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ソフィア・コッポラが語る、作品へのこだわりと若きクリエイターへのメッセージ

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最新作は閉ざされた屋敷を舞台にした極上スリラー。本作で新境地を切り拓いたソフィア・コッポラに、自身の価値基準、衣装へのこだわり、志のある女性たちへのアドバイスを訊いた。

By Sogo Hiraiwa photos by Nobuko Baba

 

出演陣にニコール・キッドマン、キルステン・ダンスト、エル・ファニングら豪華キャストを迎えたソフィア・コッポラの監督最新作『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』が、2月23日(金)から全国で公開される。

1864年のバージニア州、南北戦争から隔離された女子寄宿学園に暮らす7人の女性たちは、ある日、森の中で負傷した敵兵を見つける。見慣れぬ相手に恐怖を覚えつつも、手当するため屋敷にかくまうことに。この閉ざされた館を舞台に、野生的な男の欲望と抑圧されてきた女性たちの欲望がサスペンスフルに交差していく。

「外の世界から隔絶された女性たちのもとにひとりの男性が現れることによって生じる変化、彼女たちがどのようにして自分の抑圧や欲望と折り合いをつけるかを描きたいと思いました」とソフィアは本作について語る。

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©2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

原作はトーマス・カリナンが1966年に発表した同名小説。1971年にはドン・シーゲルが『白い肌の異常な夜』として映画化しており、本作は二度目の映画化となる。ソフィアが『ビガイルド』と出会ったのは、シーゲル版を通してだった。『ロスト・イン・トランスレーション』以来、度々監督の映画のプロダクション・マネージャーを務めているアン・ロスに見るように勧められたのだという。「南部に暮らす女性たちのもとに敵兵が来るという設定がとても面白いと思ったんです。また描かれている時代や、世代の異なる7人の女性たちが一緒に暮らしているという状況にも関心がありました。南北戦争を舞台にした作品では戦場で戦う男性が描かれがちですが、その男性を見送った後に取り残された女性たちを描きたかったんです」

『白い肌の異常な夜』で脱走兵の視点から描かれた物語を『ビガイルド』は、女性の視点から再解釈してみせる。ローティーンの少女からニコール・キッドマン演じる園長まで様々な世代のキャラクターの描き分けには、監督の実体験が活かされているという。「脚本には知り合いの女性や、私が女性グループの中でコミュニケーションをしていて実際に体験したこと、見聞きしたことを加えました。自分自身の経験はいつも脚本に入れています」

今回の来日時に開催されたトークイベントで、ソフィアは、日本のスナップ写真から大きな影響を受けたと発言している。影響を受けたのは、被写体をカジュアルで自然に捉えるカメラの使い方だけではないだろう。ソフィア作品が持つスナップ性は、〈どう撮るか〉よりも〈何を撮るか〉に顕著だからだ。監督デビュー作の『ヴァージン・スーサイズ』(1999)では十代の5人姉妹を、『ロスト・イン・トランスレーション』(2003)では20代の頃に滞在していた日本を舞台に半自伝的な物語を描いている。彼女は自身の人生において経験してきた出来事とその時々に抱いた感情と向かい合い、それを映画というメディアに焼き付けていく。

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だとしたら、『ビガイルド』はどうだろう? 「若い頃は自分に一番近いティーンエイジャーや20代を描いていましたが、年齢を重ねて40代の気持ちもわかるようになりました。私自身がこの映画に登場する女性たち全員の年齢を経ているので、それぞれの世代に対する見識はこれまでよりも深いものになっていると思います。年齢によって、または個人によって、性の目覚めだとか男性に対する性的な対応は様々です。私はこの欲望を恥じるものではなく、自然なものとして描きたかったんです」

一人の男性の登場によって生じる、7人の女性の7様のリアクションには、ソフィアがこれまでスナップしてきた、それぞれの世代の肖像が総動員されているのだろう。複数の視点から描かれることによって、移り気な欲望はよりそれらしく、自然なものとして伝わってくる。『ビガイルド』は今まで撮りためてきたスナップ写真をまとめたアルバムのような作品なのかもしれない。

衣装デザインにも注目せずにはいられない。舞台は南北戦争終焉間近のバージニア州。高級ホテルに長期滞在する富裕層やヴェルサイユ宮殿に暮らす貴族とは勝手が違う。しかし、ソフィアの洗練されたセンスはどの時代のどんな場所にでも適応できるものらしい。「衣装もヘアも当時のものをすべて調べて、参考にしました。ただ、当時のものの中には、いまの私たちから見るととても奇抜に見えるものもあるんです。ですからその中で、今の私たちの目から見て魅力的なもの、綺麗だと思えるものを選んで使いました」

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©2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

時代考証に抜かりなく、史実を尊重する。と同時に、自身の美的感覚にも一切の妥協を許さない。そうした創作への姿勢は、彼女のパーソナルな感覚が決して独りよがりのものではなく、他の誰かによって共感され得るものだという確信に由来している。「どんなものを作るときでも私は常に自分が見たいもの、欲しいものを基準に作っています。自惚れすぎだと思われるかもしれませんが、そうではありません。自分が好きだったら必ず他の誰かも気に入ってもらえる。そう信じて謙虚な気持ちで作っています」

珍しく父親も褒めてくれたというこの作品で、ソフィアはカンヌ国際映画祭の監督賞を受賞した。女性監督としては史上二人目、ユリア・ソーンツェワが『戦場』で受賞して以来56年ぶりの快挙だ。喜ばしいが、驚きも大きい。2017年でまだ二人目だということに。
カンヌはそれでもマシなのかもしれない。米アカデミー賞で監督賞を受賞した女性監督は、2009年『ハート・ロッカー』のキャスリン・ビグロー唯一人なのだから。ソフィアはそのような状況をどのように感じているのだろう。映画を撮っていく中で困難はあったのだろうか。

「もちろんチャレンジは沢山ありました。プラス面は正直あまりなかったかなと思います。ただそればかりに囚われていても意味はありません。ですからそういうことは気にせず、とにかく自分の仕事、自分が作りたい映画を作ろうという風にいつも考えています」

ソフィアの生い立ちは普通じゃない。彼女の辿ってきたルートは特殊で、誰でもそこを通れるわけではない。それでも業界の第一線で活躍する彼女の姿は、次世代の表現者たちを勇気づけるものであるはずだ。同時代にロールモデルがいることの意味は大きい。最後に若いクリエイターへのアドバイスを訊いた。「映画業界に限らず、目的を持ったすべての女性に言えることですが、自分の信じる道を突き進んでください。そして諦めず、何か言われてもへこまないでください。それには、忍耐力が必要です。意思の強さも必要です。とにかくどんなことを言われてもどんどん邁進していってください」

The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ
2月23日(金)TOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国公開

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