ファッションジャーナリスト

"メタボセクシャル"の衣食日記(5-1)―パクリとサンプリングの線引き

 アダストリアが展開する「ハレ(HARE)」は、そこそこの感度のメンズ服をそこそこ買いやすい価格で提案してきたブランドである。エディ・スリマンが手掛けていた「ディオール オム(DIOR HOMME)」の細身のジャケットが大人気だった時代に、ハレの同じようなジャケットが"プアマンズ・ディオール"としてプレミアが付いたのも記憶に新しい、と思ったらもう10年も前の話だった。そのハレが、東コレの舞台に初参戦するということで、まあまあ楽しみにして品川の倉庫へ向かった。

 結論から言うと、これまで東コレに参加してきた量販系ブランドの基準を遥かに超えてきた。モードとして見てもちゃんと形になっているし、来シーズンの欧米のトレンドを丹念にあぶり出し、それをモードと和の世界感の中に上手く溶け込ませている。フィナーレの姿から察するに、クリエイティブディレクターはまだ30代前半だと思うが、今の時代のデザイナーに必要不可欠なサンプリング能力を高い次元で備えていると思った。

z-hare-2017aw-20170320_003.jpg

 ただ、1月にロンドン〜フィレンツェ〜ミラノ〜パリのメンズコレクションを取材してきた目には、既視感があったのも事実である。完全にそのまま流用しているというわけではないが、「クレイグ・グリーン(CRAIG GREEN)」、「ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)」、「ワイ・プロジェクト(Y/PROJECT)」、「CHRISTIAN DADA(クリスチャン ダダ)」、「ディーゼル ブラック ゴールド(DIESEL BLACK GOLD)」、「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)」、「サルバム(sulvam)」らとの類似性を随所で感じた。

>>HARE 2017-18年秋冬コレクション

 ヨーロッパのメンズのファッション・ウィークと日本のファッション・ウィークは、秋冬で2カ月、春夏で3カ月半の"時差"がある。つまり物理的に、東京ブランドはヨーロッパのトレンドを研究してから企画することが可能なわけだが、ここまで狡猾に数多のブランドの"カッコいい"を盛り込んできた例は記憶にない。かつて、ギャル全盛期の109ブランドがこの手法で批判を浴びたことがあったが、まさか東コレの舞台でそれを見ることになるとは思いもしなかった。

道玄坂のドSな看護婦さん

なんとなく煮え切らない気持ちを抱えつつ、山手線で品川から渋谷へ向かった。次のショー会場は、渋谷の道玄坂の駐車場。シンガーでありDJでありデザイナーでもあるマドモアゼル・ユリアが手掛ける「グローイング ペインズ(GROWING PAINS)」のデビューコレクションだ。 

z-GROWINGPAINS-03-20-17-20170320_018.jpg

 テーマは戦中のナース。道玄坂という"戦地"を歩く看護婦たちは、マドモアゼル本人のキャラクターを連想させる"強め"の女性像が大半である。なかには、二の腕の部分がパフスリーブになったピンクのミリタリーセーターを着た女子力高めのナースや、戦地には似つかわしくないミニスカートを穿いたアイドルみたいなナースも散見するが、足元はドクターマーティンの編上げブーツ。傷口を消毒してもらって「しみる!」とか言ったら、マーティンで踏んづけられそうだ。

 今回マドモワゼルがサンプリングしたのは、各国のミリタリーである。でも、インターネットで軍物の写真を見つけて、デザインに落とし込むなんていう生易しいことはしていない。リアルマッコイズや東洋エンタープライズと見紛う出来映えのMA-1やB-15は、前が長くて後ろが短い本物に近い仕様だし、最後のほうに出てきたフード付きのミリタリージャケットは、スイス軍のM57のアルペンカモとアメリカ軍のタイガーストライプを掛け合わせたものだろう。メンズの職人系ブランドのデザイナーに遜色ない堂々たる"ミリオタ"っぷりである。なんでも、妹が秋葉原のミリタリーショップに勤めていて、珍しい物を見つけると情報が降りてくるのだという。

z-GROWINGPAINS-03-20-17-20170320_0024.jpg

 総括すると、とにかく強くて可愛くて疾走感のあるコレクションだった。久しぶりに東コレに戻ってきたG.V.G.V.の次を担う存在が、ようやく出てきた気がした。欧米ではここ数年、DJやファッション以外のクリエーティブディレクター出身のデザイナーが台頭している。オフ-ホワイトのヴァージル・アブロー、マルセロ・ブロン、「フィア・オブ・ゴッド( FEAR OF GOD)」のジェリー・ロレンゾ、「アリクス(ALYX)」のマシュー・ウィリアムスらが代表的な存在で、かれらはラグジュアリー・ストリートというシーンを世界同時多発的に作り上げた。90年代に"裏原"で世界のストリートをリードした日本はというと、置いてきぼり。「ディーティーティーケー(D.TT.K)」や「シーイー(C.E)」や「アンブッシュ®(AMBUSH®)」がシーンに食い込んでいるくらいで、同じような出自のデザイナーの登場が待ち望まれていた。グローイング ペインズは、その中に確実に割り込んでくると思う。

>>GROWING PAINS 17-18年秋冬コレクション

 で、パクリとサンプリングの境目についてである。MA-1やリーバイス501などの永遠の定番をサンプリングしても誰もパクリと思わないし、ラフ・シモンズだって川久保玲だってしている。でも、同時代のデザイナーの同シーズンのデザインやアイデアを、さも自分で考えたように巧妙にアレンジして提案するのは、コレクションという舞台では「なし」だと思う。量販ブランドとはそういうものなのかもしれないが、ここはクリエーションで勝負する舞台なのだ。

増田海治郎