ファッションマガジン

2016年のファッション界を征服したヴァザリア兄弟

2016年のファッション界を征服したヴァザリア兄弟の画像

ザ・ファッション・アワード授賞式でヴァザリア兄弟が「今年のファッションに多大なる影響を与えた」として讃えられた。デムナはまたVetementsとBALENCIAGAでも受賞を果たし、2016年がいかにヴァザリア兄弟の年であったかを物語る授賞式となった。

Photography Willy Vanderperre. Fashion Director Alastair McKimm.

今年10月に行なわれたBALENCIAGA 2017年春夏コレクションのショー会場を後にした私に、他のファッション誌で働く知り合いから、「ショーをどう思ったか」と訊かれた。口を開きかけた私を遮り、彼女はいたずらな笑みを浮かべて「答えないで」と言った。「もちろん気に入ったはずよね。あなたはデムナ教信者だもの」。言っておくが、私はデムナ・ヴァザリアの世界観を盲信的に讃えたりはしない。しかしながら、振り返ってみると、私にとっての2016年がヴァザリア色に染まった1年だったことは否定できない。デムナのインタビューを3本、弟のグラムのインタビューの3本、バックステージには5回潜入しているのだ。グラムは、2013年に兄のデムナと立ち上げたVetementsのCEO。Vetementsは独自の世界観で世界のファッション業界に激震を走らせ、デザイナーの兄デムナは今年、BALENCIAGAのクリエイティブ・ディレクターを兼任するまでに至った。今年、私はデムナのスタジオで、彼のデザイン・チームのメンバー全員と、ブランドと旧知の中であるモデル3人、さらには広報担当にまでインタビューをした。3月、i-Dはサラ・モーア(Sarah Mower)がグラムを招き、ロンドンのファッション専門大学で学ぶ生徒たちを前にトークを繰り広げるというイベントを独占取材した。10月にはVetementsが一風変わったイベントを開いた韓国ソウル郊外に同行。昨夜は、ファッション・アワード授賞式でVetementsが「インターナショナル・アーバン・ラグジュアリー・ブランド賞」を受賞し、デムナがBALENCIAGAでの世界観を讃えられて「インターナショナル・プレタポルテ・デザイナー賞」を受賞するのを目撃した。この授賞式では、グラムも「インターナショナル・ビジネス・リーダー賞」にノミネートされていた(受賞はGucciのマルコ・ビザーリ)。

2016-the-year-the-gvasalias-20161215_002.jpg

Photography Willy Vanderperre. Fashion Director Alastair McKimm.

というわけで、他の多くのファッション関係者同様、2016年は私にとって、ヴァザリア効果に動かされた1年だった。2015年にVetementsがブレイクしたとき、それは完全に体制となってしまったファッション界に新たな光が差し込んだような、希望の光のように見えた。実験的なファッションを打ち出すロンドンすら、意図的にではないものの、個性を失ってしまった。2000年代中期にロンドンの新しいファッション・シーンを作り出した当時の若きデザイナーたちが成熟し、事業としてのファッションを追求し始めたのがその大きな理由のひとつだ。世界的に見てもデザイナーたちがまるで椅子取りゲームのように入れ替わり立ち替わり、ブランドのクリエイティブ・ディレクターとなっては辞任していった。デザイナーを"消費"する業界に、なんとも後味の悪いエネルギーが蔓延した。そして、そんな状況に誰もが疲れきっていた。誰もが、何か新しく、何かオーセンティックなもの----かつ、気取りやおごりがなく、インクルーシブでエキサイティングな、しかし知性溢れる"何か"を渇望していたのだ。マルタン・マルジェラの影響が色濃く見られるその世界観が、先述の「オーセンティック」に反するとも言えなくもないが、なんにせよVetementsの登場は失意の中にいたファッション界にとって、まさに神の再臨、救世主の誕生のように感じられた。

2016-the-year-the-gvasalias-20161215_003.jpg

Photography Suffo Moncloa. Styling Caroline Newell.

「Vetementsはムーブメントのようなもの」と1月にデムナは語ってくれた。「なんにせよ、なにか変化や見直しへの必要性を求める雰囲気がファッション界全体に漂っているように感じる。ラグジュアリーとは何か、アンダーグラウンドとは何か、そしてファッションというものがどう機能すべきかについて、解決しなきゃならない問題や答えを出さなきゃいけない疑問が山積している状態だからね」。これについて、4月にデムナは詳しく語ってくれた。「起こるべくして生まれたムーブメントなんだと思う。それに今、誰もが乗って、新時代が到来している。それはVetementsが誕生していようといまいと、必然的に起こっていたにちがいないムーブメントなんだと思う。Vetementsは現象になった。それは素晴らしいこと。パリは随分と長いあいだ、停滞を続けていたからね。今では、アナ・ウィンターがVetementsやJacquemusのショーを訪れるまでにエネルギーを取り戻している。こんなことが起こるなんてね!これは大きな変化だよ」。今、ヴァザリア兄弟が放つエネルギーはとてつもない引力を持って世界を引きつけている。今年インタビューしたデザイナーのほとんどが、ヴァザリア兄弟の名を一度は口にしていた。ヴァザリア兄弟の名がファッション界の要人の口から最初に聞かれたのは、2月にローマでシルヴィア・ヴェントゥリーニ・フェンディをインタビューしたときだった。「ファッションに動きが見られるのが嬉しい」とフェンディは語っていた。「次に何が起こるのか----デムナがBALENCIAGAでどんなことをやってのけてくれるのかが楽しみ。3月のハイライトになること間違いなしよ!」

2016-the-year-the-gvasalias-20161215_004.jpg

Photography Suffo Moncloa. Styling Caroline Newell.

彼女の読みは正しかった。デムナが打ち出した新しいBALENCIAGAは、これ以上高まることができないというほど高まっていた期待を軽々と上回る世界観で大きな成功を収めた、奇跡のようなコレクションだった。デムナはBALENCIAGAの歴史とVetementsの世界観、そしてサプライズの要素を絶妙のバランスで服に落とし込んでいた。私はあのコレクションを目の当たりにして熱狂しなかった人間に、これまでひとりとして出会っていない。去る7月にヴェネツィアのリック・オウエンスのもとを訪れた際、彼はこう説明してくれた。「世代交代が起こり、『ファッション界に革命が起きる』と誰もが浮き足立ったときがあったんだ。でも、数々のブランドで新旧デザイナーや経営体制が入れ替わっても、革命は起こらなかった。そこへ、デムナがBALENCIAGAのクリエイティブ・ディレクターに就任したんだ。彼のショーはなんとも気持ちよかった。『これこそ僕が待ち望んでいた変化だ』ってね。とても満ち足りた気持ちになったよ」。これほど誰の目にも明らかな衝撃が生まれれば、そこに批評家たちの見解が入り込んでくるのは避けられない。多くは、ヴァザリア兄弟が放つ世界観がマルジェラの影響を色濃く孕んでいると指摘した。コペンハーゲンで開かれたとあるディナーの席で、あるアメリカ人エディターはデムナの世界観を「フェイク・ファッション」と形容した。私は反論した。Instagramが力を持つ現代、デムナやグラムのような人々は、若年層がともすれば知りえなかった過去のファッションを、"カルト・ファッション"として現代に蘇らせているのだ。

2016-the-year-the-gvasalias-20161215_005.jpg

Photography Willy Vanderperre. Styling Alastair McKimm.

10月、私はドリス・ヴァン・ノッテンにヴァザリア兄弟について訊いた。「ベルギー出身のデザイナーにそれを訊くのですか----彼らの賢さには一目置いています。ときに、あまりに忠実な過去の再現のように思えるときもあります。でも興味深いことには変わりありませんね。良い感じに、ファッションを面白くしている。そんなファッションがあってもいいんです。いま彼らが作り出すファッションが実際に起こっているということ、彼らが作るものを新たに語ることができる媒体が多く存在しているということを、私は嬉しく思っています。ファッションの打ち出し方として、とても賢い。そこに敬意を持っています」とノッテンは語った。

商品を超え、いや、ファッション・モチーフを超え、彼らへの畏敬の念を超え、私がデムナとグラムに関してもっとも興奮冷めやらないのは、彼らが今年、ファッションとそれを取り巻く世界を繋いでファッション業界に与えた影響だ。内戦で故郷グルジアのアブハズ自治共和国から命からがら逃れた子供時代の恐怖体験から、パリにとどまらず世界で吹き荒れている東欧ブームの先頭に立っている現在の存在感に至るまで、彼らは単に若い世代にファッション以上のものを見せている。そして同時に、クレジットカードを使うだけでなく頭と心も使うことができ、かつトレンドに精通し、ファッションを理解し、ファッションを文脈立てて的確に言葉で表現できるファッション・ファンたちをも触発したのだ。

2016-the-year-the-gvasalias-20161215_006.jpg

Photography Willy Vanderperre. Styling Alastair McKimm.

グラムの巧妙なビジネス戦略は、我々新世代を「何事を達成することもない無気力な負け犬の集まり」と決めてかかっている"老害"たちに対する最高の反論になっている。過去のファッションからモチーフを引用し、歴史を現代に解釈して表現するデムナの破壊的で天才的な手法は、ファッションに社会的・政治的な今日性をもたらした。5月、ロンドンでランチをしながら、グラムは彼らヴァザリア兄弟がともに現実主義者なのだと言った。「それには理由があるんです。僕たちには壮絶な過去があります。そこから、僕たちは生きる喜びと素直であることの大切さを学びました。真の自分として生きる人生でなければ、幸せになど絶対になれないと僕たちは身を持って知っているんです。誰かの真似ごとでは惨めになるだけなんですよ。フェイクを生きるということは危険です。それは、素っ裸で世の中を生きているようなものですからね。自分を信じることができれば、『真の自分を生きる』という姿勢を絶大に支持してくれるひとが必ず現れます。同時にそんな姿勢を徹底的に否定するひとが出てくるのも、これまた必然なのです」。ヴァザリア兄弟が愛を込めて、2016年のファッションに多様性と美しい変化をもたらしてくれたことに----乾杯。

2016-the-year-the-gvasalias-20161215_007.jpg

Photography Angelo Pennetta. Styling Julia Sarr-Jamois.

関連記事:Vetementsという国家デムナ・ヴァザリア「未来を感じるための過去」を語る


Credits
Text Anders Christian Madsen
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.