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grindrはどのようにして"最もクィアな出会い系アプリ"になったのか?

grindrはどのようにして

クィア専門の有名出会い系アプリ「Grindr」がより包括的になり、トランスジェンダーやノンバイナリーのユーザーも利用可能になった。

By Jake Hall translated by Aya Takatsu

2017年11月末、Grindrはこのクィア専門のデートアプリをより包括的なものにするべく、いくつかの新しい機能を発表した。"トランス・トライブ(指向選択機能)"は2013年から存在していたが、今回の新機能によってより多様なジェンダー選択が可能となり、このアプリがGNC(性不適合)やノンバイナリーの人たちにも提供されるようになったのだ。そのほか、FAQ(よくある質問とその答え)や、選択リストに自分の枠がない場合に追加できるようになっている。また、シスジェンダーの女性も、今回のアップデートによりアプリに参加できるようになった。これは過去の差別に反対するというこのアプリの特性上、理にかなっているとも言える。

「Grindrをさらに包括的にするという試みは、いまだ続いています」とマーケティング副社長のピーター・スローターダイクはメールで述べた。「"トランス・トライブ"はすでに発表していますが、その後、それでは十分ではないと学びました。最近、毎年開いているプライド・パーティのSlumbrで、多くのトランスジェンダーの方たちがGrindrでの経験を話してくれました。それが今回のアップデートの引き金となったのです。このアプリを正しい方向に導きたい私たちにとって唯一取るべき道は、世界のトランス・コミュニティの洞察力を介し、世界中にいるトランスのトップからのフィードバックと賛同を得ることでした」

Grindrのインクルーシヴ(包括的)な姿勢は賞賛に値する。その問題を世に知らしめ、純然たる進化を遂げるためにユーザーであるトランスジェンダーとともに取り組んでいるからだ。しかし、疑問がひとつ。クィア専門のアプリがすべての者に"門戸を開"けば、その専門性は失われるのだろうか? 今や、異性愛者の出会いも起こり得る事態となったのだ。それにはうんざりする者もいるのではないだろうか。「GrindrはLGBTQコミュニティ、そしてその頭字語に含まれる素晴らしい多様なアイデンティティすべてへ向けたサービスです」。今やすべての人に開かれたGrindrの不明確さについて問うたとき、スローターダイクはそう話した。「この新しい機能がその狙いを一歩前進させるだろうと今から楽しみです」

ノンバイナリーの学生マッズは、この変化を歓迎している。「とてもいい考えだと思う。生活するすべての場所で、本当の自分でいられるようにしたいから。それにはデートしたり出会ったりも含まれる」と、マッズは話す。「それに、自分のような人を探し、つながるための選択肢も増える。小さな町に住んでいるなら、それはとても大切なこと」。いまだ同性愛を迫害する国々(世界中に70以上ある)においても、Grindrは貴重な出会いの場となっている。ともすれば弾圧的で時代錯誤な法律や、国家的な暴力によって制圧されてしまうようなクィアコミュニティを、このアプリ上で築けるかもしれないのだ。

Grindrはまた、作家でありトランス活動家のジュノ・ロシュ(Juno Roche)のような女性にとって、安全な避難所でもある。デビュー作『Queer Sex』を2018年4月に刊行したばかりの彼女の目には、この変化はまっとうで、「社会から取り残された人たちが自由につながることのできる、より安定していて安全、かつ性的にオープンな空間」をつくるための最初の一歩を象徴するものとして映っているようだ。

性の健康という分野においても、Grindrはポジティブな1歩を踏み出した。ユーザーに最新の性の健康状態を記入させ、「検知不能」のような語句についての解説をするFAQを提供しているからだ。アメリカ疾病予防管理センターによると、この語句は、「ウイルスが体内にいるが、治療によってウイルス量が検知不能なまでに下がっており、予防措置をとらなくても性交渉の相手に移ることはない状態」を指すのだという。ジュノはGrindrの変化について、懸念も抱いている。特に、アプリ参加者の間口を広くすることで、彼女自身がクィア向けではないアプリで経験したような差別が出てくるのではないかということに。「私たちのサブカルチャーを混乱させ始めている。別にいいけど、例えばTinderなんかでひどいことを言われた。Grindrは少なくとも"検知不能"や"トライブ(性的分類)"といった語句の意味にリーチしやすくなっている。だからっていいセックスが得られるわけじゃないけど、少なくとも私のトランス・アイデンティティを非難したり、HIV陽性だからって私を売春婦と呼ぶ人はいない」

HIVはクィアの歴史において悲劇的な位置づけにあるが、しかしそれゆえに、LGBTコミュニティの中でのHIVの認識や理解も広く浸透している。「シスジェンダーの女性もこのアプリを使うと思う。だって、トランスの女性として私が感じる安全性を彼女たちも間違いなく気に入ると思うから」とジュノは言う。「だけど私が懸念しているのは、より広く門戸を開くことで、ここにある文化的理解の感覚が変わってしまうのではないかということです。完ぺきとは程遠いけど、コミュニティであることは確か。私たちはお互いを理解しているから、居心地よく感じられている。ほかの出会い系アプリだと、いつも拒否されるビジターのような気分になる。ほかのアプリでは、自分がHIV陽性だからではなく、トランスというだけで拒否されてしまうの。少なくともGrindrには"トライブ"があるから」

それでも、シスの女性を受け入れることが、ゲイコミュニティに蔓延する否定できないミソジニー(女性嫌い)を払拭する一助になるかもしれない。ゲイバーで交わされる女性についての会話や、女王の"正当性"が引き続き偏見にさらされていることからも、今回の変化はしばしば見過ごされている真実、つまりクィアの女性の存在を浮かび上がらせる。最近は女性と安定した関係にあるが、ルイーズ・キーリー(Louise Kealy)はバイセクシャルであり、パートナーがいないときはよくGrindrを使っていたという。「すごくいいことだと思う。トランスを毛嫌いする言動を受け入れ難く思っている人がたくさんいるのは知ってるし、Grindrはそれに対処してくれる。でも、この変化は"ゲイの親友"を求めてこのアプリをさまよっているシスの女性に扉を開いたってことだと感じてる」

リコ・ジョンソン=シンクレア(Rico Johnson-Sinclair)も、同様の懸念を抱いている。彼はGrindrの排他性を求めてこのアプリを使用する男性が多いことを指摘する。「予期せぬ事態がたくさん起きるだろうし、ゲイ男性のユーザーが減るかもしれない。私の経験上、ゲイコミュニティにはそういう傾向がある。多くの点から見て、開発者側はゲイの男性にGrindr XTRA(同アプリのプレミアver.)を買わせたがっているんじゃないかと思う。フィルターをかけるためにね。結局、キンゼイ指標(人間の性的指向を6段階に分類したチャート)で6(完全に同性愛のみ)にあたる男性がセックスを求めているときに最も避けたいのが女性なんだ。そして反対に、女性の同性愛者は男性を避ける。おそらく、今回のアップデートの真の目的はそこにあるんだろうね」

ヘテロセクシュアルの男性がトランスの女性を探すためこのアプリを使っていると指摘するのは、大切なことが、トランス男性は、彼がゲイかバイセクシャルでないとこのアプリを使えないという問題も生じている。このような分類は、特定の文脈上では重要になるが、最近の研究によれば、ミレニアム世代は史上最高にクィアな世代であり、つまりそれは、人々がそうした「ゲイ」や「バイセクシャル」といった分類に以前ほど執着しなくなっているということの表れではないだろうか? さらに良いのは、この新しいインクルーシヴ方策が、ゲイコミュニティが抱える差別に立ち向かい、クィアコミュニティを強くしていく助けになるかもしれないということだ。結局のところ、ほかにいくらでも選択肢はあるのに、ストレートの人たちがわざわざクィア専門をうたっているアプリを選ぶだろうか。「僕たちはより性が不明瞭になる時代へと向かっている。シスの女性をGrindrに受け入れることで、このアプリは究極の性の遊び場となるだろうね」と、ジョンソン=シンクレアは話した。彼は正しい。若者が広い視野を持ち、分類をそれほど重視しない昨今、クィアの出会いに対するこの流動的な方策はまさに時機をとらえたものだったと思われる