ファッションジャーナリスト

モードノオト16.10.21

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バーテンが止める暇もあらばこそ、私ときたら彼の前に顔を突き出し、拳固を振り回しながらわめき散らすと云う醜態ぶりであった。何故、ひとと巧く付き合えないのだろうか。いつもの如く、愁嘆場を演じる仕儀に立ち至ってしまった。今晩はとりわけ惨めだった。メーン会場のエントランスで汗だくになっているセキュリティーと一悶着を起こすは(このボンクラとは因縁浅からず、いつかは埒をあけたいと思っているから、せいぜい覚悟しておけよ)、いつもの酒場でジンをガブ飲みする私を、恰もウジ虫を見るような一瞥をよこした見ず知らずの女が(こちらがまったく下心がないにも拘らず)、バーキーパーに「席を移ってもいいかなぁ」なぞホキ出し、それでなくても虫の居所の良くない私を逆撫でするような言動をしてみせたのだった。いったい、他のひとと何が違う?どこか悪い?よくせき厭世的な性質なだけに、こんな夜だから、暴挙に出ても可笑しくないだろう?だがしかし、ありとあらゆる云い訳が、風に吹かれて落ちる秋の落葉さながらに降り注いだだけ。余韻のあるプレゼンテーションに酔い痴れると云う折角の気分に、随分と横槍を入れてくれたものである。先程の「YUIMA NAKAZATO」のインスタレーションは、作り手の今後の進路を決める試金石となる内容だった。いまだ低空飛行しか許されないが、ある種の煌びやかなバッジを受ける資格を中里唯馬は持っている。

mugita_20161022_03.jpgホログラムをメーン素材に、3Dプリンターの技術を採用した近未来的な作品は、今年七月、パリのオートクチュールコレクションに初めて参加して問うた作品を、見せ方を含めて数段ブラッシュアップした内容だった。昔、故リー・アレキサンダー・マックイーンがパリコレクションで見せてくれた空中投影の神秘は、いまでも鮮明に記憶している。ドレスを纏ったケイト・モスが宙に舞う姿は圧巻だった。さて、今回の演出について説明しておこう。暗闇の会場には、七つの円柱状のブース(巨大なフィッティングルームを想像して欲しい)が設営されている。ブースの内側は全面、服に使用したのと同じホログラム張り。そのブースに、星屑をちりばめたような銀河のドレスを纏ったモデルが入る。回転台に乗ったモデルを発光ダイオードが照らし出す。すると光を受けた服と内壁のホログラムが相互に反射し合い、その結果、服の上に立体的な虚像を結ぶと云う仕掛けだ。凹凸に富んだ服の設計が、反射で生まれる虚像を一層ダイナミックなカタチにしている。こうしたトリッキーなプレゼンテーションは、一歩間違えると稚拙極まりない結果に堕ちるリスクを孕んでいるが、これは歴としたエレガンス。飽く迄も綺麗だ。そして「異形のエロス」が一貫して描かれている。その実、ロジック(服の細部)もまた、そのエロスのカタチを可視化するための道具立てなのだ。着用の機会は確かに制約を受ける。仕掛けがなければ、虚像のファンタジーは生まれない。3Dプリンターで制作した腕の完成度がいまひとつだった(モデルの両腕をドレスの内側に隠し、偽の腕をドレスの袖口からテグスで吊っていた)。等々、アラを探すのは易い。しかし、果敢な提言と云うのが順当であり、まさに虚実皮膜(きょじつひにく)の隙間を狙った創作は大いに喝采を博するものだった。

mugita_20161022_034.jpgホログラムはデビューコレクション(2011年春夏シーズン)より使っている、中里にとって特徴的な素材のひとつだ。そして、2016-17年秋冬シーズンには、パリの合同展に初参加。従来の「ホログラムシリーズ」(ウィメンズのバッグをメーンに構成)の進化版として、これまでのモノに比して数段摩擦に強く、疵がつき難いテクスチャーを提案している。近未来志向(誰も見たことのない服)を標榜することに懸命になり、カタチやテクノロジーだけに依存して、結果、ドグマに陥る例は少なくない。しかし、中里はそうではない。だから私は、中里の個性的な着眼点、発想の転換に惹かれるのだ。ホログラムは、ややもすると未来的かつ、人工的なイメージが先行する素材である。しかし中里はそこに、自然を含めた森羅万象の神秘を重ねている。たとえば、朝日や落陽の色彩、海の色や氷河と云ったように。自然界の色相は一定ではなく、それは常に変化し続け、何色とも表現し難い微妙なニュアンスを持っている。そこに、角度や映り込む色、反射するときの色で様々に変化するホログラムの特性を応用しているのだ。「どうしても天然の色素だけでは表現出来ない色を、人工的な絵の具で描出するような感覚です」と中里は云い切る。自身の活動に加えて、これまで国内外のアーティストや映画、舞台衣裳をデザインしてきた。「手掛けたデザインはこれまで数百体を数えます。その都度、人体にも個性があることを改めて実感してきました。身体の個性に照らし合わせて機能と装飾を考えていくと、独りでに着る人の動きや個性が活きたデザインが生まれます。個性の表現は、ファッションが本来持っている大切な役割ではないでしょうか」。今後の健闘を切に願う次第である。

>>YUIMA NAKAZATO 2016-17年秋冬コレクション

【ファッションジャーナリスト麥田俊一のモードノオト】
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麥田俊一