Mugita Shunichi

モードノオト第三夜

麥田俊一

90年代から世界のコレクションを取材しているジャーナリスト

フォローする:

 

相も変わらず、紫煙が漂う場末の酒場。ジンのグラスを重ねながらつくづく思うのは、公式スケジュールの三日目を迎えるが、探していたカタルシスは、いまだ見つけられずに居ると云う現実だけ。正直、トレンド、売れ筋、収め方の巧(うま)い服は、あるにはあるのだが...。私は自分の水平思考の能力は、どう贔屓目(ひいきめ)に見ても下の下であることはすでに痛いほど承知している。だが、私はその思考方法をむしろ愉しんでおり、それを多としている。しかも、理論的あるいは垂直的な攻撃は必ずしも最良ではないことは経験上学習済みである。その一方で、相手の周波数に共鳴するように、こちらのダイアルを合わせる術を学んできたつもりで、極めて滑らかに対象と同調可能なシステムを遅まきながら構築出来たと、生意気ながら自負している。ショーの取材を通して、作り手の思いがピタリと受信出来たときは正直ドキドキする。初日に拝見した「ミントデザインズ(mintdesigns)」がそうだった。アナクロニズムな質(たち)だが、パラボラアンテナの感度だけは他に引けをとらない。

mintdesigns-2016ss-20151012_085.jpg

たとえば、ある詩人の感性が言葉に抄(すく)いとったように、子供の心には無抵抗の相手に対して残酷になれる芽が潜んでいるのかも知れない。芽は思い出したように醜く繁茂してダークサイドの影を落とす...。勿論、ここまでデカダンな展開ではないし、二人はもはや子供ではないが、"The Garden"と云うオーガニックな主題の、今様な構図のストレスを、かのブランドはしっかりと解(ほぐ)してくれた。前夜記した「ファセッタズム(FACETASM)」同様、<へそまがり>式のデザインが、読解の必要がないほど身近で、春夏シーズンに適った草木や花が咲き乱れる服に、敢えて透けるポリエステルの人工的な風合いやメタリックな硬質感をコントラストさせることで対照の妙を引き出している。増幅するモチーフが生み出すグラフィックの面白さ、気取りのない素朴な柄をモダンに見せるピッチ使いは勿論、対比のデザインに長けているあたりは、いまさら贅言を要しないだろう。生地をランダムに折り返したシャツストライプの装飾に、コーティング加工を施したペーパーライクな生地をコントラストさせたコートやチュニックは、あたかも押し花を纏っているようなデザインである。透き通った空気、自然のモチーフを俎上によこたえているが、そこには人工甘味料の如きエグミが盛り込まれている。ぽたぽたと雨の滴が垂れる音だろうか。カッと照る陽射しのように、天井の照明が温まるまで無音だった会場には、スチールドラムに似た心地良いリズムが響いてショーの開始を告げたが、それも束の間。トタン屋根を叩き付ける驟雨さながらのけたたましさに、せっかくの庭園散歩も台無し、と云った演出だろうか。間違った鍵盤を叩いてしまったのなら、それはそれ、アル中の痴れ言と一笑して欲しい。(文責/麥田俊一)

>>mintdesigns 2016年春夏コレクション

【短期連載】
モードノオト第一夜
モードノオト第二夜

麥田俊一

最新の関連記事

Realtime

現在の人気記事

    Ranking Top 10

    アクセスランキング