、ファッション業界における制作過程において、法律遵守のためのコストが極めて高くなっているという懸念を示す。ファッションは、そもそも模倣やパクリとの距離が近い業界であり、「グレー」が多い。その結果として、法律を守ろうとする「マトモ」な人ほど自分で制約を作っているのではないか、という問題意識だ。
実は、法的な議論としては、ファッション業界における「パクリ」は、基本的に合法だ。例えばパターンやデザインを「パクった」としても、裁判上で負けることは通常あり得ない(詳細は本稿では割愛する)。
作り手の「ギリギリを狙っていきたい」といった感覚との関係では、多くの場合に問題なのは、どちらかといえば、「法律」というより、「パクリがまかり通っているのにパクっていないフリをしないといけない」ということなのかもしれない。
そしてさらに言えば、これは、現時点でファッションに関わる法律家の多くが、「事後的に自分の責任を追及される事態を避けたい」といった動機から「逃げ腰」であることにも原因がある問題なのかもしれない。

○ネット時代における消費のスピード感
SNSなどの普及によって、情報が消費されるスピードが上がっている。
「(11)1秒の共有」は「リアルとネットの調和」などを扱うキーワードであったが、実際にディスカッションで盛り上がった話題は、「そもそも共有は人間にとって良いものなのか」という点であった。SNSによる情報のフロー化により、「じっくり考える」ことが少なくなっている。しかし、デザインにとって「分かりやすさ」が本流で良いのか。デザインの思想や哲学などを復興させなければならないのではないか、といった問題意識だ。
「(9)流れの遅いもの」は、ファッションに限らず、ゲームや音楽なども消費のスピードが上がっていることを問題視し、「ファストファッションの逆」としての伝統工芸などを再評価するものなのだが、詳細は後述する。

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各参加者が付箋紙でコメントを付ける。特に盛り上がったのが、今回紹介する14テーマだ。

○一点物やDIYなどのマーケット

以上のような問題意識の中で注目されつつあるのが、ハンドメイド作品のフリーマーケットサイト「tetote」等によって盛り上がる一点物、3Dプリンタなどのデジタル・ファブリケーションを使ったDIYなどだ。
「(5)少し前から売る」は、オーダー生産やセミオーダー、フルオーダーなど、完成品がない状態で商品を顧客に販売する方法論に着目する。特にセミオーダー、つまり「ある段階までは作ってあり、色など最後の部分をユーザーに選ばせる」という方法は、NIKEiDやUTme!など、既に大企業が参入しており、非常に注目度が高い。
別の視点からデジタル・ファブリケーションに注目するのが、「(6)シンデレラ・テクノロジー」だ。目が大きくて鼻が高いプリクラをSNSのプロフィール画像として利用する感覚を「加工した自分が自分」と説明し、さらに、これをリアルでも「再現」するためにテクノロジーを利用する。「プリクラの自分のような自分になるための付け睫毛を3Dプリンターで成形する」といった方法論である。


○ファッションにおける初音ミクとは
DIYは、基調講演を行った慶應義塾大学環境情報学部専任講師の水野大二郎氏が以前から提唱しているキーワードでもある。氏はさらに、「自分のために作るDIY」に続くのは「他人と作る/他人のために作る」である、と語る。初音ミクやくまモンなど、ある程度自由な二次利用による活性化をファッションでも実現できないか、という視点だ。
法的に言えば、これは、「権利をガチガチに守る」と「権利を放棄する」の中間系として、「ある程度自由に利用させる」ための仕組みを作る、という問題である。現時点で一番有名なのは、クリエイティブ・コモンズだろう。作り手が「こういう風に二次利用してね」と明記するためのライセンスである。
ただ、上記の「(1)違法でもいいのでは」は、クリエイティブ・コモンズからの離脱例も紹介する。クリエイティブ・コモンズは、良くも悪くも、「何がOKで何がNGか」を明確にするものだ。ファッションの中におそらく存在する、「曖昧なのが良い」「より曖昧にしていきたい」といった感覚は、クリエイティブ・コモンズとは必ずしもマッチしない。

○現在のユーザーは「選択」を楽しんでいるか

ただし、DIYは、ユーザー側に「選択」を楽しむ感覚があることを前提にする。
「(14)出る杭保全計画」は、大学生が皆似た服を着ている!といった話にも代表されるように、日本の風土や教育では「出る杭」がなかなか出てこない、という点を問題視する。ディスカッションに参加された明和電機さんは「コアラ理論」を提唱し、これは
・逃げるしかない
・弱い/ストレスで死ぬ
・骨ない
・ドMになる
とのことなのだが、意味はいまいち不明である。
「(7)服育」は、同様の問題意識から、選択の楽しみを教える必要性を提唱するものだ。


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選ばれた14テーマについてテーブルが設けられ、参加者同士でのディスカッションが行われた

○ファッションとテクノロジー

「ハイブランドからファストファッションへ」といった流れとは別に、現代のファッションにとってもう一つ無視できない存在が、「テクノロジー」であり、最近特に注目されているのが、GoogleGlassなどのウェアラブルガジェットだ。
「(2)NERD/GEEKに負けない」は、ウェアラブルガジェット時代においてはテクノロジーサイドが「人の身につけるもの」を先導する流れがあり、そこにファッションが反映されていない、という問題意識を持つ。
ディスカッションに参加された投資家の方は、投資の視点として、テクノロジー/コンセプトが明確なものの方が投資を行いやすい、というポイントを指摘する。そして、投資家サイドがテクノロジーとデザインのマッチングに関わることができれば、という見解を示す。
「(12)手ぶらカッコイイ」も、デジタルガジェットの進化によって「手ぶら」が可能になりつつある現状にフォーカスしつつ、ファッション側の人間がガジェット等を提案するのもアリなのではないか?と述べる。
「(13)BODY AREA INTERFACE」は、「あらゆる物がインターネットに繋がり情報共有を行う時代が訪れる」という前提の上で、ファッションにはインターフェイスとしての可能性がある、と述べる。
ウェアラブルガジェットの登場は、人間の肌の面積をファッションやテクノロジーなどが「取り合う」時代の訪れを予感させる......と、一部識者は指摘する。サングラスブランドはGoogleGlassと、時計ブランドはスマートウォッチと、人間の肌を「取り合う」ことになる。
上記の各テーマが指摘するように、現状ではファッションとテクノロジーは分離しており、それらの融合が必要である......ということは、多くの参加者間で共有されている問題意識に思えた。

○「日本」の文化や衣装の再評価

以上のような問題点を抱え、また以上のように変革を迫られているファッション業界にとって、一つのキーワードとなるのが、「日本」を再評価する、ということだった。
「(3)新たな民族衣装の創造」は、日本食と同じように世界に「日本」の衣装を提案することができないか、と述べる。アラブやトルコでは既に「民族」を取り入れたファッションデザイナーが注目されており、日本でも同様に、平面の展開力などを活かした、単に懐古的なだけではない、現代的な新たな「民族衣装」を提案することができないか、ということである。......ただし、「それはコム・デ・ギャルソンがとっくにやっている」という声もあったようだ。
上述の「(9)流れの遅いもの」も、時間の流れの外にあるものが「ラグジュアリー」なのではないか、という見解を示す。
日本を分析し、「ファスト」な時代においても普遍的なものを取り出し、「ラグジュアリー」を提案しよう、という視点だと言えるだろう。
染色を手がける参加者の方は、伝統的な染色は病を治す/肌をキレイにするといった機能のある素材を利用していた、と指摘する。「人間の肌の面積の取り合い」において、伝統的な染色は、病を治す/肌をキレイにするといった機能を持つ「ウェアラブルガジェット」である、とも言える。

○会議は「ハッカソン」たり得たか
今回のイベントは、「ハッカソン」を志向するものであった、と運営スタッフは述べる。IT業界で行われている、エンジニア等が一堂に会してアイディアの出し合いから実現までを一気に行うイベント「ハッカソン」のファッション版、ということである。
ただ、実際に行われたのは「アイディアの出し合い」という段階までであり、ビジネスなどに落とし込むプロセスは今後別途必要であろう、という見解が示された。
こうした議論が特に行われたのは、「(5)少し前から売る」である。
そもそもこのテーマは、ファストファッションの消費とは対極にある「自分で作る」ことへの満足感に着目し、「完成品ではなく、買い手に完成までの選択の余地を少し残したものを売る」というビジネスの方法を提案するものである。今までは売る側が商品に「ブランド」という付加価値を付けていたが、買う側が付加価値を付けられるようになる。他のテーマにも通ずる、時代の流れを反映した視点である。
しかし、「買い手に選択の余地を残す」という販売手法には、「プロセスを公開すると原価が見えてしまい、ビジネスとして成り立たない」という問題がある。この問題を、いかに解決するのか。クラウドファンディングなど、新たな方法論に着目する声もあったが、結局、「想定するビジネスの規模や、プロダクトや領域次第」というレベルの結論にとどまった。

○新たなビジネスモデルの構築は今後の課題
今回のイベントは、YouTubeでも一部が公開されている。

参加者同士や、動画を見た人などにより、今後具体的なビジネスなどが生まれていくことに期待したい。