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トランプ大統領が環境に及ぼす影響

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ドナルド・トランプ次期大統領が環境保全対策および地球温暖化対策に大きな変更を加えようとしている。これに対して、世界の学者や専門家たちはどう反応したのだろうか。

地球環境や地球温暖化に問題意識を持っている人なら、今後ドナルド・トランプ次期大統領とその政権によって環境問題関連の政策が変えられてしまうのではないかと不安していることだろう。

トランプ次期大統領の動向に関して言えば、彼が具体的に何をどうしていきたいのかすら、皆目見えてこないというのが現状だ。予期せぬ言動で知られるトランプ----歴代大統領のほとんどが政界での経験と兵役の経験を持ち、実体験をもとに実現可能な政策の決断をし、未来予想図を示してきたのに対し、トランプはそのどれも経験していないのだ。

しかし、トランプのこれまでの発言と、彼が閣僚として指名した人物らを見れば、おぼろげにではあるが未来予想図が見えてくる。しかしこの未来予想図、考えれば考えるほど、我々は楽観的ではいられない。

トランプは以前、Twitterで「地球温暖化という概念は、アメリカの競争力を削ごうと中国が自国のためにでっち上げたもの」とツイートして物議を醸している。共和党の集会では「環境保護庁は解体する。長期的に見れば、得るものは大きい」とも発言。また、オバマ現大統領が「2030年までにCO2排出量を30%削減する」として立ち上げたクリーン・パワー・プランからも撤退するとまで発言している。

これまでにもトランプはキャンペーンの中で荒唐無稽なことを数多く口にしてきた。誇張にすぎる発言を辿って、彼自身もまたそのひとつひとつを検証しなくてはならなくなるだろう。すでに、11月13日放送のテレビ番組『60 Minutes』でのインタビューで、トランプ自身が過去の発言を振り返り、「傷つけたいわけじゃない。人としては良い人たちだからね」とヒラリー・クリントン告訴の宣言を取り消したり、同性婚を再び違法にするという公約を覆したりしている。トランプを支持してきた共和党支持者でさえも、多くは彼の公約を実現可能とは思っていなかったようで、58%の支持者が「国境の壁の建築費はメキシコに払わせる」という案を「実現不可能だろう」と考えているというのだから驚きだ。大統領候補に名乗りをあげる政治家は誰でも、守るつもりのない公約を多かれ少なかれ叫ぶものだ。しかし、トランプは環境保護団体や科学者を震撼させた公約に関しては、それを守るべく準備を整えているようだ。「二酸化炭素などの温室効果ガス排出を制限することで、産業革命前からの世界平均気温上昇を2度未満に抑えよう」という内容で、アメリカを含む世界200弱の国々が署名・参加し、今年11月4日に発効されたパリ協定。トランプは選挙戦の演説で、この協定からの脱退を宣言していた。

これに関連し、ロイター通信は「間もなく発足するトランプ政権が協定から離脱する方法を模索している、と側近が語った」と報じている。協定からの離脱には、申請から4年間が必要とされる。しかし、トランプのチームは4年を待たずして協定から離脱するべく動いているというのだ。ロイター通信が接触したトランプの側近は「大統領選の結果が出る前にと発行を急いだパリ協定にこそ問題がある」と憤りをあらわにしたという。温室効果ガス排出量において、アメリカは中国に次いで世界2位。とすると、アメリカが協定から離脱すれば、それは地球にとって大きな痛手となる。それは致死的な痛手なのだろうか?

「もともとの目標が達成の難しい数値です。それでも、協定参加国がそれぞれ目標達成に向かって懸命に取り組めば、実現は可能です」と、プリンストン大学で地球科学・国際情勢を教えるマイケル・オッペンハイマー(Michael Oppenheimer)教授は『The New York Times』紙に語った。オバマ政権下のアメリカが目標として掲げた温暖化効果ガス排出量削減値は、世界全体が2016年から2030年までに削減しようと掲げている目標値の5分の1に相当する。

そこでアメリカが離脱すれば、協定に参加する他の国々からも目標の放棄が相次ぐのではないかと心配する声が囁かれはじめている。

しかし、この動きに対し闘いの姿勢を見せる動きはより大きい。「アメリカがパリ協定に参加するか否かという議論に関して、私たちは傍観など許されないのです。これは私たち全員に、そして人類の未来に残していく環境に大きな影響を及ぼすものですから」と、米国科学アカデミーのベンジャミン・サンター(Benjamin Santer)は、テクノロジー専門ウェブサイト『The Verge』に語っている

トランプが「解体する」と主張し、28の州と多くの企業が立法に難色を示していたクリーン・パワー・プランに関しては、最終的には最高裁で争われることになる。法律の専門家であるネイサン・リチャードソン(Nathan Richardson)は、トランプが今後、クリーン・パワー・プランを積極的に支持しないことで立法を断念させ、トランプ政権はそれを環境保護庁に差し戻してその内容を大きく改訂させるだろうと見ている。同氏はまた、トランプがこの他にも環境保護庁解体に関し大胆な手段をいくつも模索していると明かしている。

このような恐ろしい状態は、トランプが環境保護庁の移行をシンクタンクCompetitive Enterprise Instituteのマイロン・エーベルに任せるという暴挙に出たことでさらに現実味を帯びてきた。エーベルは地球温暖化に懐疑的で「大きな問題ではない」と公言したことで、気候変動の分野において知られるようになった人物だ。2007年、『Vanity Fair』誌とのインタビューでは「多少の温暖化は見られるものの、劇的なものではなく"自然変動"の範疇。それが人間によって引き起こされたものかどうかはまた別の議論で、これは心配に値しない」と語っている。

トランプはまた、エネルギー省の移行に、エネルギー関連のロビイストとして有名なマイク・マッケンナを起用している。『Los Angeles Times』紙は記事の中で、マッケンナが化石燃料開発の拡大を支援していくだろうとしている。キャンペーンの演説で、トランプは資源掘削および運輸パイプライン開発・建設を容認していくと明言しており、トランプが指名した移行チームの面々を見るかぎり、トランプはこの計画の実現に本腰を入れていると考えられる。

加えてトランプは、連邦政府所有地での炭鉱採掘を許可するとも発言してきた。石炭業界が大きく復活するとは考えられないものの、トランプの発言が実行に移されれば、それは地球環境に大きな影響を与えることとなる。石炭は自然ガスよりも高値で、だからこそ石炭業界は衰退したのだとコロンビア大学地球研究所のスティーブン・コーエン(Steven Cohen)は言う。石炭は化石燃料の中でもっとも浄化に手間がかかる資源であり「これの利用が拡大されれば、人々に肺疾患を引き起こし、死者が続出する」と同氏は警鐘を鳴らす。

コーエンはまた「地球温暖化の問題と、他の環境関連の法律を分けて考えることが重要」と説く。空気や水を清浄に保つための法律、毒性物質の使用を制限する法律、公共用地を保護するための法律などがそれにあたるが、これらの法律は公衆によって大きく支えられている法律で「誰でも綺麗な空気を吸いたいはず」とコーエンは言う。これらの法律を覆そうとすれば、トランプ政権に対する強い反発は必至だ。

これには前例がある。ロナルド・レーガン元大統領は、大統領に就任した第一期、アン・ゴーサッチ・バーフォードを環境保護庁のトップに、ジェイムズ・ワットを内務省のトップに指名した。このふたりは右翼の要人として広く知られた人物で、トップ就任から間もなくそれぞれの省庁の規模縮小を指示、環境保護策も縮小した。しかしこれが大きな批判を浴び、ふたりは揃って1983年に辞職へと追い込まれた。コーエンは、トランプの政策に国民が大きく反対すれば、同様のことが起こりうるとしている。

したがって、我々には希望が残されているといえる。トランプは自身を交渉の達人だと考えている。これらのイニシアチブを実行すれば、アメリカの政治的資本は地に落ちることになり、他に目論んでいる計画を実施できなくなる可能性がある----と、コーエンは言う

彼はまた、環境保護への取り組みが経済成長を阻害するなどということはナンセンスだと言い切る。それどころか、経済成長を促す働きもあるのだ、と。トランプがこれに納得してくれることを祈るばかりだが、実は、トランプこそはこれを実体験としてもっとも良く知っているはずなのだ。なぜなら、クリーン・ウォーター法および同様の法律の施行により、ハドソン川が浄化されたおかげで、隣接するマンハッタンのウエストサイドの開発が実現したのだから----マンハッタンの西側59丁目から72丁目一帯の、通称「トランプ・プレイス」は、かつて環境汚染が著しかったエリアだった。トランプがトランプ・プレイスを自慢できているのは、環境保護への取り組みがあってのことなのだ。

どうすればトランプを止めることができるのだろうか?最悪の動きは、民主党上院議員たちが議事妨害などによって阻止してくれるだろう、とコーエンは読む。そして、法改正が裁判所で争われることになれば、環境保護団体もその手続きを遅らせるため、そして阻止するためにあらゆる手段を尽くすはずだ。しかしながら、食い止めるのが困難なものも多く残るだろう。

環境保全主義者たちは震え上がっている。「トランプの大統領就任は、地球環境とその未来にとって壊滅的な影響を及ぼすかもしれません」と、自然保護団体シエラ・クラブ事務局長マイケル・ブルーン(Michael Brune)は『The Guardian』紙に語っている。「トランプは今一度よく考えるべきです。よく考え、賢い決断をしなければ、彼の政治生命の危機となるほどの戦いを、私たちは挑みます」 他の環境保全主義者たちの多くは、運を天に任せるとして、具体的なコメントを避けている。

コーエンは、次のように締めくくった。「未来はそう暗くないはずだと信じたいと思います。次期大統領は少しも明るい未来を思い描かせてはくれませんけどね」


Credits
Text Douglas Main
Photography Ben Reierson
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.