i-D magazine

今注目すべき5人の女性作家

i-D Japan

ファッションマガジン

フォローする:

チャールズ・マンソンの殺人カルト集団から、鬱や失恋を主題にしたユーモラスなエッセイ集まで、今注目の女性作家を紹介。

高校の英語教材から、街の本屋にいたるまで、2016年という現代にあっても、文学の世界では白人男性至上主義がまかり通っている。そんな冗談にすらならない現況に、クリエイティブな若い女性作家の登場は希望を感じさせる嬉しいできごとだ。今回紹介するのは、すべて35歳以下の女性によって書かれたエキサイティングな作品である。扱っている題材も、青春からソーシャルメディアに見る底知れぬ悲しさまでと幅広い。

Yaa Gyasi(ヤー・ジャシー)

20160825id1.jpg

2009年、まだスタンフォード大学の学生だったジャシーは、故郷を旅するべくガーナへと向かった。そこで、かつて奴隷取引の舞台となったケープ・コースト城を訪れた彼女は、これこそが自分の書きたかったことだと気がつかされたという。7桁にまで及んだという報酬の前払いを得たジャシーは、早速執筆にとりかかった。そうして書き上げられたのが、デビュー作にして、エモーショナルな大作『Homecoming』だ。物語は腹違いの姉妹を中心に描かれる。ひとりはイギリス人男性と結婚して植民地下のアフリカに留まり、もうひとりは奴隷としてアメリカへと渡る。その後、6代にわたるそれぞれの子孫の物語へと発展していき、舞台は南北戦争時代の入植地からハーレムのジャズクラブにまでわたる。「この作品は、奴隷制度が奴隷たちの家系を断ち切ってきた事実を描き、彼らの途切れた起源にあるつながりを想像する手かがりを与えてくれた」と『New York Times』紙の書評でイザベル・ウィルカーソン(Isabel Wilkerson)は書いている。

Molly Prentiss(モリー・プレンティス)

20160825id2.jpgブルックリンに住むモリー・プレンティスのデビュー作『Tuesday Night in 1980』は、ニューヨークのダウンタウンに突如として巻き起こったアートシーンを描いた小説。1979年の大晦日、キース・ヘリングやジョン・バルデッサリなどが集うパーティを舞台に、物語は幕を開ける。ジャン=ミシェル・バスキアやアンディ・ウォーホルも登場するこの小説だが、ストーリーの軸となるのは彼らではない。アルゼンチンから逃亡してきたアーティストと、共感覚をもつアート批評家、そして大都市での成功を夢見てアイダホからNYへと移り住んだ若い女性の3人が主人公だ。NYという街もこの小説のなかではキャラクターとして描かれている。モリーは、NY市を成す5区をそれぞれ描き、想像的な言い回しで時代のざらつきを仔細に描きだす。「ゴミ収集車が、夜行性のアルマジロの如く動き回り、軋む音を立てたかと思うと、大きな音をあげる。ホームレスたちがコンクリートのベッドから跳ね起きた。サイレンの音は道を駆け抜け、水切り器のような空へと上り、星の穴を抜けていった。月もどこかにあるはずだが、彼女には見つけられなかった」

Valeria Luiselli(ヴァレリア・ルイセリー)

20160825id1.jp3.jpg

メキシコとイタリアの血を引き、現在はニューヨークを拠点にしているヴァレリアは、外交員の親とともに、南アフリカ、韓国、コスタリカ、スペイン、インド、フランス、メキシコなどを転々として育った。「いつも自意識に悩まされていました......。引っ込み思案で、いつでも自分の喋る言葉が不完全に思えて、どこでもギャップを感じていました」と、彼女は『Bomb』誌のインタビューで語っている。「今でもそう感じるときがあります。子供の頃は、とにかく読むこと、書くことでその国の言語を学ぼうと努力しました。読書とライティングはいつでも、言語のなかの隠れ家でした」。読書に隠れ家を見つけた、現在32歳になるヴァレリアは、これまでに小説『Sidewalks』とエッセイ集を1冊、そして『Faces in the Crowd』など数作品を発表している。『Faces in the Crowd』では、National Book Foundationが選ぶ「35歳以下の5人」に選出され、彼女の出世作となった。最新作『Story of My Teeth』は「"かすかに黄ばんだマリリン・モンローの聖なる歯"を見つけたメキシコ人オークショナーが、その歯をインプラントで自分に埋め込む」というエキセントリックな話。この作品は『The New York Times』紙やアメリカのラジオネットワーク『NPR』、『The Huffington Post』をはじめ多くの書評で、"2015年の最高傑作のひとつ"に数えられた。ヴァレリアは現在、アメリカ南西部についての作品を執筆中だという。

Melissa Broder(メリッサ・ブローダー)

20160825id1.jp4.jpg

メリッサは文学と呼べる作品を書いてはいないが、140字の文字世界では世界中に多くの読者を抱えている。メリッサのTwitterアカウント@sosadtodayには現時点で357,000人のフォロワーがおり「頭が痛い。それはたぶん、私が存在しているから」や「私の性的アイデンティティは"喪失"」などのツイートは、これまでに何千回とリツイートされている。初となる彼女の本『So Sad Today』は、彼女のツイートをエッセイ集としてまとめたもの。『メールでのひとことで十分だけど、1000回のメールじゃ足りない(One Text Is Too Many and a Thousand Are Never Enough)』や『健康的な、だけど痩せた人間になりたい(I Want To Be a Whole Person But Really Thin)』など、彼女のエッセイの多くは不安や中毒、抑うつ状態や失意などを主題にしている。「孤立感を振り払う方法のひとつに、告白がある」と『The New Yorker』誌のヘイリー・ムロテックは書いている。「告白文、特に女性が女性のために書いたものは、重荷をおろす作業であり、また誰かと繋がろうとする試みでもあるのだ。アドリエンヌ・リッチが『女性が真実を語るとき、そこにはさらに多くの真実が明るみになる可能性が生まれる』と言ったように」

Emma Cline(エマ・クライン)

20160825id1.jp5.jpg

2014年3月、当時25歳のエマ・クラインは、チャールズ・マンソン率いる殺人カルト集団に傾倒した自身の青春時代をエッセイに書き『The Paris Review』誌に掲載された。「マンソンのもとで殺人に走った女の子たちに夢中になった」とエマは書いている。「8件の殺人を犯した時、彼女たちは私より年下だった。ベンチュラ・フリーウェイを走り、途中にあったガソリンスタンドで血だらけの体を洗いあった彼女たちは、私よりも若かったのだ......それでも、彼女たちが映る写真----不思議と痛烈なほどの親しみを感じる雰囲気の写真----に13歳の頃の自分を見たような気がした。孤立から逃れたいという切実な思いを、彼女たちの目にみとめた」。このエッセイが掲載された後、彼女は出版社Random Houseと契約を結んだ。3作品を出版する内容で、契約金は200万ドルと報じられている。この契約での第1弾となる作品が、6月15日に発売された。

そのデビュー作『The Girls』でエマは、14歳の主人公イーヴィ・ボイドを通して、再びマンソン殺人事件について模索している。主人公は、そのカルト集団のなかで年上の女性たちに強い興味を抱く。「説明なく、恍惚が私を襲った」とイーヴィーは語る。「私の髪をかきあげた彼女の息が、私の首にかかった。彼女の顎にできたニキビもなぜだか美しく、そのなかにはバラ色の炎が見えるような気がした」。この作品は批評家からも絶賛を浴びており『New Yorker』誌のライター、ジェイムズ・ウッドは「素晴らしいほど知的。卓越した技巧で、優れた文章が作品の随所に見られる」とエマを讃えている。レナ・ダナムは、彼女が「私たちが作ってきたあらゆる寓話の裏で、主人公の少女が、誰からも見向きもされず、怒りのうちに存在していたことを思い起こさせてくれる。この作品には誰もが胸を痛め、そして圧倒されるだろう」と語っている。また、映画『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』や『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』などを手掛けた大物プロデューサー、スコット・ルーディンが、すでにこの作品の映画化の権利を獲得したと報じられている。

Credits
Text Zio Baritaux
Images courtesy the authors, the publishers
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

記事のタグ

最新の関連記事

Realtime

現在の人気記事

    次の記事を探す

    Ranking Top 10

    アクセスランキング