Mugita Shunichi

「モードノオト」火曜日

麥田俊一

ファッションジャーナリスト

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 あと一杯だけにしよう。酒場に戻りながら私はそう思った。たったの一杯だけ、それで終わりだ。朝にはすっきりした頭で目覚めなければいけない。しかし、私は自分の人生において、斯様な多くの建設的な見通しを立てると同時に、地獄へ通じる五車線の高速道路もヌケヌケと敷設してきた男である。一杯が三杯、三杯が...酔い痴れつつも思うのは「マトフ」のことだった。 和洋折衷を自家薬籠中のものとする「マトフ」の創作には此度も敬意を払いたいところだが、饒舌なオリジナルな生地で描出する濃密な世界観に少しく閉塞した嫌いがあったように思う。こちらの鏡が歪んでいるのだろうか、息抜きの箇所がまったく見当たらぬ排他的な空気には、残念ながら共鳴出来なかったのである。<日本の眼>と題して、独自の美意識の探究に向かい直走る道程は不変なのだろう。ブランドが持っている磁界の強さに軽い眩暈を覚えてしまった。

>>matohu 2016-17年秋冬コレクション

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 たしかに生き生きとした花は綺麗だ。しかし、生命の周期の終わりにあっても魅力的であることには変わりはない。ひとは、花が萎れるのを見てこう思うはずだ。なんだぁ、もう枯れちまったのか、と。しかし、そういう思考は、我々の人生の大部分を否定しているのと変わらないのではないか。その素晴らしさを否定しているのと同じことだ。生きているもの...それが花であれ、何であれ...色褪せ、曲がり、朽ちていくときの色と形が、何より私は好きである。 なにも此度の「ハナエモリ マニュスクリ」が枯れゆく美学を表現していたわけではないが、そんな自然の摂理に想いは膨らみ、痴れた私の脳裡にインスピレーションを与えてもくれる。贅沢な服地に頼って無意味にデザインをリピートする常套の手法を控え、贅肉がなくしなやかで、アイデアは低い温度でも沸騰する、簡潔にして要を得た作法が心地良い。生地を巻き、重ね、結び、左右の均衡を大胆に崩して構築した造形は、作り手の得手とする領域だろう。贅肉がなく簡潔、と形容したが、ミニマリズムと短絡してもらっては困る。華やぎを演出する装飾が行き過ぎにならぬようしっかりと塩梅されている。あらためて鎖骨の美しさに心奪われるのだった。煉瓦色や赤葡萄酒のような深みのある色の選択もオーセンティックで洒落ている。亀甲のようなキルティング生地を差し込んだスポーティーな拵えもあれば、ニットや一枚仕立ての軽やかな風合いを味方に付けたエレガンスもある。面対称のような調子で拡大され朧に見える幽玄な蝶と、ダークカラーの地に咲くデジタルな花弁の淫靡な姿が対照の妙を引き出している。此度のショーは、私は買う。(文責/麥田俊一)

>>Hanae Mori manuscrit 2016-17年秋冬コレクション

【ファッションジャーナリスト麥田俊一のモードノオト】
「モードノオト」月曜日

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