Mugita Shunichi

「モードノオト」土曜日

麥田俊一

90年代から世界のコレクションを取材しているジャーナリスト

フォローする:

 

 午後の陽射しも翳りだし、甘く酔わせる微風が何処からともなく吹いてきて、狭いこの街の谷間に入り込む。黄昏がいま、地平線の上に迫り、昼の音が迫り来る夜の訪れに漸次呑み込まれて、まさに風景が変わり始める。幾ら渋谷の喧噪を離れてきたとは云え、こうして高層ビルのラウンジに座していると、眼下に拡がる右往左往に蠢くひとの群れは、結句何処も彼処も同じなのだ。下界の音が遮断されているから、その喧噪も作り事みたく現実味が薄い。この心地良い浮遊感に、暫し浸っていたのだった。ふと気が付けば、すっかり夜の帳が下がっているのに鼻白む始末。どうやら、惚(ほう)けていた時間がちと長かったようである。暗闇に瞬く不夜城の窓明かりは、夜の都会の髪を彩る、キラキラ輝く宝石の髪飾り。街の地平の上を、ほんのり明るませている。眼路を下げると、スクランブル交叉点をせっせと行き交うひとの群れ...巣穴に戻る蟻の行進...なにをそんなに急ぐことがあろうか...信号が点滅してもお構いなし...お尻に火がついたように浮かれ調子で...。特段急いていたわけでもないが、長っ尻に飽きたこともあり帰路に就く。小稿のネタ繰りも終わった。

 「アンド ワンダー(and wander)」のプレゼンテーションは、フラッシュ撮影を通してのみ、その趣向を楽しむことが可能とのことだったが、会場は端より真っ暗闇故、まず服そのもの姿が確認出来ず、眼を凝らして闇に蠢くモデルを怨めし気に追っかける仕儀となり、況してや足許が覚束ない会場(この日は酒気をまったく帯びていなかったにも拘らず)への無配慮が、蓄光資材を繊維に織り交ぜたのか、或はプリントに応用したのか、学習不足な演出故、作り手の意図が確と伝わらぬもどかしさに一段と拍車を掛けたのである。いつもの伝で云えば、ここで、持ち前の短気を、またぞろ一方的に爆発させてしまうだけの話だが、今日は最終日だから、補遺のつもりで、ひとつ気になったショーに言及してみたいのである。

>>and wander 2016-17年秋冬コレクション

plastictokyo2016aw-10.jpg

 勘が働く読者賢者は、既にお気づきかも知れないが、金曜日午前中に発表した「プラスチックトーキョー(PLASTICTOKYO)」である。痴呆者みたく、高所より蟻の行軍を眺めていたのは、かのブランドのショーを思い返していたのである。おセンチな気分にどっぷり浸りながらヨコハマの夜景を眺めながら慮っていたのは、かの作り手の少しばかりドライな作風だった。コレクションノートには「SCRAMBLE」と記してあった。交叉点を模してモデルが歩く動線が中央で交叉する舞台造作は、そのキーワードを象徴している。高みより撮影した交叉点を行き交うひとの群れは転写プリントに引用され、ひらひらと風に舞う綿のグログランテープは、舗装面に敷かれた白いペイントの縞模様のイメージだろう。ストライプ柄を斜めに掛け合わせた柄の曲折、リボン状に裂いたウールを直角に交叉させ編み込み造形した服も然り、まさに十字路の残像。機能的なボディーバッグとフライトジャケットの融合、スポーティーな要素とフェイクファーの遊びとのマッチング、硬軟自在の重ね着...。パンツや袖、身頃の両脇を裁って一度解体したデニムは、ボタン留めで再構成することでラインに個性を与えている。大きな画架(=オーバーサイズなプロポーション)を構成する複数の要素は緻密に計算され、うっかり「正面衝突」するすんでのところで踏み止まり、異なるモチーフが新たな均衡を生み出すファクターとなっているのだ。私なぞは、うっかり交叉点内を斜めに渡ろうものなら、決まってクソ忌々しい対向者に打ちアタリ、またぞろ口汚い呪いの言葉を吐くのが関の山なのだが。(文責/麥田俊一)

>>PLASTICTOKYO 2016-17年秋冬コレクション

【ファッションジャーナリスト麥田俊一のモードノオト】
「モードノオト」月曜日
「モードノオト」火曜日
「モードノオト」水曜日
「モードノオト」木曜日
「モードノオト」金曜日

麥田俊一

最新の関連記事

おすすめ記事

Realtime

現在の人気記事

    Ranking Top 10

    アクセスランキング