ファッションジャーナリスト

"メタボセクシャル"の衣食日記(4-2)―さとうかよさんのこと

そのファッションデザイナーは、小学1年生のような目をしていた。純粋無垢という表現がそのまま形になったような目。かの女は27〜28歳で、見目麗しい大人の女性だったけれど、目だけは子供のままだった。30数年いきてきて、初めて出会ったタイプの人だった。

かの女の本職は現代美術家で、「STOF(ストフ)」を主宰する谷田浩とともに、ファッションブランド「bedsidedrama(ベッドサイドドラマ)」を立ち上げたばかりだった。賑やかだけど軽やかな雰囲気で、ちょっとだけ毒のある不思議な洋服だった。いらい、見られなかったシーズンもあるけれど、展示会や個展に足を運び、かの女の作品に触れてきた。

「わたしストフ辞めたから」と聞いたのは、2010年のことだった。それまでも幾度か辞めたいみたいな愚痴を聞いたこともあったけれど、冗談だと聞き流していたから、とても残念だった。「アートとファッションの融合」は昔も今も繰り返されてきたことだが、現役バリバリの現代美術家がフルラインのファッションブランドを同時に手掛けるケースは世界的にも稀で、もしかしたらかの女だけだったかもしれない。私はずっとかよさんのファッションショーをみたいと思っていた。表層をなぞっただけではない、本当の意味でのアートとファッションの融合が見られるのではないか、と思っていたからだ。

それを前後して、かの女は病を患っていた。入退院を繰り返しながらも、展示会や展覧会に積極的に顔を出していて、本当にアートとファッションと生き物を愛する人なのだと思っていた。仲間のデザイナーたちにはイラストを提供し、仲間のデザイナーたちはかの女の制作の場を最良の薬のように提供していた。その微笑ましく優しさに満ちた関係性を、じぶんは文章にせずに見守ってきた。

昨年、かよさんは35歳の生涯を閉じた。訃報を知ったのは友人の友人のFacebookで、谷田のそれにはそれらしきことは一度も書いていなかった。ブランド創設10周年を記念して、ベッドサイドドラマの初めてのショーをやると聞いたとき、真っ先にかの女の顔と目を思い出した。

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でも、Facebookの件があったし、変化球しか投げない谷田のことだから、感傷とは無縁のショーにしてくると予想していた。ファーストルックは、白のロングシャツを着た三つ編みのふたり。よく見ると、ふたつのシャツは繋がっていて、三つ編みまで相互に浸食している。2ルック目で私の涙腺は壊れかけた。ゆるいロンパース姿の女性の首元に、かよさんの代表的な作品である動物のぬいぐるみがぶら下がっていたからだ。続く白地に水色の総柄のオールインワンも見覚えのあるものだった。もはや谷田のなかのかの女の記憶と思い出を紡いでいるのは明らかだった。

溢れ出そうなものを我慢しながら、ショーは淡々と続く。ベッドサイドドラマを見るのは本当に久しぶりだけれど、足し算と引き算のバランス感がとても上手い。俯瞰すれば間違いなくカワイイの範疇に入るのに、こっそり毒が隠れている。ちゃんと現代的になっているけれど、本質はあの頃となにも変わっていない。

足につながれた鎖の先には鉄球、ではなく紙のぼんぼんが結ばれている。地獄ではなく天国用の鎖である。最後にトレンチコートとブーケを抱えた女性が登場する。足元はリーボックのポンプフューリー。かよさんの生前の姿そのものだった。ザ・タイマーズの「DAY DREAM BELIEVER」が会場を木霊する。私の涙腺はここで完全に崩壊した。清志郎はこう歌う。

もう今は かの女はどこにもいない
朝はやく目覚ましが なっても
そういつも かの女と暮らしてきたよ
ケンカしたり 仲直りしたり

でもそれは とおいとおい思い出
日が暮れて テーブルにすわっても
Ah 今はかの女 写真のなかで
やさしい目で 微笑む

ずっと夢を見て 安心してた
僕は Day Dream Believer そんで
かの女はクイーン

ずっと夢見させて くれてありがとう
僕は Day Dream Believer そんで
かの女がクイーン

(日本語歌詞:ZERRY 作詞作曲:John Stewart)

ベッドサイドドラマの10周年を祝う初めてのショーは、谷田とかの女の10年の物語であり、谷田からかよさんに宛てたラブレターであり、谷田の死生観を表現したものだった。冒頭の繋がった白シャツと中盤の黒白のオセロのようなシャツが主張するように、生と死は表裏一体である。誰もが経験することであり、誰も避けることができない。でも、故人とは現実社会では逢うことはできないけれど、夢想すればいつでも逢うことができる。記憶はずっとその人の心の中で生き続けるし、いつでも取り出すことができるのだ。

>>bedsidedrama 2017年春夏コレクション

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【増田海治郎 "メタボセクシャル"の衣食日記】
"メタボセクシャル"の衣食日記(4-1)―日本とトルコのストリート対決

増田海治郎