Ota Nobuyuki

デザイナーには難しい時代

太田伸之

クールジャパン機構 代表取締役社長

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 先月上旬ニューヨーク出張で改めて感じたことは「消費者はいまブランド服には関心がない」、でした。世界のトップブランドを多数並べる高級百貨店、ここ数年間高価格婦人靴売場は常時賑わうもののデザイナーの服売場は閑古鳥状態が続いていますが、以前にも増してこの差は大きくなりました。この流れ、しばらく止まりませんね。多くの消費者はいまハイエンドファッションにあまり興味がないのでしょう。

 その理由の1つは値段。トップブランドのコレクション服の値段が靴に比べてかなり高くなっています。売場で気になって手にとるブランドのワンピースやジャケットは大半が2千ドル前後、ちょっと手の込んだ素材なら3千ドル超えます。これに対して高級婦人靴は6百ドルから8百ドル程度、素敵な靴を履けば女性客のおしゃれテンションは十分上がります。服はトレンドが変わったからとお直しに出す人はあまりいませんが、靴は傷んでもまめに修理に出せば長く履けるのでインベストメント性は高い。最近腕の良い靴修理カウンターはどこも列ができるのはこのためでしょう。

 服よりも靴、この傾向は特に先進国の大都市で顕著。各都市でファッション消費を支えているのは中東、ロシア、中国、中南米からの旅行者、地元の女性たちはトレンドがコロコロ変わるファッション衣料に多額の消費をする意欲が失せている。これまでたっぷり消費してクローゼット奥に眠る服にうんざり、いまは服でオシャレをする時代の気分ではないのかもしれません。ファッションに関心薄いのは値段だけの問題とは言い切れない部分もあるでしょう。

 売場を歩いて次のビジネス戦略を立てることを生業としてきた私でさえ、最近パリやミラノの人気ブランド服が並ぶ売場を視察するのがつらいと感じることがあります。ブランド服がハンガーに大量に掛かったフロアを歩くとうんざり気分に。箸休め効果のようなリビング雑貨やファッション雑貨をもっと導入して服だらけを緩和すれば良いのと思う場面が増えました。

 有力デザイナーブランドは雑貨の開発にさらに力を入れています。元来ファッションブランドだった企業でも、売上構成の20%が本業の服、その他が80%、雑貨小物で稼ぐのがいまのビジネスモデルになっています。消費者の関心が雑貨に向いているから仕方ないことかもしれませんが、ファッションデザイナーには難しい時代です。

 インターナショナル・ヘラルド・トリビューンのスージー・メンクス記者は今シーズンのバレンシアガ(アレキサンダー・ワン)コレクション記事の見出しに"Bags, bags, and more bags"と付けました。いろんな意味を込めてのこの見出しになったと思います。パリコレは世界のデザイナーが服のクリエーションを競い合う舞台であって、雑貨の内覧会ではありません。メンクス記者は業界全体の「服より雑貨」の流れにあきれて皮肉ったのでしょうね。

 昨年秋に転職したので私自身はもうパリコレに直接関係ありませんが、ネットでコレクション写真を見ているとがっかりするものがいくつかあります。時代の予言者のはずのデザイナーたちが価値観変化を、社会の方向性を、消費者の心理を、時代を読めなくなっている。あるいは、頻繁にデザイナーが交代するせいか、歴史あるブランドのDNA、そのブランドならでは大切なものが消えてしまっているコレクション、少なくありません。

 先日、ある新聞社の取材で「ブランド企業のデザイナー使い捨てをどう思いますか」と質問されました。確かに、デザイナー交代のサイクルはかなり早くなっていますが、私は一概に企業側だけの責任ではない、企業側にもデザイナー側にも問題があると思います。

 オーナーデザイナーがまだ存命の独立系企業はともかく、マネーゲーム的に買収されたブランド、売上と効率しか言わない経営者が牛耳る大手企業はあまりに簡単にデザイナーを交代させる傾向にあります。デザイナーが交代するたびブランドのDNAはどんどん薄くなりますが、経営陣は数字しか見ていないのでブランドDNAなんぞ重視していない。要は売れたら「良いデザイナー」なんですから。

 一方、デザイナーも自分自身のクリエーションを前面に押し出したいので過去の遺産を継承したがらない。ブランド特有の技術、デザインの方向性、市場におけるポジショニング、対象とするターゲットなどブランドDNAは守った上で迎えられたデザイナーはクリエーションをすべき、でないとブランドを引き継ぐ意味がありません。DNAを継承したくないのなら自分自身のブランドでクリエーションを大いに発揮すればいいのです。

 デザイナーがコロコロ交代するとブランドの存在価値はどうしても薄れていきます。常連顧客はブランドから離れ、新規客はなかなか定着しません。市場におけるブランドのポジションは徐々に不明になり、フロア内で売場は転々と移動させられ、そしてフロアからいずれ消えます。うまく継承できていないブランドがフロアに並ぶとフロアそのものに魅力がなくなってしまう。パリコレ、ミラノコレのブランドが揃った売場に魅力がなくなってきたのは、デザイナー交代が早すぎることが原因の1つかもしれないですね。

 ところで、イッセイミヤケを継承した宮前義之くん、とってもイッセイミヤケらしい素晴らしいコレクション(=写真)を発表しました。12月の私の激励会に来てくれたとき、「パリコレでは思い切り暴れて欲しい」と話しました。オードトワレ(プレシーズン)のあとにパフューム(コレクション)を発表する現在のビジネスモデルでは、コレクションは着れる着れないではなく強い思いをぶつけるべき、普通に着れるものは不要だから思い切ったコレクションを期待している、と言いました。

 宮前くんはブランド創始者のDNAをちゃんと受け継ぎ、ほかのメゾンにはない技術を駆使し、新しいアイディアを入れ、美しくまとめる。ブランド継承の本来あるべき姿を見せてくれました。この路線を続けたらブランドはまだまだ進化する、それを確信できる内容に安堵しました。


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