小島ファッションマーケティング代表

退化する店舗販売

 名駅前に開業する「タカシマヤゲートタワーモール」内覧会を取材して痛感させられたのが店舗販売の悲しいほどの退化だった。各テナントとも、それなりに力入れて店を作りVMDにも注力しているのだが、運営システムは一歩も進化しておらず、VMDスキルは退化が目立った。進歩的な一部のテナントがタブレットを並べてオムニチャネルなエンゲージメントやAI仮想試着システムを訴求する中、百年一日の店舗販売は古い写真の面影のように見えた。

 そう見えてしまう最大の要因は、1)テイストには拘ってもMDのスキルを欠いている、2)MDは組めてもルック訴求/アイテム訴求/カラー訴求などの陳列手法が稚拙、3)色相/トーンの色相環的配列スキルや建築的あるいは生花的フォルム構成の基礎素養を欠いている、の三点に尽きると思う。

 見た目の洗練やインパクトだけでなく現実に販売消化を促進するには、これらに加えてMD展開や在庫内容の変化に即した様々な再編集スキルが不可欠だが、DB運用との連携や天候変化対応など経験則の承継も必要で簡単には習得できない。しかし、前述した三点はパターンやスキルが確立されており、ビジュアル資料を使った研修や売場での実習を繰り返せば現場を担う人は容易にマスター出来る(デスクで数字で考える人は難しい)。

 なのに店頭が退化していくのはどうしてなのだろうか。それには二つの要因が推察される。ひとつは、低報酬やキャリアアップの制約が解決されないまま人材が流出して現場のスキルが承継されなくなった事、もうひとつは、経営陣が勢いのあるECやITばかりを向いて勢いを欠く店舗販売への関心が薄くなっている事だ。投資や昇進機会はもちろんだが、EC/IT分野と店舗現場とでは眼を剥くほど給与格差がある事も店舗現場の劣化を加速していると危惧される。

 オムニチャネルで先行する米国ではECの拡大が店舗販売を圧迫して雪崩的な閉店ラッシュを招いているが、それをもたらしたのは消費の移動だけではないかもしれない。EC/IT分野と店舗分野の給与格差は我が国の比ではなく、店舗販売を支える人々の疲弊と絶望、人材の流出が店舗運営の劣化を加速して雪崩的衰退をもたらしていると推察される。

 ファッション関連のEC比率が16年で10%の大台に乗り米国並みの19%へと迫っていく中、運営効率も在庫効率もECより格段に劣る店舗販売は、経営陣がECに注力すればするほど疲弊・退化し雪崩的に衰退していかざるを得ない。ECを幾ら拡大しても店舗販売を衰えるままに放置すれば、顧客との体験的接点を失ったブランドは遠からず縮小スパイラルに転じてしまう。

 店舗販売を捨てるつもりでないのなら、店舗運営の退化を放置すべきではない。それは店舗運営のスキルやシステムに留まらず、組織内の待遇と機会という根本的ガバナンスに関わる問題なのだ。

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小島健輔