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今週末見るべき映画「ソハの地下水道」

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「ソハの地下水道」(アルバトロス・フィルム配給)を見る前に、まっさきに、ポーランドの監督アンジェイ・ワイダが、1956年、まだ30歳そこそこで撮った「地下水道」を思い出した。1958年に日本で公開された「地下水道」は、1944年のワルシャワ蜂起で、多くの犠牲者を出しながら、地下水道に逃げ込んだレジスタンスたちの青春を描いた傑作である。

 「ソハの地下水道」を見た。舞台は、現在のウクライナ共和国、1943年当時、ポーランド領だったルヴフである。「地下水道」で描かれた地下水道は、レジスタンスたちの、いわば逃げ道であったが、「ソハの地下水道」での地下水道は、ナチスに追われるユダヤ人たちの隠れ住む場所として描かれる。
実話に基づいている。原作は、イギリスのBBCで、ドキュメント番組を多く制作したロバート・マーシャルの書いたノンフィクションだ。

 ソハという、風采のあがらない中年男がいる。下水道の修理工だが、暮らしはきびしい。ドイツ軍が占領していたルヴフは、ユダヤ人を隔離して居住させるゲットーがある町で、ソハは若い同僚と、泥棒稼業に精を出している。たまたま、地下水道にいたときに、ユダヤ人たちと出くわす。ユダヤ人たちは、強制収容所行きを逃れようと、家の床をくり貫いて、地下に穴を掘っていたのだ。通報すれば報奨金がもらえるが、ソハは、ユダヤ人たちを匿い、口止め料を生活の足しにしようと思いつく。金を取るだけ取って、通報はその後でも出来る、という算段だ。地下水道はソハの職場である。迷路のようになっているが、ソハにとっては庭のようなもので、ユダヤ人たちを匿うことくらいは、とソハは考える。ところが、金目当てで、ウクライナの将校たちが、ユダヤ人を追っている。ユダヤ人を匿うこと自体が、処刑の対象になる。やがて、ソハの身にも、危険が迫ってくる。

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 ソハは、いったん手を引く決心をするが、ユダヤ人たちの状況につき合ううちに、狡猾だったソハに、別の感情が芽生えていく。逃げ延びようとするユダヤ人たち、匿おうとするソハの描写が、たいへんリアルである。多くのエピソードが、効果的に挿入される。時代背景を事細かに説明しないが、ナチスから逃げようとするユダヤ人たちの生き方、行動から、当時のポーランドの状況が浮かび上がる。口数の少ないソハを演じたのは、ロベルト・ヴィェンツキェヴィチ。舞台のキャリアが多く、ポーランドでは名優のひとり。「連帯」の創始者、レフ・ワレサ元大統領を描いたアンジェイ・ワイダの新作「ワレサ」に主演している。近く、日本でも公開されるはずである。必ずしも善人でなかったオスカー・シンドラーの偉業に比べると、レオポルド・ソハの成し得たことのスケールは小さい。しかし、最終的に、一人の人間として、まっとうな生き方を貫いたソハの行動に、心打たれる。

 監督は、ポーランドのワルシャワ生まれで、「オリヴィエ オリヴィエ」や、最近では「敬愛なるベートーヴェン」を撮ったアグニェシュカ・ホランド。前半はゆったり、そして、さまざまな出来事が重なり、徐々に緊迫の度合いが増していく。ソハという人間そのものや、ユダヤ人たちの群像を、女性らしく、細やかに描き、鋭さと冴えのある演出だ。「ソハの地下水道」のアグニェシュカ・ホランドは、「地下水道」のアンジェイ・ワイダから、「映画」の教えを受けている。

 原作となった「ソハの地下水道」(集英社・杉田七重訳)は、多くの人物を取材して、回想が散りばめられた構成だ。映画では、人物の設定や、ラストの描き方などに、原作との相違点があるが、骨格となる運びは、ほぼ同じである。映画をご覧になった後、原作を読まれると、さらに心震えるはずである。

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Story
 舞台は1943年、当時はポーランド領だったルヴフ。ナチスによるユダヤ人狩りが猛威をふるっている。小太りの中年男、ポーランド人のソハ(ロベルト・ヴィェンツキェヴィチ)は、下水の修理工をしている。貧しい暮らしぶりに、仲間の若者シュチェペクとふたりで、今日も泥棒稼業に精を出す。誰もが貧しい暮らしである。盗みに入る家には、高価な物品があるわけではないが、ともかく、ソハはコソ泥の副収入で、妻のヴァンダ(キンガ・プライス)と幼い娘のステフチャを養っている。

 ふたりは、盗んだ品を、勝手知ったる地下水道の壁の中に隠し、状況に応じて、適当に売りさばいている。今日も、盗んだ品を隠していると、どこからか物音がする。なんと、ナチスから身を隠そうとしているユダヤ人のグループが、家から地下に穴を掘って、それが、地下水道と繋がったのだった。

 ソハは、詐欺師まがいの青年ムンデク(ベンノ・フユルマン)と、教授と呼ばれている裕福そうなヒゲル(ヘルバート・クナウプ)たちと出会う。ソハは、通報すれば金をもらえるが、ユダヤ人をこのまま匿っておき、まずは口止め料をせしめ、通報はその後でもできる、と思いつく。敵はふたり、こっちは大勢、このまま殺してしまおうと提案するムンデクに、ヒゲルは穏便にすまそうと、ソハの提案する口止め料を払うことにする。

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 ユダヤ人たちが隔離され、居住しているゲットーから、強制収容所への移送が始まっている。多くのユダヤ人たちが、ヒゲルたちの作った地下水道への抜け穴に集まってくる。地下水道は、ソハにとっては庭のようなもの、ユダヤ人たちを、地下水道の隠れ場所に案内する。もちろん、地下水道は、暗くて、ひどい臭い、たくさんのネズミもいる。明かりはカーバイドのランプとローソクだけだ。ユダヤ人を捕らえると、ドイツ軍から報奨金が出る。金目当てのウクライナの兵士があちこちにいる。ある日、ユダヤ人と間違えられたソハは、逮捕されそうになるが、たまたま、旧知のウクライナの将校ボルトニック(ミカエル・ルワウスキー)に救われる。「ユダヤ人が地下水道に隠れているらしい、見つけたら通報しろ」というボルトニックに、「もちろん」と答えるソハ。

 ソハは、パンやハム、玉ねぎなどの食料を買い込んで、地下水道に降りると、大勢のユダヤ人がいる。とても、面倒をみれる人数ではない。せめて10人くらいだ、とソハ。ユダヤ人たちが地下水道に逃れていることは、ウクライナ兵が知ることになり、隠れ場所を別のところに移さねばならない。なんとか、ヒゲルと妻のパウリナ(マリア・シュラーダ)、幼い子供のクリシャとパヴェラ、ムンデク、若い女性のクララ、愛人関係にあるヤネクとハヤたちの11人が、ソハの案内で、新しい隠れ場所に移動する。ボルトニクがソハの家にやってくる。地下水道には誰もいないと答えるソハだが、娘のささいな一言から、ソハがユダヤ人を匿っていることを確信するボルトニク。やむを得ず、ソハは、ボルトニクを地下水道に案内するが、なんとかごまかしてしまう。気付いた妻は、家族全員が処刑されると、ソハに迫る。

 シュチェペクが、身の危険を感じて、ソハの許を離れる。なんとか、隠れつづけているヒゲルたちは、金が底をつく。もう金がもらえない、身の危険もあると感じたソハも、ついに手を引く決心をする。食料を求めて、やむを得ず、ムンデクが地上に出る。まもなく、ムンデクはドイツ兵に見つかる。たまたま、通りかかったソハは、ムンデクを助けようとして、ドイツ兵を殺してしまう。地下水道の点検中、ソハは、迷子になったクリシャとパヴェウに出会い、隠れ場所に戻してやる。母親のパウリナから感謝されるソハ。極限状況で生き延びるユダヤ人たちの様子を見て、ソハは思わず、「また、支援する」と答える。

 兵士が殺された報復として、ドイツ軍は、10名ものポーランド人を縛り首にする。その中にシュチェペクがいた。愕然とするソハ。ソハの心が揺れ動く。そして、事態は、ますます逼迫してくる。大雨が降る。地下水道の水かさが増す。ユダヤ人たちの運命は、そして、ソハは・・・。

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文/二井康雄

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