Ota Nobuyuki

東京五輪の公式ユニホームは絶対密室で決めてはいけない

太田伸之

クールジャパン機構 代表取締役社長

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かつて伊勢丹研究所や松屋で活躍、多くの後進を育てた原口理恵さんが亡くなったとき、原口さんと親交のあった人たちから「原口先生の名を残したい」という声があがり、幹事役の山中さん(当時松屋社長)から相談を受けました。私は直接原口さんにお目にかかったことはなかったけれど、いろんな方からそのお人柄など伺っていたので、デザイナーや経営者を陰で支える隠れたファッション産業の担い手を見つけ出し、その活動を顕彰する「賞」を作りましょう、となりました。

原口さんがお好きだった花ミモザに因んで「ミモザ賞」、選考委員がそれぞれ推薦する業界関係者を推薦、時間をかけて選考会で議論して受賞者を決め、授賞式で受賞者を私がインタビューする形式を10年間続けました。無名のジャンポール・ゴルティエを発掘したオンワード樫山フランスの中本さん(故人)、数多くの米国デザイナーを育てたパーソンズ校の並木先生、日本と韓国業界の橋渡しを演じた韓国ファッションプロデューサーの李さん、歴史的コスチュームの修復に携わる京都服飾文化財団のレストワラーの皆さんなど、業界にその活動、功績を知っていただきたい人物を選びました。

これとは別に、毎日ファッション大賞の選考委員長だった鯨岡阿美子さんが亡くなったときも、鯨岡さんの名を後世に伝えようと私が発起人代表となって呼びかけ「鯨岡阿美子賞」を作りました。賞を新設するため資金集めやトロフィー制作で共に汗をかいたのが市倉浩二郎編集委員(故人)。鯨岡さんは元毎日新聞記者なので元社員の名前を残すために新聞社が積極的には動けない、代わりに私が呼びかけました。今年で鯨岡賞はもう25年。昨年は長年スタイリストとして活躍してきた原由美子さん、一昨年はパリコレ取材30年の大石一男カメラマン、WWDジャパンやTV流行通信で活躍し急逝した山室一幸さんが選ばれました。ジャーナリストとしてファッション業界を支えた鯨岡さんに似つかわしい人たちです。

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今年も毎日ファッション大賞各賞の推薦をする時期が来ました。私も推薦者の一人、この1年間を振り返って著しく日本のファッションシーンに貢献した大賞候補、これから成長しそうな新人賞候補はすぐ頭に浮かびますが、単年度でなく長年ファッション業界の発展に寄与した鯨岡賞候補となるとあれこれ悩みます。対象となりうる人はたくさんいらっしゃるでしょうが、自分なりに調べ、じっくり考えないと簡単には推薦できません。天国の鯨岡さんが「いい人選んでくれましたね」と褒めてくれる人物を選ばなきゃと思ってますから。。

鯨岡阿美子賞を創設するとき、市倉編集委員らと賞の定義についてかなり議論しました。鯨岡さんのキャリアはジャーナリストに始まり、ファッション業界で働く女性の地位向上のために設立なさった「ザ・ファッショングループ」でのリーダーシップも印象に残っています、パタンメーカー育成の会社「アミコ・ファッションズ」も運営なさっていました。デザイナーやアパレル企業にパタンナーを養成して送り込み、デザイナーたちの良き相談相手でもあり、繊研新聞の連載「アミコの目」でときには業界に警鐘を鳴らす、鯨岡さんにはいろんな顔がありました。鯨岡阿美子賞は単純に彼女と同じ職業の人を選ぶのではなく、華やかなデザイナーのうしろで活躍する縁の下の力持ちでもない、鯨岡さんの生き方、人となりを彷彿させる人物を表彰しよう、と決めました。

原口理恵さんのミモザ賞の対象者はどちらかと言えば縁の下の力持ちタイプ、華やかなイベントやデザイナーのうしろで地道な活動を続ける方たちでしたが、鯨岡賞の定義はちょっと異なります。だから選考はもっと難しい。約20年のブランク(1995年松屋所属になって、公平に審査するには一企業に所属する人間が関わるべきではないと翌年選考委員を辞任)から復帰し、毎日ファッション大賞の推薦に関わるようになって3回目、今年も誰を推薦すべきかかなり悩みました。そして、「今年はこの人だ」という方を見つけ、事務局に推薦書を送りました。

ファッション大賞もデザインコンペも東京コレクション新人支援枠選考も、人が人を選ぶという行為は本当に難しいもの。建築、グラフィック、映画、音楽なども同じでしょうが、ファッションも客観的にクリエイターを評価するなんてことはなかなかできない、どうしても主観的になってしまいがちです。過去にお手伝いしたデザインコンペやコンテストでも、最終的に選考委員会が最優秀賞に決定したデザイナーの仕事に私自身どうしても納得できないことがありました。委員の多数決ゆえその結果は受け入れなければなりませんが、どうしても選考結果は納得できず、結局翌年選考委員を降りたこともありました。自分が推薦したデザイナーがベストと主張するつもりはありませんが、「いくらなんでもこの人選はないでしょ」という結果に選考委員の一人として名を連ねたくなかったからです。

さて先日、政府の会議で公式ユニホームの選考に関する議論があり、私は「誰が選考に関わって誰に決めたのか明確にすることが重要」と発言しました。2020年東京オリンピック・パラリンピックの公式ユニホームの選考だけは絶対密室で決めて欲しくないからあえて発言しました。加えて、自分が関わっている東京都主催のTOKYO FASHION AWARDの仕組みを紹介。日本の若手デザイナーが海外市場に打って出るのをサポートする合同展示会事業のデザイナー選考、責任者は私です。コレクション取材するジャーナリストとして、デザイナー組織の議長として、百貨店の指導者として、デザイナーアパレルの社長として長年デザイナーたちと密に接して来た私ですが、このプロジェクトの選考自体に私はあえて関わりません。選考は内外のコレクション仕入れを実際に行っている小売店バイヤーに委ね、私は選考プロセスに一切口を出さず、結果に対しては全責任をとることにしています。理由は簡単、ファッション業界は世代交代すべきであり、現場の目利きの目を尊重したいからです。

過去のオリンピック・パラリンピック日本選手団のユニホーム、「なんじゃ、これは」と思うものが多々ありました。開会式入場行進は世界にその国の美意識、文化度を示す大きなステージなのに、日本のユニホームはあまりにダサい、他国はカッコいいのにどうして日本はこうなのってことが度々ありましたよね。どういう顔ぶれの選考委員が招集され、そのデザイナーや企業にユニホームのデザインを委ねたのかさっぱりわからない、これも問題です。体育会系の関係者だけが選ぶ仕組みなのか、実際にユニホームを制作する企業がデザイナーを選考しているのか、アパレル関連の団体が選考を委託されているのか、その仕組みはさっぱりわかりません。

できれば次回の東京大会だけはユニホームデザインの選考を「見える化」する、ファッションやデザインの専門家を招集して選考委員会を組織してデザイナーや受託企業を決める、あるいは一般公募でデザインを集めて専門家が選考する方法もあるでしょう。誰がどういうプロセスで誰を選ぶのかを公開、とにかく他国に負けないカッコいいユニホームを作って欲しいと願っております。

2020年に向けて官も民もいろんな機関がクールジャパン事業を進めています。カッコいい日本を世界に広め、東京大会までに日本の評価をもっとアップさせようと様々な活動が始動中。アニメ、マンガ、映画、音楽、テレビ番組、ファッション、インテリア、食文化や美しい伝統工芸を世界にどんどん普及させようと機運高まっているときに、地元開催のオリンピック・パラリンピックでダサいユニホームを着た日本選手団を見たくはありません。デザインやデザイナーを選考する作業は本当に難しいもの、せめて選考のプロセスは誰の目にもわかりやすくしてもらいたいです。

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