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「企業化」するロンドン大学

「企業化」するロンドン大学の画像

イギリス国内の大学は徐々に、そして確実に「企業化」への一途を辿っている。そこへ、ロンドン大学の生徒たちが家賃支払い拒否のキャンペーンを打ち出した。

「学生」と「貧乏」は切っても切れない関係にある。後に振り返れば、それがロマンチックでさえある。子どもでもなく大人でもない、微妙な状態にあるその時期、最後の500円を酒に使ってしまったりした経験は誰にでもある。冬に暖房がないのも苦にならない。タバコの吸い殻が溢れ、壁にはチェ・ゲバラのポスターが貼られた部屋で、布団3枚にくるまって暖をとるというのが、極上の思い出になるのだから----これが「大学に行きたい」と告げたときに今でも聞かれる旧世代の武勇伝だ。しかし残念ながら、現代の大学生が今の貧乏生活をロマンチックなものとして思い出すことはないだろう。なぜなら、「貧乏」の次元が違いすぎるからだ。6年前、大学の学費がそれまでの3倍となる9,000ポンドにまで引き上げられたとき、イギリスの大学は企業と化した。大学が学費引き上げを強行した際、学生のみならず国民の多くが抗議し、パーラメント・スクエアでは大規模なデモが起こった。しかし大学は、裏側で静かに、そして着々と計画を進めてきたのだ。

この6年間、大学が企み、そして進めてきたその計画とは何か?答えは「経営者になる」だ。暴挙としか言いようがない学費引き上げを食い止めるべく生徒たちが大学を相手に戦った2010年、大学側は自分たちの都合の良いように経営者になるべく水面下で計画を進めていたのだ。パブリックとプライベートでの使い分けを理解したうえで「大学」という組織=システムを利用すれば金になる----それに気づいた大学側は、金儲けへと大きく舵を切った。学費を引き上げ、政府からの予算が削減された途端、大学は学生ローン返済不能に陥る生徒たちの存在を理由として政府から巨額の資金を借り入れできるようになった。そして、そうして借り入れた資金を不動産投資に使い始めたのだ。学生たちを政府資金借り入れのクッションにすることにより、大学が抱える負債は有益な収入源となる----これが、学費の引き上げから現在まで大学側が進めてきた計画だ。大学で優秀な成績をおさめ、相当の学位を得て社会に出ても、学生たちは学生ローンの返済に苦しむことになる。一方の大学側は、学位だけ与えていれば学生ローンの返済も期待でき、返済が滞る生徒は担保となるのだから、大学には常に金が入る仕組みが出来上がっているわけだ。

しかし、このシステムには盲点がある。学生は貧困を極め、負債の返済にあえぐことになるが、それでも失うものも少ない。生徒はもっとも政治的に守られた立場にいるのだ。大学は不動産に数百万ポンドという資金を投じ、寮のシングルルームの月額家賃を10万円に設定していたりする場合もある(これを大学側は、ホームページに「予算」として発表している)が、学生たちが今、これに抗議の姿勢を示している。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の学生たちが立ち上げたキャンペーンCut the Rentに、イギリス全土の大学生数千人が参加し、一大ムーブメントとなっているのだ。このキャンペーンは、UCLの学生数人が結託して学生寮の家賃支払いを拒んだことから始まった。家賃支払いを拒んだ理由として、学生たちは「隣接した建物でひっきりなしに行われている工事で騒音がうるさく、まったく勉強ができない」と主張した。このキャンペーンは、非常にシンプルなアイデアを元に膨れ上がっている。UCLの2年生で、このキャンペーンに参加しているパール(Pearl)は、そのアイデアを簡潔にこう説明する。「払わない。それだけ」

"大学は不動産に数百万ポンドという資金を投じ、寮のシングルルームの月額家賃を800ポンド(10万円)に設定していたりする場合もあるが、学生たちが今、これに抗議の姿勢を示している"

作家であり、Radical Housing Network内でアクティビストとしても活動しているベン・ビーチ(Ben Beach)は、イギリス全土のCut the Rent参加メンバーたちからなるRent Strikeと昨年から活動をともにしている。「大学は、実質的に生徒たちを負債量産工場としか考えていないんです」とビーチは言う。「生徒が増えれば増えるほど、そこに生まれる負債額も増え、より多くの不動産を買収できるわけです。ケンブリッジ大学は、現在ケンブリッジ界隈で最大の不動産開発者となっていますし、インペリアル・カレッジ・ロンドンは、BBC放送の本部があったホワイト・シティーの一角を購入したばかりです」。政府からの資金提供がカットされたということを口実に借り入れを繰り返し、調達した資金を不動産に注ぎ込む大学。一方で、そこに入学してくる学生には「学費=払う」という選択肢しか与えられていない。「大学にとって、ある程度の建物修繕費などが必要となるのは確かですが、現在各大学が進めている開発は大学側が計画し、主張して、最終的に論破して進めているもので、大学が強く求めて実現している開発なのです」

パールと、同じくUCLの2年生であるジェド(Ged)は、新入生歓迎週間中の説明会を色々見学してまわった後、Cut the Rentに参加したという。ジェドは、大学側による生徒ひとりひとりの学生寮割り当ては、「生徒の希望と大学側が定時する価格を複雑に絡み合わせた手口」だと言う。学生寮は、生徒が示した学生寮の希望条件をベースに大学側が候補を提示するが、大学側は生徒が上限として示した家賃額をゆうに超える物件(寮)を学生に割り当てる。学生たちは、その額での入寮を受け入れるほかに選択肢がない。大学側は、生徒から家賃のほかに毎月支払われる管理費の積立金を、家賃の未納分に充てる義務を課されていない。こうなると、生徒たちが大学に支払わなければならない毎月のコストは法外な額となり、週35時間という勉強の時間の合間を縫って複数の仕事を掛け持ちしなければ、学生は破綻する。現在の大学生たちが、先代の学生には想像もおよばないレベルの貧困に喘ぐ一方で、UCL側はさしたる問題に直面している様子もない。「昨年、UCLは学生寮の家賃だけで1,650万ポンドの利益をあげているんです。しかもこの利益は学生寮の建物の修繕やメンテナンスに充てられているわけではありません」とジェドは言う。キャンペーンに参加している他のグループとともに、パールとジェドは学生寮を巡り、家賃支払いをストライキする重要性と有効性について説いて回っている。1月にはこれまでにない規模のストライキを予定しているという。

"生徒たちにとってみれば、大学一年目にして55(C+)以下の成績をもらってしまわないようビクビクしているところに、ようやく入学できた大学で家賃を払わないという暴挙に出ることを求められるわけだ"

パールやジェドのようなオーガナイザーたちがまず直面する壁は「ストライキ参加に勧誘する相手生徒たちとのあいだに信頼関係を築く」という難題だ。生徒たちにとってみれば、大学一年目にして55(C+)以下の成績をもらってしまわないようビクビクしているところに、「ようやく入学できた大学で家賃を払わないという暴挙に出ることを求められる」わけだ。この心理状態を利用して、UCLは実際に、ストライキ参加生徒に罰則を与えた。しかしこれに関しては政府の競争・市場庁が早急に介入し、国内の全大学(特にUCL)に通達で「生徒たちに対し、彼らが学校側に家賃の滞納があるからという理由で脅しや制裁措置などを講じてはならない」「学費ではない料金未払いがあるからという理由で生徒たちを脅したり、制裁措置を講じたりしてはならない」と警告した。これで分かるように、生徒の家賃未払いを理由に大学側が生徒を除外するまたは退学させることはれっきとした違法行為なのだ----この事実がストライキに参加する学生たちの状況を興味深いものにしている、とベンは着目する。「アクションを起こせる生徒がいる一方で、アクションを起こせない生徒もいるんです」と彼は指摘する。民間学生寮賃借セクターでは、たとえば不確かな住民登録状態の生徒や、未成年扶養家族がいる学生、特に未婚で未成年扶養家族がいる学生などが、家賃を支払わないことで大きなリスクを背負うことになるのです。追い出されてしまえば、彼らは行き場をなくすわけですからね。一般的には、もし生徒が退去処分となったとしても、若い生徒であれば身軽ですし、友人や知人のつてを使って比較的早急に立ち直ることができると考えられます。現在巻き起こっているストライキは、いまイギリスに起こっている住宅危機に影響を受けているすべての民間人を盾に行われているようにも見えます」。ジェドはまさにこの視点からストライキに参加している。「そこにリスクがあるということに危機感を持ったことはないですね。他の人たちがみんなやるなら、僕もストライキに参加します」

大学側は、家賃をおしなべて週5ポンド値上げする方向で動いており、これが「一般的な市場の平均価格が変動したとしてもそれに影響を受けることなく」値上げがなされるのだとジェドは言う。そこに入居する生徒や生徒の保護者の同意がなくても大学側が有無を言わせず値上げに踏み切る現状は、イギリス国内全体の経済情勢を受けての結果なのだとジェドは話す。諸料金や家賃がこれほど非現実的なレベルにまで引き上げられている今、「平等に与えられているはずの学習の機会が、経済的状況によって完全に制限されてしまう」と彼は言う。ベンは、これが国民の反対感情を抑え込む、保守派上層部による策だと見ている。「大学という場所は、昔から自由な考えやカウンターカルチャー的思想が生まれ、育まれるところだからです」。従来の民主的な考え方でこれを「学校の所業」だと考えれば、もちろんこれは許されるべきことではない。しかしこれを「数百万ポンドという利益を上げる企業」と考えれば、大学=企業側が不都合な要素を取り除こうとする動きも合点がいく。「現在の高等教育のモデルを提案し打ち出したのは、イギリス石油会社のトップの連中です。彼らがどれだけ高等教育セクターについて理解していたかは、疑わしいですよね」とベンは話す。「この高等教育政策全体が不完全だし、それにかかる予算も政府を追い詰めている。それでも現在の高等教育政策が強行採決された背景には、彼らにとってこれが『単にお金の問題ではなかった』という事実があります。彼らが企んでいたのは、『大学というものの体制を根本から変える』というところにあったのです」。ストライキに参加する生徒やアクティビストたちにとって、家賃支払いの拒否は、大学の搾取に対する拒絶を示す行為であり、また学校の私物化を着々と実現している大学に対する拒絶なのだ。「再建を進めたい大学側は、事業拡大の一環として学費と家賃を吊り上げているわけで、我々が家賃の支払いを拒むことで大学が家賃収入を財政構造から『あてにできない』として外せば、これを政府と大学の問題へと押し上げることができるかもしれないのです。そうやって、現行のシステムにほころびを生んでいかなければならないのです」

Rent Strikeに参加する生徒の数が数百人へと膨れ上がり、数千人の学生たちが春のストライキに参加すると発表している今、そのほころびはますます明らかになっていく。個々のグループが小規模なキャンペーンを行なうことから大きなムーブメントが生まれ、この国で家賃支払いのサイクルに疲弊している人々に飛び火するだろう。大学はこれまでより少し大きく、少し華やかに見えるかもしれないが、ハード面は変わっていない。問題はソフトだ。その中身は、あらゆる意味で変わってしまっている。不動産と私有化のために奮闘する大学が存在する一方で、教育の平等のために戦っている人々が存在する。冬が到来して、春学期ももう間近だ。私たちに与えられた選択肢はひとつしか残されていない。ストライキだ!

Credits
Text Bertie Brandes
Original image by John Walker
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.