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【インタビュー】ヴェトモンCEO・グラム・ヴァザリアに聞く「ファッション界の未来」

VetementsのCEO、グラム・ヴァザリアがi-Dのダンダーズ・クリスチャン・マッドセンとの独占インタビューにこたえてくれた。時代遅れのシステムにしがみついている現代ファッション業界をいかに改革すべきかについて、グラムが提言をした。

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過剰な消費に自らが飲み込まれる業界、多すぎるコレクション回数、そのプレッシャーに押し潰されるデザイナーたちの疲労----これが2016年のファッション界だった。今年1月、Vetementsはその流れから自らを切り離す戦略に打ってでた。ファッション批評家サラ・モーアが「Vogue.com」で行なったインタビューで、VetementsのCEOグラム・ヴァザリアは、Vetementsのコレクション発表および販売の方法について、業界を揺るがすほどの改革を打ち出した。

改革点はいたってシンプルだ。まず、Vetementsは来年6月からウィメンズとメンズのコレクションをひとつのショーで発表する。「プレ・コレクションを制作する必要性を排除して、発売前に商品がコピーされるのを防ぎ、過剰生産の傾向を断ち切る。そして彼らがこれを実行に移すことで、他ブランドにも後に続いてほしい----Vetementsが今回の改革で目指したのは、その点だ」とモーアは書いている。2016年3月17日、モーアとグラム・ヴァザリアはVetements革命をさらに一歩前へと進めるべく、「語るだけでなく行動に移そう」とイベントを開催した。Dover Street Marketヘイマーケット通り店のオープニングに参加するためロンドン入りしていたグラム。自身の母校でもあるロンドン・カレッジ・オブ・ファッション主催で、市内のファッション専門学校各校の学生たちを招き、トークショーを開催した。「Collective Action」と題したこのトークショーでは、袋小路に迷い込んだようなファッション業界で、未来のデザイナーたちがどのようにファッション・ビジネスを成功させ、また崩壊の危機にあるこの業界をどう立て直していくべきかが話し合われた。これからファッション界に参入しようという者にとっても、現在すでにこの業界で働いている者にとっても、興味深いイベントとなった。実際に、学生たちが列挙した観客席には、Marques'Almeidaのマルタ・マルケスとパウロ・アルメイダ、Ashley Williamsのアシュリー・ウィリアムズ、Claire Barrowのクレア・バロー、Craig Greenのクレイグ・グリーン、Wales Bonnerのグレース・ウェールズ・ボナー、そしてSiblingのコゼット・ミククエリーとシド・ブライアンらの姿も見られた。

クリエイティブな才能に溢れたデムナ・ヴァザリアを兄に持ち、自身は数学に長け、国際ビジネス、経営学、そして法学での学位も持ち、さらにはBurberryのセールス部門で働いていたという経歴も持つグラム(Burberryも先月になってVetements同様のビジネスプランを発表し、これにTom Fordも続いた)。快進撃を続けてきたVetementsで、戦略的頭脳としてファッション界に激震を走らせるグラムに、業界に明るい未来を築くためのヴィジョンについて聞いた。

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あなたとサラが、未来のデザイナーたちのためにトークショーを開いたのはなぜですか?
現在のファッション業界は混乱しています。今とは全く状況が違う何十年も前の業界をベースにして作られたルールに則って、無理に機能させようとしているわけです。サラと私は、解決されるべき一般的な問題について話したいと考えたんです。いまだに90年代で時が止まったままのファッション業界の目を覚まさせて、21世紀の現代へと引きずってきてくれる若い世代と、直接の会話の場を持ちたかったんです。

ファッション業界のシステムのなにを変えるべきだと思いますか?
その"複雑さ"ですね。この業界のシステムは、不必要に複雑化しすぎました。需要と供給が、ビジネスの基本ルールです。これをファッション界は放棄してしまったんですね。過剰生産は大きな問題です。「セールの対象になる」ということは、すなわち「需要を超えた量を生産した」「需要の低下に合わせて供給を減らす必要がある」ことを意味するわけです。しかし、供給を減らせば売上高は下がるわけで、すると投資家たちから不満があがります。そこで投資家たちを常に満足させておく方法として、形だけのマーケットを作る。イタリアには、小さな村や町に作られたお店で、年間7,000万から1億ユーロを売り上げるお店がたくさんあります。商品はそのままアジアのブラックマーケットへと流れて、売られます。もうひとつのシナリオは、直営店をいくつかオープンして、そこに直接商品を売るという方法で、これなら、最終的に商品が末端消費者に購入されてようがいまいが、売上高は確保できます。ファッション業界の現状の恐ろしいところは、いま私たちが目にする売上報告の約3分の2が実際に売り上げた額ではないということですね。

新しいファッション企業が大成するための、そしてファッション業界がより健全な未来をきずくための秘訣とは何だと考えますか?
事業を成功させる上で重要なのは、事業内容への献身的な姿勢と「自分に正直である」ということですね。もっとも大切なのは、開こうとしている扉の向こうにある世界が「自分が心から望んで、足を踏み入れずにいられない世界なのか」ということです。ファッションのビジネスを築く上で、会社には2つの頭が必要になります。ひとつはクリエイティブな頭、そしてもうひとつはそれをビジネスとして成立させるための頭です。ひとりで両方をこなせると考えるひとはほとんどが失敗します。靴と同じです。片方を履いて歩いても遠くへは行けません。ファッション業界が今より健全な未来を望むのであれば、若い世代にチャンスを与え、業界の現代化を邪魔しないことです。

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2年前にVetementsを立ち上げたとき、あなたは細かなビジネス戦略をすでに立てて、ファッション業界を変えるというヴィジョンを持っていたのでしょうか?
実際にビジネスを立ち上げてしまうと、誰も「業界を変えたい」なんて大層なことは言えなくなりますよ。私たちのビジネス戦略は、単に「第1期を生き延びる」というものでした。業界を変えるなんて、そんなプランはまったくありませんでしたよ。デムナは服を作り、私は戦略を立てる----私たちは、自分たちが愛してやまないものに身を捧げてきただけです。

先月、あなたはVetementsのコレクション発表・販売方法の改革を発表しましたが、この計画のポイントは? これが他のブランドでも採用されれば、業界やデザイナーたちにとってどのような利点が生まれるのでしょうか?
現在、小売店が持つ年間予算の70~80%は、プレ・コレクション用予算に充てられています。メインのコレクション商品にはそれほど意味がないというのが小売店の現実です。その原因は製造・出荷サイクルにあります。製造がスムーズに完了すれば、3月にショーで発表した商品は7月末には小売店に届きますが、様々な状況に対応しながら、遅れるときには出荷が9月や10月までずれ込むことがあります。8月には工場が休みに入ったりしますからね。アメリカの小売店はサンクスギビング(感謝祭)の直後からセール期間に入りますから、メインのコレクションが店頭に並ぶのは平均して8週間。プレ・コレクションの商品が店頭に24週間並ぶことを考えると、小売店がプレ・コレクションを重要視するのも当然なのです。そこで、メインのコレクションの発表を3月から1月へと移動することで、出荷時期を早めることができ、商品が店頭に並ぶ期間を現状の8週間から16週間長くすることができるわけです。

デザイナーにのしかかっていたプレッシャーを軽減するというのが、業界でもっとも旬なトピックとなっていますが、あなたとデムナがオーバーワークになりすぎず、正気でいるために実践していることはありますか?
私たちはオーバーワークしていますよ。でも良いオーバーワークです。私たちは自分たちが今やっている仕事を心から愛しているので、それが弊害にならないんです。心のバランスを保つのにもっとも有効なのは、家から出ずにWi-Fiのスイッチを切っておくことです。

長期的な成功を前提としてブランドを立ち上げたいと考えている若いデザイナーたちが心得ておくべきことは?
なぜブランドを立ち上げたいのかを今一度考えてみるのは大切でしょうね。世の中はブランドと服に溢れかえっています。デザイナーになるという夢を叶えるだけなら、既存のブランドでデザイナーになるほうが簡単かもしれません。ビジネスとしてブランドを立ち上げる場合、経験は不可欠です。だから、学校を卒業してすぐにブランドを始めるというのはとても危険です。もうひとつ大切なのはビジネス・パートナーを持つということ。ブランドをビジネスとして機能させていかなければなりませんからね。そして何より、資金を投じるということです。

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グラム・ヴァザリアが考える「ファッション・ビジネスが成功するために必要なビジネス・モデル」:「基盤部分から築いていく」と説いている。

現実的に、新しいファッション企業を立ち上げるのにはどの程度の資金が必要になるのでしょうか?
「家を建てる」ということに置き換えて考えてみてください。お金がたくさんあればあるほど、より大きくより頑丈な家を建てることができます。趣味ではないレベルでのれっきとしたビジネスであれば、会社を始めるための資金は6桁(日本円で8桁)をくだることはありませんね。

新しいブランドは製造と販売、PRのバランスをどのようにとっていけば良いのでしょうか? そして、それらのどの部門がもっとも重要だと考えますか?
ビジネスをパズルと同じように考えるひとが多いですが、それは間違っています。パズルよりずっと複雑なんです。時計の構造ほどに。時計の内部には様々な機能を果たす大小様々なパーツがあって、それがすべて噛み合ってはじめて構造と機能が生まれるわけです。しかし、機能する構造だけでは不十分で、そこに時間をきちんと把握して示す、統括の立場の存在が必要となります。

起業したばかりの会社が気をつけるべきことは?
約束ばかりのひとを信用してはいけないということです。この世の中、タダでチーズが置かれている場所など、ネズミ捕り機の中しかありません。そして、キャッシュフローというのは、健全さが失われやすいものですから、常に気をつけて管理していかなければなりません。最後に「オーダーがどんなにまとまった規模だったとしても、どんなに信頼のおけるバイヤーからのオーダーだったとしても、前払いができないオーダーは受注してはいけない。出荷前に満額を支払えない相手のオーダーも受注しない」という点も強調しておきたいですね。

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私たち一般消費者は、より健全なファッション業界の未来のために何ができるのでしょうか?
必要のないものは買わないということです。何年もずっと大切にするであろう服だけを買う。ファスト・ファッションからは距離を置く。バーゲンでの買い物は控える。品質で物を見て、買うようにする。スロー・ファッションという概念を大切にする。

BurberryとTom Fordが打ち出した新しいビジネス・モデルに関してはどう考えていますか?
ファッション業界のシステムを改善していこうと有名ブランドが動き出しているのは素晴らしいですね。しかし、長期的に有効な戦略を実施していくというのは、プレス・リリースを書いて発表すれば良いというような単純なものではありません。現段階では、両ブランドとも構想を世界と共有しているにすぎないのかもしれませんが、メディアで入手可能な情報をみるかぎり、BurberryもTom Fordも、そのビジネス・モデルには考え抜かれていない部分が少なからず見受けられます。両ブランドがどのようにそうした部分を熟考し、最終的にどのような戦略を実施していくのか楽しみですね。

現代において"ラグジュアリー"とは何を意味するのでしょうか?
現代において何かを意味するものなど存在するのでしょうか? "ラグジュアリー"という言葉の本来の意味は「不足」「希少性」です。現代の世の中は、誰もがあらゆるものを手にいれることができます。入手できないという状態が好奇心を生み、ひとを冬眠の状態から目覚めさせてくれるのだと思います。

vetementswebsite.com

Credits
Text Anders Christian Madsen
Photography Jeff Boudreau
Photography assistance Antonio Milevcic
Sketch Guram Gvasalia
Thanks to Daisy Hoppen, Chloe Lau and Gillian McVey
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.