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UA粟野宏文氏らが語る、これからの世界のファッション教育に必要なこと

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ここのがっこう代表で、「リトゥンアフターワーズ」デザイナーの山縣良和さん主催によるシンポジウムが東京・上野にある東京藝術大学で行われました。日本と世界、それぞれのファッション教育の現状や考察など、様々なゲストスピーカーなどによる興味深い話が展開されました。

第一部では、ファッション業界や教育機関の情報を蓄積するコルクルーム代表の安達市三先生による、日本のファッション教育の始まりについての講演が行われました。また第二部では、ユナイテッドアローズ(以下、UA)上級顧問でイギリスのロイヤル・カレッジ・オブ・アート(以下、RCA)名誉研究員の栗野宏文さん、セントラル・セント・マーチンズ美術大学講師の西尾マリアさん、そして山縣さんによる世界のファッション教育についてのパネルディスカッションが繰り広げられました。

ファッション業界またはファッション教育に携わる多くの人々が知っておきたいトピックの数々が登場したシンポジウムの模様をレポートします。

日本のファッション教育の始まり

ファッション業界での仕事に携わって58年目を迎えるという安達先生は桑沢デザイン研究所を卒業。後に同専門学校の講師をはじめ、実践女子大学、女子美術大学、IFIビジネススクール、そして東京ファッション専門学校などで教壇に立ち多くの生徒たちと向き合って来ました。安達先生は、当時のファッション教育機関は大きく三つに分けられると考えています。

まず、大正時代から始まった和洋裁の学校。大正2年設立の松屋呉服店和服裁縫部(現東京ファッション専門学校)、大正8年の並木婦人子供服裁縫教授所(現文化服装学院)などで、これまでのファッション界の中心にあって人を育て、リードしてきました。そして、その後大正10年に設立された「自由で独創的な学校」「小さくて善いものを」「感性豊かな人間を育てる」を狙って設立されたといわれる文化学院に代表されるところ。日本で初めての男女平同教育、共学を実現したといわれており、多くの芸術家、作家、俳優、イラストレーター、デザイナーなどを輩出してきました。

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「これから大事なのは、多様性への理解と寛容さ、そして教育で大事なのは生徒の好奇心をどのように刺激し、"個"を伸ばすかということではないかと考えています。この58年間ファッション業界でデザイン、ビジネス、教育と様々な分野に携わってきましたが、出会ってきた人々に常に教えられ、支えられてきたから今の自分があるように思えてなりません」。

ファッションを社会潮流の一つとして捉えることの重要性

第二部は、世界のさまざまなファッション教育を見てきた栗野さんのお話からスタートしました。

栗野さんはRCAの名誉研究員を2004年に授与されました。。そのきっかけとなったのは、2000年から8年間、UAがRCAの優秀な生徒のショーを支援するというものでした。最優秀賞を受賞したデザイナーには「Erdem」なども含まれていたといいます。その前後にもアントワープ王立芸術アカデミーやフィレンツェのポリモーダ校などの卒業コレクションの審査員を務めてきました。

「様々なデザイナーが学生の時には何をやってきたのか、異なる場面で見せてもらってきました。特にアントワープ王立芸術アカデミーの卒業コレクションは町中の人にとってのお祭りとしての楽しみでもあり、毎年印象的。一種の村おこしのようなイベントとなっています。全学年の全生徒がショーで発表するチャンスが4年間ずっとあるのです。1年生からの成長の過程を見ることができ、とても勉強になりました」と栗野さん。

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セントラル・セント・マーチンズ美術大学(以下、セント・マーチンズ)留学時代によくアントワープに遊びに行っていたという山縣さんも「2000人くらい入るファッションショーでかなり衝撃を受けました。4年間びっしりカリキュラムがあり、それぞれの学年で個性や特色が出ていて、すごく面白いと感じていました」。

栗野さんからは、現役デザイナーであり、アントワープ学院で指導を続けるウォルター・ヴァン・ベイレンドンク氏から、受け取ったというイヤーブックについてのお話もありました。「これが毎年すごくよくできていて、今年版にはこの1年間年に起きた国際的な事件についてのヴィジュアルが差し込まれています」。

栗野さんご自身もクリエイティブディレクションをする上で一番大切にしていることは、社会潮流だといいます。「ファッションの一番楽しいところは自ら着て歩けるということ。自分のセカンドスキンであり、ただそこにある物質というわけでもなく、かといって見せびらかすものではない。作る側、売る側、それに買う側も社会潮流と全く無縁でないと思います。そんなことを考えていたら、アントワープの今年のイヤーブックがまさに社会潮流を考えた内容でした。世の中で起きていることから私たちが買ったり着たりする服が影響を受けているということは、自社のスタッフにもよく伝えるようにしています」。

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(アントワープ王立芸術アカデミーのイヤーブック)

デザインの作り方そのものを自ら考える力を養うセント・マーチンズ

セント・マーチンズで講師を務める西尾さんからは、同校ならではの教え方についての言及がありました。「セント・マーチンズでは、ブリーフィングというプロジェクトに関する用紙が渡され、軽い説明のみから始まります。各自スタジオやライブラリー、どこでも外に行きリサーチしてもいい。週一、ニ回先生とのミーティングがありますが、何かを教わるということはほとんどありません。そこから学ぶのは、全部自分で考えなくてはいけないということなんです」。

学び足りないと思うこと、知りたいことがあれば、いくらでも聞きに行くことが可能だという西尾さん。「デザインの形はこうだと教えてしまうとパターン化されてしまいます。私たちは個性をつぶさないことを大切にしています。だからサポートや、ガイドすることに注力しているのです。作り方そのものは、原点から考えなくてはいけません。でもだからこそ、現場が一番楽しいと学生もスタッフも感じます」。

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また、セント・マーチンズでは現在サステイナビリティについて力を入れていると言います。「リサイクリング、アップサイクリングを始めその他、どんなソリューションがあるのか、学生たちと一緒に考えていかないといけません。自分たちの将来に関わることだから、若い子たちはすごく興味を持っています。ものを作るということは、"物のライフサイクルの最初を作る"ということ。そのサイクルを考えるこということが大切だと改めて気づかされます。無駄なものを作る余裕はもう地球にありません。サスティナビリティも含めていいデザインをつくることが必要なのです」。

これに対して山縣さんは、「僕がセントマーチンズを卒業して11年。かなりアップデートされていると感じます。ファッションと社会の役割を考える流れになってきていて、ファッション教育も、それを考えるきっかけ作りを提供する場として変化してきていると思います」。

日本から世界に飛び立つデザイナーを育てるために
最後に栗野さんは、ここのがっこうについても話をされました。「僕自身、受験した大学は一校だけでしたが、おかげさまで4年間充実していました。僕にとって学校とは、教えてくれるところではなく、自分の手で学びをつかむところだったんです」。

そんな栗野さんが日本の教育で感じることは、「箱に入れようとする。まず否定から入る、減点法が基本になってしまっている。これではのびのびした発想の若者が育ちにくいと思います。自由な環境で、自由に服を作ることができるここのがっこうには、いろんな学びがあると感じます。ここまで色々なコンテストに参加できて、かつ認められている学校って珍しいですよね。自由にクリエイティビティを伸ばせてオーソライズされないところがあるのがいい。許容してあげることこそ、今の日本のファッション教育に求められていることではないかと思っています」。

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最後に山縣さんは「もともと僕がなぜ海外とコミュニケーションを取れたのかというと、プリミティブなところまでクリエイションを考えたからだと思うんです。ここのがっこうを運営するようになり、学生の作品にふれることで、その感覚がよみがえるんです。ここのがっこうはアカデミックな機関ではないですが、これからも独自のやり方を続けていきたいと思います」。

世界と日本のファッション教育の現状の違いを知ることができ、これからの日本の教育に何が必要なのか、考えさせられる内容のシンポジウムでした。また、社会潮流のなかでファッションについて考えることの大切さを感じさせらました。ファッション業界で働く人にとって、より幅広い視野で活躍するための大きなヒントになりそうです。

(Text: Etsuko Soeda)