クールジャパン機構 代表取締役社長

IFIビジネス・スクールの教え子たち

 いまから20年ほど前、財団法人ファッション産業人材育成機構が発足した頃、両国国技館前のプレハブ仮事務所では毎週専門委員(業界人)が集まり、基本的な教育方針と運営方針、どんなカリキュラムを、どのくらいの期間、どんな講師が指導し、どんな人材を育てるのかを議論していました。理事長は「学校なんてもんじゃなく、形は寺子屋でも良いじゃないか」と主張する「実学の人」東武百貨店山中社長(当時)でした。いろんな考えの人が集まる検討会ですからまさに「会議は踊る」、なかなかものごとがスパッと決まらない、決められない状態が続きました。

 実践を教えるビジネススクールなのに、ただ会議を重ねるだけでいつまでも「実」が見えてこない、しびれをきらした私は山中さんに、「議論ばかりしてても何も始まらない。試験的に夜間クラスをまず立ち上げ、浮かび上がった問題点を解決して全日制につなげたらいいじゃないですか。私にやらせてください」と直訴しました。そして1994年秋、2つの夜間クラス「IFIプレスクール」がスタート。アパレル部門担任をわが盟友岡田茂樹さん(当時はダンロップスポーツ専務)が、リテール部門をCFD議長の私が担当、試験的講座なので参加費は破格の3万円、各クラス25人受講生を集めて始まりました。受講生には「きみたちはモルモットみたいなもの。ここでいろんな教育実験をして次につなげたい。だから受講費が安いんだよ」と説明しました。

 この試験的プログラムはのちに「プロフェッショナルコース」と名前を変更、5年後には週に4つの専門クラスが別々の内容で開講、コースディレクターの私は各コースの初日の授業と最後の演習発表は自ら指導し、大半は各コースの担任講師とゲストスピーカーにお任せしました。週に4回も夕刻をとられると夕食のアポが入れられず苦労しました。1998年にはプレスクールでの指導経験をベースに、全日制の「マスターコース」(一般は2年、企業派遣は1年就学)が始まり、1講座「小売マーチャンダイジング」を年間受け持っていたので本当にスケジュール管理が大変でした。

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 上の写真はIFIプレスクール・リテールコース初回モルモット生の1人だった大窪裕美くんが関わっているプロジェクトのホームページから抜粋したものです。IFIに参加した当時、大窪くんは大手紡績会社の日清紡勤務、京都工芸繊維大学大学院出身の技術屋さんでした。その後独立、現在はフリーランスとして繊維製品の商品開発を手がけています。その彼から先日FACEBOOK経由で連絡が入りました。「ご無沙汰致しております。私が開発した糸や素材で国内外に日本製繊維製品を広く売りたいと考えています。お忙しいところ恐縮ですが、ご助言やご紹介などいただければ幸甚です」。続けて、いま手がけている事業の説明がありました。


「おうちまわりに天然素材をおいて贅沢に過ごす」
私は繊維製品を素材から開発、発明してタオルや毛布マフラーを開発してきました。
主に糸井重里事務所で採用されネット販売されています。現在販売されている商品は下記URLにてご確認いただけます。
http://www.1101.com/store/white/index_2.html

 リネンコットンシリーズのタオルとブランケットが私の開発品です。
http://www.1101.com/store/kubimaki/2012_aw/index.html

 全商品を弊社で生産、糸は日本で始めて紡績に成功したウールコアヤーンです。糸井重里さんが中羊糸と名付けられました。
http://www.1101.com/store/kubimaki/2012_aw/chuyoshi.html

 私が紡績のエンジニアとして開発した糸なので、勿論他方でも販売しています。
私の自己紹介というか、自己PRの資料を添付いたします。
紡績会社から独立後、2003年に作ったタオルが糸井重里さんに採用され、ドクターコットンと呼んで頂き小さいながらも会社を安定させることができました。
http://www.1101.com/towel/2003-06-10.html

技術屋としてだけではなく、商品企画プロデューサーとしてもお仕事をして参りました。

さて、表題にも掲げた通り、ありきたりに聞こえるかもしれませんが、私が作る商品は今迄にない気持よさを提供します。なぜなら、今迄にない技術を取り入れているからです。現状では主に糸井重里事務所(ほぼ日)の読者だけですが、これからも技術に裏打ちされた本当の気持よさを国内外の消費者に提供したいのです。「おうちまわりに天然素材をおいて贅沢に過ごす」ことの喜びを提供したい。イメージやファッション性でライフスタイルに上質感をという切り口は安易な上、たぶん消費者にもバレちゃってると思っています。たいがいの場合安易な商品調達に陥り、使っていて贅沢な気持にならないことが多いと思っています。

これまでの繊維のお仕事を通じて紡績、織りから縫製まで国内のモノ作りネットワークを構築していますが、在庫を持っての販売やプロモーションについては弊社では全く力不足です。「ドクターコットンの商品企画」、「おうちまわりに天然素材で贅沢」をコンセプトにモノ作りをしたいのですが、この企画に興味をもってくれる小売店やアパレルがあればぜひご紹介くださいませ。


 大窪くんのメッセージに「ぜひご紹介くださいませ」とあったので、FACEBOOKでもこのブログでもそのまま掲載します。肌に優しいナチュラルな繊維製品の開発をプラン中の企業の方、ナチュラル系のファッションブランドの方、直接彼に問い合わせて素敵なMADE IN JAPAN製品を作ってください。とても真面目で研究熱心な男、きっとお役に立つと思います。

 大窪くんが受講したIFIプレスクールのリテールコース、応援してくれた講師の顔ぶれが凄かった。ユナイテッドアローズ重松理(当時)社長、バーニーズジャパン田代俊明社長(同、現在マイケルコーズジャパン社長)、伊勢丹武藤信一取締役(のちの社長)や二橋千裕部長(現在東急百貨店社長)、最終演習の課題は新宿伊勢丹1階「解放区」に新しい提案をする、でした。顧客分類、商品分類、展開分類、定数定量管理のマーチャンダイジング基本原則を最初に教えた、私にとってはファッション業界人材育成の原風景とも言えるクラスです。

 このクラス、受講生もなかなか優秀でした。大窪裕美くんと甲乙つけ難い優秀生が京都大学工学部出身の変わり種、ワコールの鈴木一くんでした。IFIでの刺激が強かったのか、それとも将来の起業を考えていたのか、受講して間もなくワコールを退職、なぜか経験とは全く異なる大学や企業の人材育成プログラムを支援する会社を起業、その傍らで「お花ネット」に力を入れて大手百貨店と季節の花を飾る各種イベントを仕掛けています。いつもは冷静で理論派、時には熱く語る人だったので、わがCFD議長を引き受けてくれないか、と交渉したこともあります。

 ほかにも記憶に残る受講生が数人。所属企業から派遣された受講生のほか、数名は私たちが最も期待した自費参加の若者でした。その1人、三越ミュンヘン店から帰国した藤原愛さんから「業務でないので夕刻早めに職場を離れにくいんです」と悩みを聞いたので山中理事長につなげると、「よし、オレが(三越の)坂倉社長に電話して参加しやすいようにしてやる」。突然山中さんから電話をもらった坂倉社長は事情が飲み込めず、役職者に確認したら現場責任者も自社の社員が自費でIFIに通っていることを知らず大騒ぎになったこともありました。藤原さんは三越を退職したあと、ジュンコシマダの社長を引き受けた岡田茂樹さんに彼女を紹介、ジュンコシマダのPR担当で活躍しました。

 同じく自費参加の東急百貨店の久保城治くんは自分の実学体験を職場の仲間に体感してもらいたいと考え、私に東急吉祥寺店の労働組合の勉強会での講演を依頼してきました。CFD議長を辞め、松屋の東京生活研究所に移籍していた私は同業他社で講義するわけにはいきません。そこで、東急の労組から松屋の労組に講演要請があり、松屋労組からの依頼を受けて東急吉祥寺店に出かけたこともあります。のちに久保くんは東急東横店プリーツプリーズを担当する営業課長として(イッセイミヤケの)私の部下たちをよくケアしてくれ、現在も東急で頑張っています。

 試験的なプレスクール、5年間コースディレクターとして指導した夜間プロフェッショナルコース、2年間だけ教えた全日制マスターコースと、延べ700人ほど若手業界人や大学生を教えました。講義終了後両国のちゃんこ鍋屋や古めかしいバーで夜中まで付き合い講義の続きをやるのも恒例化。プロフェッショナルコース各クラスの最終講義が同じ週の月、火、水、木曜日、毎晩連チャン打ち上げで大勢の受講生と同じバーで飲んだら、最後の木曜日は老ママさんが連夜の疲れからカウンターでウトウトってこともありました。700人もいればお取引先の責任者として私の前に現われる教え子はたくさんいますし、出世して百貨店やアパレルの役員になった者もいます。彼らが教えを実践し、ファッション流通業界でもっと暴れてくれるとありがたいですね。

 そして、今年から全日制マスターコース第1期の教え子でイッセイミヤケの部下でもあった石川さおりさんがIFIビジネススクール教務担当に就任、母校で後輩の面倒をみることになりました。理屈しか言わない、自ら手を汚さないような頭でっかち人間や、日本のスタンダードしか理解しない人間はこれからの業界には不要、石川さんにはIFIの実学精神を受講生に伝え、グローバル市場に挑む根性のある若者をどんどん業界に送って欲しいな。頑張れ、石川!