ファッションマガジン

キーワードは「リアルな男の子」、男性モデル業界の最前線とは?

格好いい・かわいいだけでは不十分----キャスティングの現場に、映画的なアプローチが導入されはじめている。

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男性モデルの世界には、限られた人数のビッグ・ネームが存在するのみ----それもそのはず、シーズンによって、ショーによって、そしてデザイナーによって、ストーリーもまた違い、そこに求められるキャラクターも違うからだ。「僕は短編映画みたいに、シナリオを考えてコレクションを作る」と、Dior Hommeのデザイナーであるクリス・ヴァン・アッシュは先日のショーでのキャスティングについてi-Dに語ってくれた。「今シーズンは、誰もが思い切り自分を表現できるレイヴ・パーティという設定でショーを作った。群集の中に、ダーク・スーツを着たミステリアスな男の子が立っている。誰もが彼に注目する----それがDiorの男」。今、デザイナーたちは、メンズウェアの歴史においてかつてないほどそれぞれ独自のストーリーを語ろうとしている。それを視覚的に語る上で、大きな役割を担っているのがキャスティングだ。

かつてはリック・オウエンスやラフ・シモンズ、エディ・スリマン、山本耀司などの天才たちが得意としたキャスティング・アプローチだが、現在では、最も保守的と考えられるメゾンですらも取り入れるほど一般的なものとなっている。多くブランドは、これまで長きにわたって特定の身体的特徴をベースにキャクティングを行なってきた。「ここ数シーズンで変化が起きているように思えます。ブランドがそれぞれ独自の世界観を表現しようとしている。だから、"誰がホットか"ではなく、"誰がその世界観を体現してくれるか"というキャラクター重視の起用が多く見られます」と、SacaiやCélineのショーでキャスティング・ディレクターを務めるアダム・ヒンドルは話す。「キャラクターとして信憑性のあるモデルを起用したいという気持ちがあって、"バンドをやっていそうな男"や"詩人"など、"デザイナーが求める世界観に合ったモデル"を探すんです。デザイナーやスタイリストは、コレクションに込められたメッセージを体現してくれる人物----ストーリーを物語ってくれるキャラクターを求めているんです」

最近になり顕著になってきたこのトレンドを受けて、完璧な容姿を持つモデルではなく、"リアリティとペルソナを体現するモデル"の発掘・手配を得意とするキャスティング・エージェンシーが生まれた。エヴァ・グーベル(Eva Göbel)が立ち上げたTomorrow Is Another Day社がVetementsやBALENCIAGAのショーに起用されたモデルを多く抱えている他、MidlandやRockmen、Lumpenといったオルタナティブ系モデル・エージェンシーが現在のファッション業界で大躍進を見せている。

「映画業界からファッションの世界に入った」と、モスクワをベースとするモデル・エージェンシーLumpenを立ち上げたアヴドッヂャ・アレキサンドロヴァ(Avdotja Alexandrova)は言う。「ファッションに、リアルな人間の存在感を持ち込みたいですね」。ストリートを体現する存在感は、新たな規範となった。物事に対する考え、個性は絶対条件。欠点は魅力。「デザイナーは、モデルたちの人生に興味を示しはじめています」と、パリのRockmenでブッキング部長を務めるアントワン・デュ・ハイユ(Antoine Du Hayot)は話す。「例えば、うちのラファエルは名門学校で文学を専攻する学生です。ブランドはそういう話を聞くととても喜びます。そういうことは、女性モデルの業界では起こりません。女性モデルの世界では、彼女達に"モデルのキャリアにだけ尽力していてほしい"と考える傾向にあるんです」。しかし、女性モデルのキャスティングも手掛けるアダム・ヒンドルによれば、女性モデル業界も進化を見せているという。「最近になって女性モデルにも同じことが起こり始めていますよ。"人柄や個性を重視したキャスティングがイメージ構築のキーとなる要素"と考えているブランドも現れてきました。女の子のほうがヘアやメイクで変身させやすいのも事実ですね」

長きにわたり、「ニュー・フェイス」という言葉は成功への鍵のひとつとされ、良くも悪くもメンズウェアの世界ではひとつのパターンとなっていた。Hermèsのキャスティング・ディレクター、ソフィー・ブリュイノーグ(Sophie Bruynoghe)も、キャスティングの進化について言及している。Hermèsは、キャスティングにおいて、クラシックで男らしい独自の男性像が求められることで広く知られているメゾンだ。「一歩一歩着実にキャリアを築いていくのではなく、中にはそのシーズンの"It"ボーイになって、その後あっという間に消えていってしまう子もいる」とブリュイノーグは語る。「男性モデルたちはとても若くて、それゆえすぐに体型が変わってしまいますからね。そして、近年は、見ている方も飽きやすい傾向にある。特に少し変わった見た目の男の子はすぐに見飽きてしまう。進化する世界と歩調を合わせる形で、男性モデルの民主化も進んでいて、それはポジティブなことだと思います。誰もがトライできる仕事になってきている。しかしながら、そうすると大勢のライバルが生まれることになり、この業界でキャリアを築くのが難しくなるわけです。これをキャリアとしていける男性モデルの数は限られています。そしてそれは運に左右されるところが大きいのです」

要するに、多様なモデルが登場しても、彼らの成功は長続きしないということだ。アントワンはそれをポジティブに捉えている。「いま人々が求めている男性モデルのほとんどが、この仕事で食べていこうなんて考えていないんです。彼らの多くはモデルの仕事をプラスアルファと捉え、それぞれに他の分野で夢を追いかけています。私たちも、彼らには"自分の目標を忘れずに"と言い聞かせています。そして面白いことに、男性モデルの発展によって業界も変わっていている。断言はできませんが、こうした変化がファッション業界のシステムをより健在な状態へ導いてくれるのかもしれません」

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William, 18, American (J.W.Anderson, Facetasm, Loewe, Etudes) @ Elite

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Zacharie, 18, French (Dior, Berluti, Lanvin) @ Success

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Horry, 19, French (Paul Smith, Kenzo, Off/white) @ Rockmen

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Raphaël, 19, French (Valentino, Officine Générale) @ Rockmen

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Anton, 17, Danish (exclusive Gosha Rubchinskiy) @ Success

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Credits
Text Tess Lochanski
Photography Jun Yasui
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.