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太宰府天満宮で開催中のフィンランドテキスタイル展をレポート

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 フィンランドテキスタイルを展示する展覧会、『フィンランドテキスタイルアート 季節が織りなす光と影』が、太宰府天満宮宝物殿で開催中だ。福岡県太宰府市に位置する太宰府天満宮は、御祭神・菅原道真公が祀られた学問の神様として知られ、毎年日本全国から約700万人が参詣に訪れている。

 また文芸・芸能・芸術の神様として崇められており、古来よりアートとの関係が深いことで知られている。太宰府天満宮宝物殿は太宰府天満宮の境内にあり、創建以来寄せられた、古文書や美術工芸品などの5万点あまりの貴重な文化財が収蔵されている。2006年からは現代美術にまつわるアートプログラムも開催。これまで、現代美術家の日比野克彦や小沢剛、ライアン・ガンダーなど国内外の作家を招き個展を企画するなど、国内における現代美術のあらたな発表の場となってきた。境内の絵馬堂には歴史的な絵馬にまじって、2009年に奉納されたマイケル・リンの絵馬が掲げられている。また境内、菖蒲池ほとりの梅林の中などには、2011年のライアン・ガンダーの個展『You have my word』の際に設置された、ガンダーの3つの作品を今も見ることができる。

 フィンランドテキスタイルアート展に展示されるのは、フィンランドのテキスタイルデザイナー、マイヤ・イソラ、テキスタイルデザイナーでアーティストのドラ・ユング、1974年よりマリメッコのテキスタイルデザイナーとして30年以上にわたり作品を発表してきた石本藤雄の作品。
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 マイヤ・イソラは日本でも人気の高いフィンランドのテキスタイルメーカー「marimekko」の最も有名なデザイナーとして知られる。花がひらいた様子を大胆な絵柄にした「Unikko」(マリメッコ 1964年)や、黒と白を有機的な文様にあしらった「Joonas」(マリメッコ 1961年)など、インテリア好きならずとも一度は目にしただろう、テキスタイルデザインの名作を数多く手がけたフィンランドを代表するテキスタイルデザイナーだ。

 ドラ・ユングはフィンランド第二の都市タンペレに1865年に設立されたタンペラ社で、長年にわたりダマスク織の開発とテキスタイルのデザインを提供。50年代にはデザイン・美術・工芸品の博覧会「ミラノ・トリエンナーレ」で3度のグランプリ受賞や、フィンランドの航空会社「フィンエアー」の機内用テーブルセッティングのデザインを手がけるなど、フィンランドでは国民的デザイナーとして活躍した実績をもつ。2007年のVapriikkiミュージアムなど、多くの回顧展が開催され、国内外で再評価の機運が高まっている。

 石本藤雄はマリメッコ社のデザイナーに就任以来、300点以上のテキスタイルのデザインを手がけてきた。1989年からはフィンランドの代表的な陶磁器メーカー「アラビア」のアートデパートメントにも在籍し、陶芸家としても優れた作品を発表している。その作品は、北欧の洗練されたデザインでありながら、背景に日本の美意識を兼ね備えたものとして、世界的に高く評価されているデザイナーだ。

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 フィンランドテキスタイルアート展では、宝物殿と境内に、歴史あるフィンランドテキスタイルのなかから、自然との関わりを思わせるテキスタイルを中心に展示している。自然と寄り添うように暮らすという、日本人が古来よりもつ自然観と共通する、フィンランドデザインがそのバックグラウンドにもつ自然というものが、美しいテキスタイルを通じてより身近に感じることのできる展示内容となっている。

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 空間構成はインテリアデザイナー小林恭と小林マナによる『ima』が手がけている。imaは国内外のマリメッコのショップのデザインなどの仕事で世界的に活躍するインテリアデザイナーユニット。今回imaは太宰府天満宮の歴史を参照しながら、宝物殿の歴史的収蔵品と、フィンランドモダンデザインから生まれたテキスタイルを、絶妙に調和させて展示させている。 なかでも会場エントランスに伏した牛の彫像とともに展示されたテキスタイルは、太宰府天満宮とその御祭神道真公の物語とにおいて縁深いものだ。

 太宰府天満宮には鹿、鶯、牛など多くの動物が奉納されているが、菅原道真公にもっともゆかりの深い動物として知られるのが牛である。境内にはさまざまな姿勢で休む11頭の牛たちの彫像がある。そのすべての牛が伏しているのは、道真公の亡骸をのせた牛車が、当時の四堂のほとりで止まって動かなくなった逸話に由来している。フィンランドテキスタイルとともに展示されている牛は、宝物殿のこの場所に常設されている、境内の11頭の牛のうち、一番新しくつくられた一頭。その背には太宰府天満宮の神紋である梅の刺繍がほどこされた橙色の布がかけられている。その牛の後ろに牛をモチーフとした鮮やかなオレンジ色のテキスタイルが展示されている。太宰府の歴史と、洗練されたフィンランドテキスタイルの歴史とが出会った、本展でも強い印象を残す、とてもドラマチックな演出をもった展示作品といえるだろう。

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©Taro Misako

 本展は、宝物殿と境内の屋内と屋外というまったく異なる空間で、フィンランド生まれのテキスタイルが展示されている。宝物殿の展示では寒いフィンランドの冬の影をイメージした作品を中心に、陰影深いテキスタイル作品を展示。屋外展示が中心となる境内での展示では、ポップで明るい色めをもつテキスタイル作品を選んで展示しているという。

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©Taro Misako

 フィンランドをはじめ北欧の人びとは、長く厳しい冬の寒い時期を、室内で楽しくすごす知恵を、創意豊かに絞ってきた。その暮らしのなかでの知恵や、工夫のあらわれが現代にもみられる北欧生まれのデザインの数々である。なかでもテキスタイルデザインは、食卓や、窓辺を明るく彩るものとして、北欧の国々の独自の文化や、自然の風景を色濃く反映させながら進化してきた歴史をもつ。森の緑豊かな景色や、薄暗くどこまでも続く森。そして陰影の深い水をたたえた物憂げな湖の表情。それら北欧の国々に固有の風景がフィンランドテキスタイルデザインに反映されてきたことは間違いがない。太宰府天満宮の環境も、樹々の生い茂る森と池のある、小さな自然と例えることができるだろう。北欧の国々の大自然と、太宰府天満宮の風景は、自然というモチーフにおいてつながっているのだ。

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 石本藤雄の「Kuiskaus(ささやき声)」(マリメッコ 1981年)が敷き詰められ展示されたコーナーでは、フィンランドのテキスタイルと、太宰府天満宮創建当時から現代までの日本の美術工芸品とのコラボレーション展示をみることができる。石本がデザインした淡い水墨画のような黒で、ところどころかすれた濃淡で描かれたテキスタイル。それを川の流れのように見立て、さらに時の流れに見立てたたものに、宝物殿の収蔵品を取り合わせた展示手法は、一幅の絵巻物をみるような、味わい深いものがある。

 また向かいあった展示コーナーの、白八藤丸文の奴袴(さしぬき)、紅綾横菱繁文の単(ひとえ)、輪無唐草文の袍(ほう)などの神社の装束を、ファブリックと見立てた展示も見応えがある。フィンランドのテキスタイルと、日本の織物。その双方には、東と西、時代の違いを超えて、丁寧な手仕事、自然がもつつつましさに通じる表現など、共通する点が多いことに気づかされる。

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 今回、日本では初のまとまった展示となるドラ・ユングのアートテキスタイルは、フィンランドのタンペレ美術館が管理する、本国でも珍しい貴重なもの。プリントではなく、中世のころ、アジアからヨーロッパに伝わった織り方のひとつである、ダマスク織によるファブリックたち。その繊細な織りと微妙な光沢が放つ、質素でつつましい色と模様は、日本の伝統的な織物にも通じる美しさをもっている。テーブルクロスほどの大きさのものから、タペストリーのような大きな作品まで。教会や劇場、公共施設で着用される制服のテキスタイルも手がけるなど、ドラ・ユングの仕事は幅がひろい。自然や動植物、働く人など、身近なところにあるものをファブリックの絵柄のモチーフとしたかと思えば、造形が際立った幾何学的な模様のテキスタイルを手がけるなど、そのインスピレーションは多岐にわたっている。

 それらが北欧の人びとの暮らしのそばにある、身近な手仕事から生まれてきたものであることを考えると、とてもいとおしく見えてくるのではないだろうか。 本展に合わせて限定オープンした、 ポップアップショップも見逃せない。什器はテキスタイルと木材を組み合わせて、林に見立てたつくりで、ここには、イエンニ・ローペがデザインしたファブリック「Hutera(グラグラする)」(マリメッコ 2011年)が木の葉のように展示されている。このショップで先行販売されている、地元福岡で陶器やファブリック、版画を制作している鹿児島睦がデザインした新作ファブリックにも注目したい。

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 2月9日から24日まで(18日は休館)は、普段は入ることのできない太宰府天満宮文書館で、テキスタイルの展示も行われる。太宰府天満宮文書館は、菅原道真公の「御神忌千年大祭」の記念事業の一環として1901年に建てられた木造建築である。以前は、地元の芸術家たちが御前揮毫をした場所で、今回この場所にはマイヤ&クリスティーナ・イソラの「Joonas」、「Lokki(カモメ)」(マリメッコ 1961年)が展示されている。

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 襖と畳、障子と鴨居、床の間と飾り棚、部屋と部屋との連なりが素晴らしく、室内と庭の景色とが一体になったつくりは、建築物としての見応えも十分にある。館内には、鹿鳴館にあったものと同時代につくられたという見事なシャンデリアも現存している。ぜひフィンランドの名作テキスタイルと、文書館の空間との調和した展示を、この機会に体験をしていただきたい。

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フィンランドテキスタイルアート 季節が織りなす光と影
開催中~2013年3月10日(日) 9:00~16:30
太宰府天満宮宝物殿第2・3展示室及び境内
福岡県太宰府市宰府4-7-1
観覧料:一般400円、高大生200円、小中学生100円 HYPERLINK

取材/加藤孝司

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