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【インタビュー】MoMA永久所蔵品「絵文字(emoji)」を作った男

「絵文字(Emoji)」がMoMAのコレクションに加わることが決まった。1999年の登場以来、私たちのコミュニケーションにいつも寄り添ってくれた絵文字......。世界で最初の絵文字をたった一人で作り上げた栗田穣崇、そして絵文字とLINEの関係とは?

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ニューヨーク近代美術館(MoMA)が、絵文字(Emoji)を永久所蔵品に加えると発表した。所蔵されるのは、栗田穣崇(くりた・しげたか)が1999年に開発し、iモードに導入されたNTTドコモの絵文字だ。12×12ピクセル・176種の絵文字は、姿を変えながら、他のキャリアにも登場しUnicode 6.0に採用され世界に拡がっていった。iモードの絵文字を開発し、ネットのコミュニケーションサービスの開発に携わってきた栗田穣崇は、今、何を考えているのか? ゲーム「ぷよぷよ」「想像と言葉」等を生み出したゲーム作家・米光一成が訊いた。

MoMAからの連絡はどういう感じだったのですか?
直接、私にフェイスブックで。

電話とかではなく?
メッセージで来ましたね。

「収蔵されることになります」という連絡?
いえ、その前の段階です。収蔵したいので協力してくれませんか?っていう。去年の四月ですね、MOMAのキュレーターが収蔵の提案でプレゼンするので、協力してほしいと。

やりとりってどういうことが行われたんですか?
絵文字の権利そのものはドコモにありますので、ドコモで担当の方をつけてもらって、あとは直接やりとりをしてもらいましたね。なので、発表の一週間くらい前に「ようやく入るようになった」っていう連絡をMoMA側からいただいたくらい。

どんな気持ちでしたか?
もう(笑)、話がおっきすぎるのと、もともとMoMAをめざして作ってるわけでもないし、20年前の仕事ですから。

その時は想像もしてない......。
その時どころか、まったく想像してない。やっぱり驚くばかりですよね。でも嬉しいのはとても嬉しい。ずっと残るわけですから。

絵文字をどんなものにするか、どうやって決めていったんですか?
前半の方は割とコンテンツに使うことを想定してつくった絵文字なんですよ。

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あ、メールじゃなくて! 情報サイトなどのコンテンツ側が使う用なんですね。
当時はまだまだ通信速度が遅いんで、画像を使うと、すぐ表示できなかったり、パケ死したりとかしたんですよね。だから占いとか天気予報なんかでよく使われるものは文字としてあったほうがいいだろうと。

これはなんですか?

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CDですね。

あ、ポケモンボールではなく?
ではなく(笑)。CDです。

これは?

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それは木馬ですね。

木馬? どういうときにつかわれる想定ですか?
このへんは雑誌『ぴあ』にあった絵文字です。

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ああ、『ぴあ』で使われていたアイコンですね、あったなー。
演劇、アート、イベント、アミューズメントかな。雑誌で使われたやつを、そのままお借りしました。あとは、このへんから、ここまではプラットフォーム側、携帯サービスの表示として使うことを想定しています。

iモードとか、ドコモポイント、フリーダイヤルとか。これは?

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位置情報ですね。位置情報って、今みたいに概念があんまなかったので、位置情報を旗にしようというのは考えましたね。

メールで使う想定の絵文字はそんなに多くなかったんですね。
メールで使うことを主に想定してたのは、ここからだいたいこの辺くらいまで、ですね。

このへんは?

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このへんは、映画とか、上演とか。

おおお、レイトショーとか、席数とか、何月何日まで、みたいな表示だ。
そうっすね。これは格ゲーでいるなと思って入れたものです。

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あっ、ゲームの技表示で使えるように!
左右上下の矢印はあったんだけど、斜めがなかったので。

意図とは違う使われ方をした絵文字ってありますか。

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これが地下鉄で、円があるべきなんだけど、12ドットだと円で囲むのってむずかしくて。メトロのMにしたんですけど、マックに使われたり(笑)。

マックに待ち合わせ用(笑)。

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これはランニングの陸上なんですけど、エプロンに使われたり。これは本なんですけど、若葉マークに使われたり。

これは?

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それはトイレですね。

黒一色で。
そうですね、2色使えないんで。

あ、色は一文字一色しか使えなかったのか。
そもそも最初は色すらなくて。

これは?

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靴ですね。はい、「アディダス」的な。これはキスマークなんですけど、「コウモリだ」って人もいたな......。

どれを入れようっていうのは、あれこれ市場調査されて?
いや、一ヶ月で作ったので、まずとにかくリストアップして、そこからどうそぎ落とすか。

リストアップっていうのは、どういう風に?
もう自分で。雑誌みたり、媒体をみたりしながら。10日くらいでリストアップして、一週間ぐらいでイメージつくって、一週間くらいで、ドットに起こしていった。それぐらいの流れです。

絵文字は、何人ぐらいで?
企画は僕だけです。あと開発側に一人、それで終わりですね(笑)。

つい絵文字だけをピックアップして聞いちゃいましたけど、やられてた時は、絵文字ってiモードの開発全体の流れの中のひとつですよね?
もちろんそうです。ONE OF THEMですよね。

そもそもiモード自体が前例のないもので、それを開発していくのはとても難しかったと思うのですが?
そうですね、米光さんは、ゲームを作られてる方なので分かると思いますが、昔のゲームの低スペックな時代の苦労みたいなものに近いものがあった。液晶画面が非常にプアなもので、当時、階調もなくて単純に二階長のモノクロ。ディスプレイもちっちゃくて文字数で言って50文字表示されないぐらいで。

絵文字って1文字、これは12×12ドット?
そうですそうです。

ファミコンのキャラだって、だいたい16×16で描いてたから、それより小さい。
ファミコンの方が大きいですね。

12×12ドットでこれだけやるのって、しかも偶数なので真ん中が2ドットになって描きづらいですよね。
そうですね、だからこういう真ん中のあるものは、横11ドットになってます。でも、やってみたら、これくらいなんとか入ったって感じですね。プアな液晶画面で、どうやって情報をわかりやすく表示するかが勝負でした。

iモードを開発する以前はどういったことをやられてたんですか?
ドコモ入って1年目はポケベルを売ってました。

ポケベル! そうか「iモードが何か」って考えるときポケベルが参考になってるわけですか?
ポケベルに、ハートマークだけあったんですよ。これが最強だと思っていて、どんなネガティブなワードでも最後にハートをつけると、そんなにネガティブじゃなくなる。

ちょっと柔らかくなる。
いやちょっとどころじゃない(笑)。だいぶ柔らかいと思いますけどね、「死ね♡」だと「死ね」って感じはこない。

いちゃついてる感すら出てくる。
ショートメッセージって、コミュニケーションがズレちゃうんですよ。例えば、「いま何してんの?」っていきなり彼女から来たりしたらニュアンスがわからないので、「怒ってるの?」ってなっちゃう。だから、ハートついてたりすると、気持ちよく返せる。

とにかくポジティブなことがわかる。
どうしても短文だと、ちょっとネガティブに取れるんですよね、短文のメッセージが来ると。

確かにそうです。
感情をメッセージにくっつけるのが、かなり有効だなということを感じたんですね。

想定していた使われ方と実際の使われ方は?
コンテンツ側で使うと想定してた絵文字が、メールでものすごく使われるっていうのが、若干想定外でしたね。感情を文面にのせたりするのがメールで使われるイメージだったので、電車マークとか、こっちの方がけっこう多用されて、あーなるほどなって思って。省略をしたり、メッセージをデコレーションするって意味で使われたのは、割と想定外でした。

iモードのメールがプッシュ型だったのも、使われ方に大きく影響してますよね。
そうですね。あの設計も僕がしたんですよ。

おお。プッシュ型だからあんなに気軽に使われて、絵文字も活きたか。そのへんは確信がありました?
それはもうポケベルでメッセージングしてたんで、プッシュ型でいくべきだ、間違いないってことなんですけど、社内ではけっこう論争があって大変でしたね。

どういう論争ですか?
夏野剛さんが、上司だったんですけど、彼はビジネス用途的に1000文字とかのメールが送れないのはおかしい、と。プッシュにすると250文字しか送れないじゃない。iモードって携帯でEメール使おうっていうのが趣旨として強かったので、どっちがいい?みたいな話で割れて。あともちろん当時のメールはプル型が主流でしたからね。

絵文字がiPhoneとか、LINEスタンプに受け継がれていってる感じってどうですか?
絵文字って、ぼくは文字の延長線上と考えて作ってるんです。シンプルで、誰にでもわかって、最低限の表現である。というのが、絵文字としては綺麗だなって思ってる。今のものはイラストなので、ちょっと違うものという感じです。イラストは好き嫌いがあるので。

変わってしまったイメージ?
そうですね、はい。もちろん、とはいえ、それを世界中の人が使ってくれてるっていうのは嬉しいことではありますけども。

逆に、ユニコードとして組み込まれているほうがつながってる感があります?
ユニコードに入って文字になったのに、デザインがとにかくバラバラ、表現がバラバラなので。自分が持っていた「これが絵文字だ」っていうのから、だいぶ変わってきているので、手は離れて、どんどんお大きくなっていってるっていうイメージではありますね。

ネット上のコミュニケーションってどう変わってきていると思いますか?
ネット上のコミュニケーション?

栗田さんは、コンテンツをネット上で遊ぶための仮想通貨バナコインを手がけられたり、2015年からドワンゴで、ニコ動ニコ生や、最近ではRPGアツマールをリリースされたりとか、ずっと一貫してネット上のコミュニケーションに関わっていて。
そうですね、ネットコミュニケーションにずっと携わってますね。

どう変わってきていると考えますか? 大雑把に聞いちゃいましたけど。
そうですね......変化か......。

僕のイメージでは、iモードの開発というのは、ゲームでいうとファミコンを作った感じかなって思うんですが、その人が今ネット上のコミュニケーションをどういうふうに見ているのか、とても興味があります。
なるほど。でも法則的にはあんま変わってない。携帯がスマホになって、というか、もともとスマホってPCの代替だから。iモード作ろうっていった時に「PCがなくてもすむ世界を作ろう」と考えていたので、同じなんですよ。だからどんどん、それこそゲーム機と一緒で、表現がリッチになっていっても、基本的には変わってないし。ビジネスモデル的にも、やっぱり一番強いのはサブスクリプションの定額がやっぱり強いねっていう話で、それもiモードの時代から今のモデルと大して変わってない。

月額300円の時代。
そうですね。今みんなが、携帯のメッセージで、1000文字打つかっていったら打たなくて、やっぱり10 - 20文字のメッセージをつど飛ばすわけですから、絵文字を作ったときに、あれってみんなチャットのように短文バンバン送りあってたので。なので、どんどん便利になってくけれど、本質的にはあんま変わってないなっていうのが、感覚としてはありますね。

技術がようやく追いついてきたな、っていう感じですか。
まあ、そうですね、上司の夏野さんが、iモード作る時に「お財布をここに入れたい」って言っていて、それも今、Apple Payになってる。だから、やりたいことは変わってないかな。逆にインフラなので、みんなに浸透していくまで時間がかかる。

ここからどうなっていくと思いますか?
うーん...そうですね。前のことを全く知らない世代、生まれた時からネットやスマホが身近にある、デジタルネイティブな人たちが、モノを自分たちで好きに作れる時代になった時にどうなるのかなっていうところぐらいですかね、もう、やっぱり、過渡期の人間では想像がつかないと思いますね。

全く違う感覚の人があらわれてきて、いろいろやり始めた時に、栗田さん自身は?
そうだなーなんだろうなー。まあでも一緒にやれりゃそれはそれで面白いと思いますし、僕はやっぱりプラットフォームが好きなんですよね。サービス一個一個にはいってくよりは、サービスが広がっていくためのプラットフォーム的な仕組みが好きなんです。ユーザーがコンテンツを生み出す仕組み(UGC)をどうするか。まあUGCってドワンゴは10年やってますけど、それでもメインストリームまではいってない。今の僕がやりたいことは、UGCをさらにどれだけ面白くできるか、っていうところなんです。

今、ネットで炎上が起こったり、ひどいコメントがついたり、コンフリクトが多発して、きっとこのままだとストレス的に耐えられなくなりそうで。変わって欲しいなとも思うんだけど、その辺どうですか?
まあ、ニコニコはプラットフォームとして、なるべくひどいコメントが出ないような努力はつねに行っているんですが。なんだろうな。やっぱり、そういう人たちって、ストレス発散というか、楽しんでやってる、ある意味。それが趣味というか。だから、そういう人たちが、ほかに何かおもしろいものを見つければやらなくなるって話なので。

そこを抑制する方向に頑張るよりも、もっと面白いものを作っていく方が......。
......建設的かなとは思いますけどね、そこに関しては。

Credits
Text Kazunari Yonemitsu