ファッションマガジン

ヴェトモンも受賞、「ザ・ファッション・アワード2016」で受賞者たちは何を語った?

ブリティッシュ・ファッション・アワードが「ザ・ファッション・アワード」と名を改めて開催した。そこでは、ロンドンの若き才能溢れるデザイナーたちの活躍が讃えられるとともに、巨匠たちの功績が讃えられた。

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Vetements. Photography Willy Vanderperre. Fashion Director Alastair McKimm. The Futurewise Issue, no. 343, 2016.

ファッション界に生まれる若き才能を育て、プロモーションしていくことを目的として、イギリスファッション協会が立ち上げた「ブリティッシュ・ファッション・アワード」。今年からは「ザ・ファッション・アワード」と名を改め、昨夜、2016年の授賞式が開催された。「インターナショナル・アーバン・ラグジュアリー・ブランド賞」は、大方の予想どおりVetementsのデムナ・ヴァザリアが受賞。受賞のスピーチではファッション界の未来を担う若きデザイナーの卵たちを激励し、デムナの弟でVetementsのCEOを務めるグラム・ヴァザリアは、その賞をVetementsスタッフ全員に捧げた。会場上部にVetements関係者のために設けられたボックス席からは歓喜の声が聞かれ、会場に響いた。今年のザ・ファッション・アワードは、アナ・ウィンターやマリリン・マンソンなどファッション業界内外から錚々たる面々が参列し、例年になく大規模で、ファンシーな授賞式となった。写真家ブルース・ウェーバーと並び、功労賞を受賞したラルフ・ローレンは「22歳の青年のままのように感じてならない。でも私は、おかげさまでファッションとの結婚生活を52年間も続けることができた。この52年間でやってきたことはどれも何事にも代えがたい思い出だし、今後も何が起こるのか考えるとワクワクする」と喜びをあらわにした。そして、会場のボックス席を見上げ、「バルコニーに座っている若者たちよ。新しい時代の到来だ。ここから新たな時代が始まるんだ」と告げ、ステージを後にした。

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Photography Bruce Weber. The Beautiful Issue, no. 295, January 2009

ザ・ファッション・アワードは、授賞式がもう公式に「ブリティッシュ」ではなくなったものの、ロンドンが今後も夢と革新と若き才能という意味において「ファッションの都」であることを強く印象付けた。そんなロンドンを讃える精神は、「ブリティッシュ・イマージング・タレント賞(British Emerging Talent)」の受賞者がモリー・ゴダード(Molly Goddard)と発表されたとき、会場となったアルバート・ホールを満たした喝采に感じることができた。ファッション業界に籍を置くすべての新進企業を讃えた後、ゴダードは自身のブランドの広報担当であるデイジー・ホッペン(Daisy Hoppen)への感謝を口にした。ホッペン自身もまた、今日のファッション・シーンにおいて大きな力を持つに至っている人物だ。ゴダードと同様に喝采を浴びたのは、同じくロンドンの若き才能として大きな活躍を見せているクレイグ・グリーン(Craig Green)とシモーネ・ロシャ(Simone Rocha)のふたりだった。ロシャは、「ブリティッシュ・ウィメンズウェア・デザイナー賞(British Women's Wear Designer)」を受け取るために舞台へ上がると、23年前に父ジョン・ロシャが同賞を受賞したのだと感無量の様子だった。ロンドンのデザイナーの多くがそうであるように、彼女もまた、世界に類を見ない素晴らしいデザイナー・サポート体制を持つイギリスだからこそ生まれた才能なのだ。このサポート体制は、是が非でも守り抜いていかなければならないと、会場にいた誰もが感じたはずだ。

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Molly Goddard. Photography Matteo Montanari. Styling Victoria Young. The Coming of Age Issue, no. 338, Pre-Fall 2015.

「ミラノじゃなくてロンドンに今いるということを嬉しく思います。ミラノは悪夢だから」と、「Swarovskiアワード・フォー・ポジティブ・チェンジ賞」の受賞スピーチで、『Vogue Italia』誌編集長フランカ・ソッツァーニは、現在イタリアを襲っている経済危機に触れて語った。彼女はかねてからミラノにロンドン同様のサポート体制を築こうと尽力してきた。もっとも顕著な成果を見せているのがNewGenだ。彼女の働きかけによって構築されたサポート体制の後押しで誕生したスター・デザイナーのひとりにアレッサンドロ・ミケーレがいる。たかだか数年前のこと、ミケーレはイタリアの老舗メゾンGucciのデザイン・チームで静かに、目立たず、ただ黙々と働く毎日を送っていた。そんなミケーレはGucciのデザイナーに就任し、その世界観でファッション界を魅了すると「僕を魅了してやまない街」としてロンドンに敬愛を表する意味を込め、ロンドンの大聖堂でショーを行なった。今年、ミケーレはザ・ファッション・アワードで「アクセサリー・デザイナー賞」を受賞。プレゼンターは、至る所でミケーレによるGucciを愛用している俳優のジャレッド・レトだった。レトは、今では深い友情で結ばれているミケーレを「未来の元妻でありイタリアが誇る種馬、アレッサンドロ・ミケーレ」と紹介して、会場を笑いの渦に引き込んだ。ファッション界は、ハリウッドのそんな愉快で屈託のない姿勢に倣うべきだろう。今回の授賞式で司会を務めたイギリスのコメディアン、ジャック・ホワイトホールは、会場にいるファッション界の重鎮らをネタにジョークを飛ばしたが、多くの来場者たちは恐れ多くて笑えない様子だった。

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Craig Green. Photography Alasdair McLellan. Fashion Director Alastair McKimm. The 35th Birthday Issue, no. 337, 2015

それでも、Erdemについて「マドンナにしろスティングにしろ、ワンネームのアーティストは大きな成功を手にする傾向が強い」と発言するなど、ホワイトホールの司会にはクレバーな瞬間も多かった。私は先ほど「ファッション界はハリウッドに学ぶべき」と書いたばかりだが、「ニュー・ファッション・アイコン賞」を妹ウィロー・スミス(とともに受賞したジェイデン・スミスは「ドレッド頭のアフリカ系アメリカ人兄妹に躊躇なくこのような賞を与えるなんて」と、ハリウッドこそファッション界に倣うべきだとスピーチで語った。会場にはジジ・ハディッドも現れ、出演中のリアリティTV番組『Real Housewives of Beverly Hills』が話題の母ヨランダが同行した(「楽しいことは好きだけど、面倒なことは嫌いなの」という番組内での発言で、一躍人気となった母だ)。「モデル・オブ・ザ・イヤー賞」を受賞したジジは、スピーチのなかで、容姿だけを見るのではなく彼女の知性を評価してくれたとしてファッション業界全体に感謝の意を表し、涙した。もう"イギリスの"と限定することをやめたザ・ファッション・アワードは、ファッションの世界に吹く新たな風を祝福するとともに、数々の功労賞を設定することでファッション界に今後も脈々と受け継いでいくべき価値観を讃えた。「僕は、これからもずっと夢を見続けます」とアレッサンドロ・ミケーレはスピーチのなかで語った。「ファッションは美しい夢で、僕はドリーマーですから」

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Willow Smith. Photography Tyrone Lebon. Styling Julia Sarr-Jamois. The Coming of Age Issue, no. 338, Pre-Fall 2015

Credits
Text Anders Christian Madsen
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.