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写真とは何か?を問う 『ホンマタカシ ニュー・ドキュメンタリー』

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 2011年1月の金沢21世紀美術館からはじまり、同年4月の東京オペラシティ アートギャラリーと続いた、日本を代表する写真家の一人であるホンマタカシ氏の初の美術館での個展となる『ホンマタカシ ニュー・ドキュメンタリー』が、最終の地、丸亀にある丸亀市猪熊弦一郎現代美術館ではじまった(~2012年9月23日)。
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 エキサイトイズムでは、先の二会場でのニュー・ドキュメンタリー展に密着取材し、そこで発表された各作品について詳細に報じてきた。今回の丸亀展のレポートでは、これまでの二つのニュー・ドキュメンタリー展と比べ、展示手法の面でもタイトル通りにドキュメンタリー色が増すとともに、展示のコンセプトがよりシンプルに明快になった本展の「ドキュメンタリー的な」側面に着目し、レポートをお届けしたい。

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丸亀市猪熊弦一郎現代美術館

 '80年代後半より広告写真の分野の仕事からスタートした写真家ホンマタカシ氏の活動は、'90年代の海外や国内でのファッション誌やカルチャー誌での仕事を経て、人物や都市といった被写体との独特の距離感をもちながら、バブル経済後の空虚感が漂う時代を表現すると同時に、それとは対照的な明度の高い写真で、時代を象徴する写真家の一人となった。

 ゼロ年代に入ると、写真のあり方をその歴史を踏まえたうえで、生態心理学やタイポロジーなどの科学的知見などを交えながら今日的な解釈で問い直す、広告写真とは一線を画す実験的な手法による写真作品への志向を加速させ、写真と現代美術を横断するような活動を展開するようになる。なおかつそれをギャラリーでの個展での発表と同時に、ファッション誌やカルチャー誌など一般のメディアにも発表し続けるという、ほかの写真家ではなし得ないような現代美術の表現とポピュラリティーを兼ね備えた、さまざまな意味で両面性をもった野心的な作品を発表してきた。

 そして2011年、満を持して開催した自身初となる美術館での個展が、金沢、東京、丸亀へと続く『ホンマタカシ ニュー・ドキュメンタリー』展である。
丸亀展において、これまでの二会場での展示とまずことなるのは、その作品の展示方法。これまでの二つのニュー・ドキュメンタリー展では作品のシリーズ、テーマごとに展示が周到に計画され、おのおののコンセプトが明確に浮かび上がるような展示手法が試みられていた。

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会場設営風景

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 金沢では、雪山で撮影された『Trails』から始まって、アメリカの映像作家マイク・ミルズとの共同作品『Together: Wildlife Corridors in Los Angeles』と、世界中で撮影されたマクドナルドの写真をシルクスクリーンでプリントした『M』、双眼鏡でホンマ氏の作品をのぞく『Seeing Itself』、これまでのマガジンワークなどが一冊の雑誌に纏められた『re-construction』、一人の少女の成長の過程をおったファウンドフォト(=複写した写真)を交えたドキュメンタリー的作品『Tokyo and My Daughter』と、こちらもファウンドフォトを交えイタリア ラパッロに暮らす未亡人を撮影した『Widows』といった、撮影された時期が重なったり同時期であった作品が、建築家ユニット「SANAA」が設計したサイズも形状もさまざまな複数の展示室ごとに、各シリーズに整理、ふりわけられ展示されていた。

 東京オペラシティ アートギャラリー展では、金沢展で作品展示が本会場をとび出すサテライト展がギャラリー「SLANT」一軒のみだったものが、東京展では都内9ヶ所に増え、本会場での展示作品も金沢21世紀美術館にはなかった、ホンマ氏が敬愛する写真家 中平卓馬氏の日常をモチーフとしたビデオインスタレーション作品『Short Hope』がラインナップに加えられたが、シリーズごとの展示方法はほぼ踏襲されていた。

 さて、丸亀展だが、本展では1999年に撮影された『Tokyo and My Daughter』からはじまって、2012年に撮影された『Tokyo and My Daughter』の新作で終わるという、時系列で展示する手法が今回初めて試みられている。

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 写真や美術において、時系列での展示は何も珍しいことではないが、ホンマ氏の作品は先ほども書いた通り、撮影時期が複雑に交差しながら主題ごとに複数のカテゴリーに分類さられているところにひとつの特徴がある。ホンマ氏は写真家として多層化する自身の作品の被写体を、テーマごとに整理し分類することで、作家性を強固にしてきたのであり、そこで分類されたそれぞれのカテゴリーは、おのおの独立しながらも、他のシリーズとその作家性において通底することで、さらにシリーズごとに補完しあい、強度を高めているようにもみえる。テーマを横断しながら複雑な時系列で撮影されるホンマ氏の作家性に照らし合わせると、時系列での展示方法への転換は、その「テーマ」の解体にもつながる一大事なのである。

 今回の丸亀展では、これまでシリーズごとに分類されていた作品が、一度時系列にそって解体され、展示コースにそって制作年を示す西暦の年号がウェブページのタグのように壁面にスタンプされている。だが観方をかえると、実はそのスタンプではなく、ここでは作品自体がそのタグの役目をしており、展示会場のなかで、相互リンクをはっているようにもみえてくる。そのことで鑑賞者はむしろ当初意図された時系列ではなく、個々の作品のテーマを強烈に意識しながら、会場を歩くことになる。実際に初期の展示構想には、シリーズごとに展示された作品に制作順に番号をふり、それを鑑賞者が手引きを参照しながら、ランダムに作品を観て回る、というアイデアもあったようだ。時系列ごとに解体され、シャッフルされたようにみえるシリーズはそのつながりを一度解体することで、むしろそのシリーズごとのつながりをより強固にしているともいえるのだ。

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 自身の作品の再構築をともいえるその組み替え作業は、テンポラリーな展示装置に、よりいっそう顕著だ。ニュー・ドキュメンタリー展の2回目となる東京オペラシティ アートギャラリー展でのサテライト会場のひとつ「ギャラリーここ」での建築家 大西麻貴氏による『Seeing Itself』のための巨大な望遠鏡の鏡胴のような什器は、ここ丸亀では、什器そのものが建築家自身の手により新たに再構築され、その装置での展示作品の内容の一部までもが刷新されたうえで、会場内の三ヶ所に分散され展示されているのだ。
 
 決定的瞬間を捉えるという写真しかもちえない視覚の優位性よりも、コンセプトを明確にすることでその独自の作家性を確立してきたホンマ氏にとって、「分類し撮る」ことで構築してきたコンセプトそのものを解体するようにみえる、この時系列での展示手法への転換は、いったいどのようなことを意味するのだろうか?

 時系列にそった今回の展示で浮かび上がってくるのは、ひとつには決定的瞬間という物理的に瞬間を切りとるものである写真が、実際の時系列のもとに展示されることで、その被写体の種類によっては疑いようのない明確な時間軸をもつことだ。それは一人の少女のドキュメンタリーでもある『Tokyo and My Daughter』で、その少女の成長の過程を、あらためて時系列でみることで、一連の流れをともなった時間を記録するという写真がもつ機能が浮かび上がってみえることにもはっきりと表れている。

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 だが、本展開催前日に行なわれたプレスインタヴューの席上で、今回の展示手法を踏まえ、ホンマ氏の写真がもつ時間軸について尋ねると、計画的に時系列を追って作品をつくるというコンセプトもあると思うが、自分は結果的に時間軸が後から浮かび上がってくるのが写真の良さだ思うと語ってくれた。その言葉で、本展の時系列にそった展示手法のコンセプトが、いま言ったような意味での時系列という、字義通りのドキュメンタリー性こそが、この『ニュー・ドキュメンタリー』展のコンセプトであり意図ではないことははっきりと分かる。

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 写真はいまここにしかない特定の瞬間をドキュメントすることで、逆説的にどの一瞬をきりとっても等価値という、時間がもつその本質そのものが否が応にも反映されてしまうのだ。そこにこそあえて自ら設定したコンセプトを解体し、あらためて時系列に写真を構築しみせることに、つねづね写真行為においては決定的瞬間は重要ではないと語り、写真の「真」をうたがい、写真とは何か?を問い続ける、ホンマ氏が考える『ニュー・ドキュメンタリー』の意図するところの一端がありそうだ。

 今回、その配列組み替え作業は金沢展、東京展からさらに加速し、丸亀では、ついに美術とは関連のなさそうな、うどん屋や街頭、城の天守など、市街地全体に飛び火した。今回のサテライト会場は、駅前から丸亀城までの沿道沿いのお店を中心に、丸亀の繁華街をまんべんなく網羅し、さながらツールド丸亀といったおもむきをもつ、その名も『サテライトマルガメ』と名付けられた。

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丸亀市街地


 丸亀の名物であるうどん店、「うどん 浜っこ」では『NEW WAVES  2007』が、「うどん つづみ」では新作『中平ポートレイト 2011』が、それぞれ店内に展示されている。大通りの交差点に面した「ヘア&メイク バービカン」の外壁では新作『Why Photography? 2012』が、縦4.6m、横3.3mの横断幕にプリントされ屋外展示されている。「カフェ・ラ・トープ」では山の作品『Breithorn 2006』が、丸亀市立資料館では『東京郊外 1998』の発表当時の貴重なポスター作品が、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館内のカフェレストMIMOCAでは、菊地敦己氏/ホンマタカシ氏キュレーションによる、羽金知美・塩川いづみ・猪熊弦一郎の作品展示《猫と女》が行われている。

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『Why Photography? 2012』ヘア&メイク バービカン

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『NEW WAVES 2007』うどん 浜っこ

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『Breithorn 2006』cafe la taupe

 ホンマ氏が、丸亀の人びとにとっての日常のなかでいつもとは少し違う風景をつくりだしているこれらの作品をみて、「なんだろう」と興味をもってもらえたら嬉しい、と語るように、それぞれの展示場所で、期間限定でテンポラリーに出現したホンマ氏の作品は、この街の日常の風景に馴染んでいるともいえるし、ちょっとした異化のような現象をもたらしているようにもみえた。

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会場設営風景

 そしてサテライト展のきわめつけは、なんといっても丸亀市のシンボルともなっている丸亀城 天守に展示された、丸亀の子供たちを撮影した新作『丸亀の子供 2012』だろう。

 丸亀市街を高台から見下ろす、300年以上もまえに建立され、この街のシンボルともいえる丸亀城天守に展示された作品『丸亀の子供』は、作品ももちろん素晴らしいのだが、かつて美術が美術といわれるまえの、神社仏閣と、絵画と工芸など奉納品との関係性を想像させて面白い。

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『丸亀の子供 2012』丸亀城 天守

 丸亀市から車で西へ30分ほどの場所にある金刀比羅宮には、高橋由一をはじめ、狩野派の絵画や工芸など、日本の美術史的にも貴重な作品や工芸品がいまも数多く収蔵されているが、美術館やギャラリーが登場するまで、神社仏閣は美術家や工芸家の活動を支える、不可欠な存在であった。そのことも合わせて考えると、今回のサテライト展の会場になっているうどん店での作品の展示の風情などは、明治時代に浅草などの盛り場に実際にあった、絵画をみせるためのお茶屋「油絵茶屋」なども想像させる。

 今回、美術館を離れ、街中や城内に作品が展示される光景は、美術作品というものがかつて人々にとってどのような存在であったのか、あるいは日本の美術がその形成の過程で、はからずももってしまった権威とは何なのか、そんなことさえ連想させて興味深い。


 メディアを横断した活動で、ここ日本での写真のポピュラリティーを拡張してきたことは言うに及ばず、写真とは何かを問うことで、現代写真の新しい地平を切りひらき続けるホンマタカシ氏。

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 冒頭にこの丸亀がニュー・ドキュメンタリー展最終の地と書いたが、金沢、東京、丸亀の取材を通じての筆者の感覚では、ホンマタカシ氏の『ニュー・ドキュメンタリー』は、この地で終わりようがない気がしてきた。ふたたび、ほかの都市の美術館で新たな展示と新たな作品で、継続展開されることを期待したい。まずは丸亀でこの夏しかないホンマ氏の『ニュー・ドキュメンタリー』を、ぜひ体験していただきたいと思っている。

※本展に合わせて東京の「GALLERY 360°」(開催中~8月25日)
、「青山ブックセンター本店」(開催中~8月22日)でもサテライト展が開催中。

ホンマタカシ ニュー・ドキュメンタリー
開催中~2012年9月23日(日)
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館

取材/加藤孝司

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