ファッションマガジン

2016年発行の注目すべきZINE10選

クロエ・セヴィニーのコラージュが見られたり、女性サッカー・ファンたちの熱意が感じられたり、はたまたページをめくってもめくっても猫の顔がそこにあったり----2016年はZINEが元気な1年だった。

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大手出版社での解雇や大規模なリストラが後を絶たなかった2016年は、雑誌業界にとって恐怖の年だった。しかし、混乱と不安が渦巻く中、ZINEは大きく活気づいた。女性サッカー・ファンたちによるZINEから、The Gapの文化的重要性に焦点を当てたZINEまでが登場。フランク・オーシャンまでもが、カニエ・ウェストやヴォルフガング・ティルマンス、タイラー・ザ・クリエイターといった名アーティストたちを巻き込んで「Boys Don't Cry」をリリースし、ZINEの世界の奥深さを世界に思い出させてくれた。

情熱だけが頼りのDIY精神で作り上げるZINEは、若いクリエイティブたちにとっては完璧な表現の場であり、また最高の駆け込み寺でもある。必要なのはハサミとコピー機だけ。世界の通念に迎合する必要もなければ、売上を気にする必要もない(売れてお金になればもちろんそれに越したことはないが!)。2016年に生まれ、2017年の活躍が期待されるZINEを、ここにまとめて紹介する。

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「Genda」
『Genda』は2言語で作られた中国発のZINE。東西文化と、そのあいだに度々生まれる誤解について探る内容が面白い。創刊号と続く第2号は写真が中心の作りで、ソフトで優しいタッチの東洋的イラストが美しい。中国発としては珍しい「西洋と東洋の相互交流を模索する」というテーマのインディペンデント系ZINEで、創刊とともに世界で圧巻の高評価を得たが、やはり新参者がZINEのシーンで生き残っていくということは大変な苦悩を強いられるようだ。編集部のアメデオ・マルテガーニ(Amedeo Martegani)はこう話す。「とにかくすぐに資金が底をつくんです。毎号、一寸先は闇ですよ」
gendamagazine.com

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『Fanpages』
『Fanpages』は創刊間もないZINEだが、創刊前から話題を呼んでいた。というのも、創始者が90年代に大人気を博したZINE『Cheap Date』を作り出したキラ・ジョリエット(Kira Joliette)とベイ・ガーネット(Bay Garnett)だったからだ。こうしてシーンに復帰したふたりが『Fanpages』で祝福するは「自由なファンの世界」。そこには、ティーンの心を鷲掴みにした映画スターやTVスターたちの写真がコラージュされている。ニック・ナイトやクロエ・セヴィニーらによるアート作品も収められているあたりは、さすがだ。
fanpages-inc.tumblr.com

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『SEASON』
「女の子だってサッカー好きでは男に負けない!」。『SEASON』がスポットライトを当てるのは、世間ではいまいち知られていないそんな事実。「女性サッカー・パンツの股上がなぜ浅いのか」についてパワフルに綴られたエッセイから、サッカー・ユニフォームを美しく捉えたエディトリアルまで、『SEASON』は過小評価され続けてきた女性サッカー・ファンたちの存在を世界に知らしめるのに十分な力を放っている。「ファッションもサッカーも好きという私のような女性は、一般的に考えられているよりもずっと多い。でも、"ただサッカーが好き"ということでは性別なんて関係ないはずなのに、どうしても"女性サッカー・ファン"と区分され、過小評価を受けてしまう。そんな現状を変えられれば」と、『SEASON』を作っているフェリシア・ペナント(Felicia Pennant)は今年初旬にi-Dに語ってくれた。
season-zine.com

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『Like, Like』
アーティストであり、フェミニストとしても活動するモリー・ソーダ(Molly Soda)は、まずTwitteで注目を集めた。彼女はTwitterをパフォーマンス・アートの発表の場として使い、フェミニストとして人間関係を情熱的に語り、自身のヌード写真を"リーク"して女性としての自分の身体を讃えたりして、多数の賛同者を得た。その延長線上にあるのがこの『Like, Like』。大胆で、信念を貫く姿勢が眩しいその個性はこのZINEでさらに強調され、20からなるページには、140文字で語りきれない「愛の考察」が書き連ねられている。
mollysoda.bigcartel.com

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『Sort』
『Sort』は、ロンドンをベースに年に2回発行されているZINE。ページをめくるたびに、いい意味でわいせつな気持ちが高まる。それはきっと、このZINEが「ポルノ」と「楽しいひととき」をメインのテーマとして作られているからだろう。世間でもてはやされている高級感あふれる雑誌のあり方に中指を突き立てる、反逆精神に満ちあふれている。
sort-studio.co.uk

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『Homocats: Modern Problems』
ブルックリンをベースに活動するアーティスト、J・モリソン。彼が、可愛い猫の写真の中にクィア・カルチャーを語る方法を確立したのがこのZINE。ゲイの世界で過度に理想化された肉体美の基準を問うように、体脂肪を極限まで落とした"完璧"な体の男性を写した写真に猫の顔が配されている。最新号『Modern Problems』では、混乱が続く政治の世界をおちょくっている。猫はどんな状況をもほっこりとした雰囲気に変えてくれるのだ。
homocats.com

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『Biracial Bandit』
雑誌で作品を取り上げてもらおうとすれば、そこにはある程度のコネクションが必要となる。そういう構造になっているのだからしかたがない。しかしZINEは違う。まだ無名でも何かを感じさせるものがあれば、そのアーティストやライターをサポートし、後押しする--そんな土壌がZINEにはある。その美しい好例が『Biracial Bandit』だ。テーマは「混血の人々のための、混血によるZINE」。常に作品を公募で募っており、アートや詩、物語形式で混血に生また人間の体験を表現する人々に作品発表の場を与えるべく活動している。ZINEの価格が5ドルというのもまた嬉しい。広く読まれるべきZINEのひとつだ。
biracialbandit.bigcartel.com

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『The Gap Document』
『The Gap Document』は、現在激変するファッション小売業界で苦戦を強いられているThe Gapをとことん讃えるZINE。The Gapのアーカイブとしても優れたその内容は、アメリカのファッション史最大にしてもっとも世界的に成功したこのブランドの功績と、その存在の重要性にスポットライトを当てている。ファッション批評家のティム・ブランクスが寄稿していたり(その一部がこちら)、デザイナーのクリストファー・レイバーンが「いかにしてThe Gapのフィールド・ジャケットからインスピレーションを得てミリタリー調の世界観を構築していったか」を語っていたりと、興味深い内容にあふれた1冊だ。
documentstudios.com

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『Kazoo』
『Kazoo』は、なんと小学生女子をメインのターゲットとして作られているフェミニスト季刊誌。女性の尊厳について教えるなら、若いうちから始めるに越したことはない。子どもに買い与える本が「お姫様を主人公にした本が多すぎて、逆に科学や技術、工学、数学の分野で活躍する女性を描いた本は皆無」と嘆いたある母親が、Kickstarterでクラウドファンディングを募り、15万ドルの資金を元手に制作を開始した『Kazoo』。性別を超えて、かっこよく生きる女性が描かれているこのZINE、ぜひとも読んでみてほしい。
kazoomagazine.com

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『Que Sera』
ZINEが素晴らしいのは、なんといってもその平等性。創刊間もないこの『Que Sera』は、その完璧な好例だ。ニューヨーク大学を卒業したばかりのアイゼル・ヴィラルバ(Izel Villarba)は、人種もバックグラウンドも様々の才能溢れる友人たちに「若いということ」「アイデンティティを探る」というテーマで写真やアート、ライティング作品の制作を依頼した。「みんなでこのテーマを探れる空間を作りたかった」とヴィラルバは『Que Sera』制作の経緯を説明する。コネクションも少なく、資金も限られていた彼は、大学の印刷機を使って創刊号を作り、なんとニューヨークなアイコニックな書店Printed Matterでの販売を取り付けた。「違ったバックグラウンドを持った、様々な人種の友達がいる」と、彼はこのZINEのテーマである「ルーツ」について語る。「誰もが違って当たり前で、そんなまったく違った人間を結びつけてくれるのはカルチャーなんだってことを、このZINEでは表現したかった」
izelvillarba.squarespace.com

Credits
Text André-Naquian Wheeler
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.