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同性愛者の青春映画がはらむ問題

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Image by: Still from Call Me By Your Name

同性愛者の青春映画は、若者がクィアの性や恋愛へと最初の1歩を踏み出す姿を描く。しかし、その後の彼らは?
By Liam Taft; translated by Nozomi Otaki

 

映画評論家のマーク・カーモードは、BBCのドキュメンタリーシリーズ『Secrets of Cinema』のあるエピソードで、青春映画というジャンルを取り上げた。「あの夏。あの最後のダンス。子供時代に別れを告げたあの日。どうすればその瞬間を永遠にとどめておけるでしょう?」と彼は問いかける。青春映画とは、子供から大人への移り変わりを描く作品だ。登場人物は思春期という濁流の中を手探りで突き進む。精神分析学者のエリク・エリクソンは、人間の一生を8つの発達段階に分けた。エリクソンによれば、5段階目の12〜18歳頃、私たちは「アイデンティティの確立 対 アイデンティティの拡散」に直面するという。これこそが青春映画のテーマだ。青春映画の登場人物は、ありのままの自分と社会から求められるイメージのあいだで葛藤を抱えながら、この世界に少しずつ自らの居場所を見出していく。

青春時代を描くLGBT映画は、ここ数年で急速に増えつつある。『Love, サイモン 17歳の告白』(2018)には他の青春映画と同様、転機を迎える若者が登場する。主人公のサイモンは、大学進学の準備を進めるかたわら、ネット上でカミングアウトして匿名のゲイの青年とメールのやりとりを始める。本作が描くのは、SNS世代のカミングアウトへの不安だ。メールを送ったりメッセージを受信したりするたびに不安に駆られながらも、サイモンは徐々に自身のアイデンティティと折り合いをつけていく。『アレックス・ストレンジラブ』も、異性愛が当たり前とされる世の中で、自身のセクシュアリティを受け入れるさいの迷いに焦点を当てた。『君の名前で僕を呼んで』(2017)や『ブルックリンの片隅で』(2017)も、成長期に初めて同性との恋愛を経験するキャラクターを描いている。LGBT映画祭では少数派だが、なかには青春映画というジャンルを超えたクィア映画もある。しかし、ここ数年の主流なLGBT映画がほぼ同じ枠組みの中でつくられている事実は見過ごせない。

Still from Beach Rats

9月に英国で公開された2作品も、同様のパターンに従っている。1本目は、今年初めのサンダンス映画祭でグランプリを受賞した『The Miseducation of Cameron Post』(2018)。SSA(same-sex attraction:同性に魅かれること)治療のため、同性愛矯正キャンプに参加させられた10代のレズビアン、キャメロンの物語だ。映画誌『Little White Lies』のライター、ハンナ・ウッドヘッドは、「『ザ・ミスエデュケーション・オブ・キャメロン・ポスト』は重要なLGBT映画であると同時に、青春映画のジャンルにおける画期的な作品」と評した。映画評論家のガイ・ロッジもこの作品を評価し、現在でもなお、クィアの女性監督による作品は新鮮に受け止められる、と述べている。なぜなら「映画業界に広く浸透しているジェンダーバイアスは、無意識のうちにLGBT映画に受け継がれている」と彼はいう。『The Miseducation of Cameron Post』は、間違いなくこのジャンルの代表作になるだろう。

2本目は、昨年のベネチア国際映画祭でクィア獅子賞を受賞した『マルヴィン、あるいは素晴らしい教育』(2017)。同性愛が原因で10代の頃にいじめを経験した青年が、ひとり芝居に挑む姿を回想形式で描くフランス映画だ。かつての彼が過ごしたつらい青春は、現在の創作活動によるカタルシスを通して癒されていく。「僕は逃げ出し、別人になった。つまり僕自身に」と彼は予告編で語っている。これはすべての青春映画に通じる言葉だ。彼らは皆、青春時代に何らかの形で自らのアイデンティティを追求することになる。

Still from The Miseducation Of Cameron Post

しかし、昨年の主要なクィア映画を鑑賞し、NetflixのLGBTセクションをスクロールし続けた私は、だんだんうんざりしてきた。近年のLGBT映画はいずれもこのジャンルの枠組みから出ることなく、クィアの体験の限られた視点しか与えてくれない。『ザ・ミスエデュケーション・オブ・キャメロン・ポスト』をのぞき、前述の作品の主役はほとんどが白人男性で、すべての人間がシスジェンダーであることを前提にしたキャラクターだ。当然ながら、青春映画であるからには、中高齢者のLGBTのストーリーは除外される。

同性愛者の青春映画は、基本的に若者にフォーカスし、クィアの性や恋愛を初めて知る彼らの、胸が高鳴るような体験を描く。セクシュアリティを押さえつけられた主人公は、物語の終盤で、望むままに行動するべく最初の1歩を踏み出す。しかし、その後はどうなるのか? ここ数年、青春時代以降のクィアの生活を描く作品はほぼ制作されていない。2018年のベルリン国際映画祭で先行上映され、今年夏に英国で公開された『The Heiress(原題)』(2018)は、ふたりの高齢女性の関係を繊細かつ丁寧に描いたが、このような作品は例外といえる。

Still from Reinventing Marvin

年配のキャラクターが登場するLGBT映画は、これまで高い評価を得ている。2011年には、『人生はビギナーズ』(2010)に出演したクリストファー・プラマーがアカデミー賞助演男優賞を受賞。82歳での受賞は史上最高齢だった。高齢男性カップルの生活を描いた『人生は小説よりも奇なり』(2014)も、映画批評サイトRotten Tomatoesで満足度93%を記録した。しかし、このサブジャンルにおける最大の成功例は、アネット・ベニングとジュリアン・ムーア主演の『キッズ・オールライト』(2010)だろう。当初わずか7館だった上映館数は847館に拡大。商業的にも成功を収め、アカデミー賞4部門にノミネートされた。しかし、ベビーフェイスのゲイの若者が桃で自分を慰める青春映画が市場を席巻している今、このような物語は消え去ってしまった。

青春LGBT映画全盛の今は、単に私たちがスクリーンで目にするアイデンティティだけでなく、LGBTが登場するジャンルまでもが制限されてしまっている。意外なことに、より多くのLGBTキャラクターを物語の中心に据えているのは、ホラー映画だ。例えば、『テルマ』は、思春期のレズビアンが主人公の、神秘的なホラー作品だ。また、公開間近とうわさされている『What Keeps You Alive(原題)』の主役は山小屋で記念日を過ごすレズビアンカップルで、森の中で起こる殺人と命がけの攻防を描いている。しかし、その他のジャンルにはLGBTのキャラクターが圧倒的に少なく、クィアのアクション、スリラー、SFは見当たらない。近年、これらのジャンルにクィアを登場させようという試みはあるものの、クィアに媚びていると非難されている。2019年公開予定のディズニーのアドベンチャー映画『ジャングルクルーズ』にゲイ男性役としてジャック・ホワイトホールがキャスティングされた際も、激しい反発の声が上がった。また、今年公開された『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』の脚本家ジョナサン・カスダンは、ドナルド・グローヴァーが演じたキャラクターはパンセクシュアルだと明かしたが、このインクルージョンへの試みも残念な結果に終わった。

Still from Moonlight

いっぽう、テレビにはLGBTキャラクターのための、より豊かな土壌がある。ウォシャウスキー姉妹による『Sense8 センス8』(2015)は、テレパシーで結ばれた8人のキャラクターに多様な人種、ジェンダー、セクシュアリティを取り入れたという点で画期的な作品だった。他にも『スター・トレック:ディスカバリー』(2017)、『ブルックリン・ナイン-ナイン』(2013)、『THE 100/ハンドレッド』(2014)、『ジェシカ・ジョーンズ』(2015)など、LGBTが登場するドラマは数多い。今年初めに米国で放送開始した新感覚スパイスリラー『Killing Eve(原題)』では、ジェームズ・ボンド風の主人公も、彼女の捉えどころのない強敵もクィア女性であり、ふたりは感情的でセクシュアルな関係を築くことになる。テレビではこのように、多様なジャンルのLGBTドラマが制作されるいっぽう、同性愛者の青春映画は目新しさを失いつつある。

私自身、同性愛者の青春映画には飽き飽きしているが、これらの作品が残した功績には大いに感謝している。数々の賞を受賞した『ムーンライト』や『君の名前で僕を呼んで』は、ポップカルチャーにおけるクィア映画の地位を確立した。LGBTの権利擁護団体GLAADの調査によれば、2017年に公開された映画のうち、LGBTが登場する作品は前年より減り、全体のわずか12.8%だったという。そんななか、これらの青春映画の成功は、良い兆しだといえるだろう。しかし、このジャンルが本当の意味で成長するには、LGBT映画が幼少期から大人、そして高齢期に至るまで、クィアの人生の全体像を描き、ジャンルの境界線を押し広げなければならない。メインストリームのクィア映画は、いまだ青春時代にとどまり続けている。

This article originally appeared on i-D UK.

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