Ota Nobuyuki

松屋銀座は今秋大改装、独自ディレクションの必要性

太田伸之

クールジャパン機構 代表取締役社長

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 25年間松屋のシンクタンク部門として活動してきた株式会社東京生活研究所が2月末に会社組織としては解散、今後は松屋のMD戦略室にその機能を移し、各カテゴリーの専門コーディネーターたちは従来と変わりなく業務を続けることになりました。

 同研究所は、伊勢丹専務から移籍した山中社長が、伊勢丹研究所のような百貨店から独立したシンクタンク部門を作ろうと発案、1988年に開業しました。ファッション、リビング、フード部門のコーディネーターを集め、外部の専門家にアドバイザーに迎え、百貨店のシーズンマーチャンダイジングの指針となるディレクションやマーケティング資料を作成するほか、内外商業施設のコンサルティングや百貨店事業立ち上げをサポートしてきました。私が山中社長と初めてお会いして「アドバイザーになってくれませんか」と言われたのがその頃でした。松屋と私の関係はこのときからのものです。

 山中社長と共に東京生活研究所設立に関わった方が元伊勢丹研究所の原口理恵さん(レナウン、高島屋、旭化成、伊勢丹、松屋でコーディネーターやファッションディレクターとして活躍、多くの有能な人材を育てたことで知られる)でしたが、残念ながら原口さんは同研究所設立寸前に急逝、ファッション分野で相談相手を失った山中社長は三宅一生さんに相談、三宅さんの推薦で「松屋の山中です」と私に電話がかかってきました。そのくだりは拙著に詳しく書きましたので省略します。

 東京生活研究所が最初に百貨店開業をサポートしたのは台湾・台中市の中友百貨店でした。確か台湾の大手ゼネコンを中心とする投資グループ、百貨店を開業するので助けてくれと要請され、松屋から駐在員数名を送って売場のゾーニングからリーシング、販売員やサービス部門のスタッフ教育など何から何まで百貨店業務のすべてを指導したと聞いています。それ以降、台北市、新竹市、嘉義市の各台湾百貨店の立ち上げや韓国LG百貨店(最大手LGグループの流通部門)のコンサルティング、また日本国内の地方百貨店などのお手伝いも行っていたので百貨店の研究所の割には大所帯でした。

 しかし、アジア圏の百貨店サポート業務が一段落、アジア各国では日系百貨店の屋号をつけたジョイントベンチャー形式あるいは日本の百貨店のダイレクト出店が主流になったこともあり、事業会社としての東京研究所は解散、その機能は松屋本体に移すことになったのです。コーディネーターたちの仕事はこれまでと何ら変わりありません、展示会やショーの招待状はこれまで通り送ってくださいますようお願い申し上げます。

 日本の百貨店の場合、なぜかファッションディレクション部門のスタッフが所属しているのは研究所あるいは研究室ですが、アメリカでは百貨店のシニア・バイスプレジデント兼ファッションディレクター直轄の下で仕事をしています。パリコレやニューヨークコレでサックス・フィフスやニーマン・マーカスなどアメリカ大手百貨店は社長とファッションディレクターが最前列に陣取り、その後方の座席にコーディネーターやバイヤー(近年バイヤーはショーには顔出さず展示会を回る傾向)が座るのが一般的。シーズンマーチャンダイジングの方向性、つまり小売店の半年間の商品政策を策定する重要な役割を担うチーム、そのトップはシニア・バイスプレジデントなのです。買い取りの真剣勝負をしている国だからでしょうか。

 日本は買い取り比率が極端に低く、顧客管理も在庫管理も販売もすべてベンダー側に委ねる消化仕入れ形態中心だからか、シーズンディレクションに対する意識が極端に低い。過去、百貨店の中にはシーズンディレクションを系列の研究所でもなく、外部のマーケティング会社に丸投げしてきた会社もありますが、半年間の商品政策の指針を外部機関に委ねるなんてアメリカではちょっと考えられないでしょうね。ディレクションは厚ければ良いというものではありません、方向性が明確にバイヤーや販促チームに伝われば簡単なもので構わないない。それを、いくら消化仕入れ形態が増えたとは言え、外部委託するのはどうかと思います。

 東京生活研究所に参画した1995年から、ディレクション制作にあたっていつもコーディネーターに言ってきたことがあります。和英辞典を牽いてワケわからない英語やフランス語を遣わないで欲しい、なんなら日本語で構わないと。当時、各社のディレクションには意味が曖昧で響きが良さそうなカタカナ文字が並んでいました。もしもこれがお客様の目に触れるプロモーション用のキャッチコピーなら、どうにでも解釈できて響きの良いカタカナでもいいでしょうが、ディレクションはマーチャンダイジングの指針、社内秘扱いなのです。どの部署のスタッフにも正しく理解できる共通言語、耳慣れたキャッチが一番です。だからなるべくわかりやすく書く、これを当時もいまも基本にしています。


 最初の頃は頻繁に言いました。もしも「海辺」を夏のテーマにするのであれば、今年自店が注目したい海はカリブ海なのか、エーゲ海なのか、それとも南太平洋なのかウエストコーストなのかをはっきりさせよう、と。具体的に示すことによって、軸となる色の合わせ方やコーディネートバランスのイメージがみんなに誤解なく伝わります。意味不明のカタカナ・フィーリング言葉は社内資料には不要、ディレクションを受け取る側が同じ空や海の色を想像してくれねば話になりません。

 また、世のトレンドに振り回されることなく、自店はいったい何を強くお客様に独自訴求したいのかを明確にすることもディレクションには大切なこと。バナナリパブリックがファッションブランドとしてとっても輝いていた頃、こんなことがありました。世のトレンドカラーはグレー、サブカラーはレッド、アメリカのどの百貨店もSPAストアもこれを大きく打ち出していたシーズン、バナリパだけは「カーキ」でした。広告もウインドーも通販カタログも店内VPもカーキ、オリーブ、キャメル、ダークブラウンがズラリ、それはそれは圧巻でした。バナリパのような大手SPA企業ならトレンド情報は他社以上に世界から集めているでしょうし、キーカラーがグレーであることは百も承知のはずが、それを勇気を持って外して独自のテーマと色調で秋冬シーズンを立ち上がったのです。これこそファッションディレクションのあるべき姿、腹の据わった独自路線には感動でした。

 単品平場が館の中に数カ所あった時代と、ブランド軸で売場構成されているいまとはディレクションの役割は若干違うでしょう。が、たとえブランドショップが増えようが、ブランド集積をどういう切り口で分類するのか、どういう方向性に売場と館全体をシフトするのか、そしてシーズンごとに各カテゴリーでどんな打ち出しをするのか、やはり指針となる独自のディレクションは必要です。方向性のはっきりしない売場改装は危険ですし、ディレクション抜きの改装オープニングではお客様は歓迎してくださいません。

 12年前の銀座店大改装のときは、ファッション強化をうたうため「+F」というキャッチを掲げ、ポピーレッドで全館埋め尽くしました。館内200体以上のマネキンと地下鉄通路の小ウインドーの雑貨もポピーレッドだったのでかなり迫力ありました。今秋9月には久しぶりの大改装オープニングを予定していますが、先の大改装時のような独自のディレクションで全館を1つにまとめたいです。研究所のMD戦略室統合によって、バイヤーとコーディネーターが同じ部屋で仕事することになり、両者の話し合いをこれまで以上に密にして確かな方向性を練り上げ、お客様にとって楽しくわかりやすいプロモーションを仕掛けねばと思います。

写真:ディレクションに沿ったプロモーションがうまいブルーミングデールズ

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