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プラダやコム デ ギャルソンなど、ホラー作品とファッションの関係性は?

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Photography: Mitchell Sams

今シーズンのランウェイは恐ろしいモンスター、気味の悪いモチーフで溢れていた。プラダからコム・デ・ギャルソン、アンダーカバーまで、コレクションの着想源となった作品とともに、ファッションとホラーの関係性を探る。
By Liam Hess

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ホラー映画は時代を映す鏡だ。ベビーブームに沸く世の中に鋭い爪痕を残した70年代のスラッシャー映画、感覚の麻痺したミレニアル世代をローファイながら超リアルな描写で震えあがらせた90年代のホラー映画。そして現代、西欧で政治を巡る議論が白熱するなか、私たちが再びホラーの黄金時代に突入しているのも当然だろう。『クワイエット・プレイス』や『ヘレディタリー/継承』など、斬新なストーリーテリング、批評家からの評価、興行収入のすべてにおいて成功を収める作品が続々と誕生している。

このトレンドをいち早く取り入れるべきにもかかわらず、ファッション業界はホラー作品の可能性を開く流れに乗り遅れてしまった。おそらく、2016年に政治情勢が混迷し始めた直後にホラーの世界へと飛びこむのは、やや早計に思えたのかもしれない(もちろん例外もあった。ラフ・シモンズは、Calvin Klein 2018年春夏コレクションで、米国の王道ホラー作品への比喩を用いると同時に、トランプ政権下の米国におけるアウトサイダーとしての自らの立ち位置をはっきりと提示し、UNDERCOVERは『シャイニング』を始めとするスタンリー・キューブリック監督作品をここ数年のテーマに選んでいる)。しかし、ついに今秋、ちょうどハロウィンの時期に、ホラーは映画館だけでなくショップも占拠することになるだろう。

Prada AW19

先陣を切ったのは、やはりPrada。『フランケンシュタイン』の怪物に着想したコレクションは、キャンプの美学(訳注:不自然なもの、人工的なもの、誇張されたものに魅力を見いだす感性)と誠実さに満ちていた。会場は、フォンダツィオーネ・プラダ内の洞窟のようなインダストリアルな空間。OMAがデザインを手がけた、両脇にフィラメント電球が立ち並ぶランウェイを、暗闇から現れたモデルたちが闊歩する。ブリーチされた眉毛、『アダムス・ファミリー』のウェンズデー・アダムスを思わせる三つ編み、ふんだんにあしらわれたブラックのレースが目を引く。なかでも、イラストレーターのジャンヌ・デラタントとのコラボアイテムは一目瞭然だ。ボリス・カーロフ演じるフランケンシュタインの横に並ぶのは、ゴスガールの永遠の憧れ、エルザ・ランチェスター演じるフランケンシュタインの花嫁。ネフェルティティの胸像をイメージした彼女のアップヘアには、原作どおりブリーチ毛が描きこまれていた。

現代の女性アーティスト、知識人のトップに君臨するミウッチャ・プラダが、メアリー・シェリーにフォーカスしたのは何ら不思議ではない。彼女は女性の権利擁護を訴えたフェミニストの草分け的存在、メアリ・ウルストンクラフトの娘であり、自身が1818年に上梓した怪奇小説の金字塔『フランケンシュタイン』を、怪物モノというジャンルで内省を描くことが「女性的」であるとして、当時の批評家から軽んじられた作家でもある。

本コレクションはその事実に触れると同時に、矢で射抜かれたハートがプリントされたアイコニックなアイテムによって、フランケンシュタインが得ることのできなかった愛を暗に表現している。ホラーが描くのは幽霊や恐怖だけでない。〈アウトサイダーを愛せよ〉という、まさに今の時代に必要な教訓だ。

Undercover AW19

文学を主な着想源としたPradaに対し、映画によって想像力を刺激されたデザイナーもいる。そのひとりがUNDERCOVERの高橋盾だ。2018春夏コレクションでは、『シャイニング』を参照して双子のように対になった不気味なモデルたちを登場させ、2019年秋冬メンズコレクションでは、羽根つきの帽子、仮面を通して『時計じかけのオレンジ』にオマージュを捧げた。

今期のコレクションでは、イタリアのカルトホラー『サスペリア』のルカ・グァダニーノ監督によるリメイク版のワンシーンを、パーカーやボリューミーなスカートにプリントすることで、ここ数年でハリウッドに押し寄せたホラー作品リバイバルの波(『IT/イット "それ"が見えたら、終わり。』『ハロウィン』も大ヒット)に直接言及した。

高橋が生まれた日本も背筋の凍るようなホラー作品の宝庫だが、彼があえてヨーロッパの名作を選んだのは興味深い。彼はパリでショーを行なう外国人デザイナーとして、物事をよりクリアに捉えることのできるアウトサイダー的視点を持っているのかもしれない。彼が見出すものは非常に恐ろしいが、その恐怖を恐ろしく魅力的なアイテムへと昇華させている。

Simone Rocha AW19

他にも、今シーズンのコレクションはホラー作品のモチーフで溢れていた。たとえば、Simone Rochaがメインライン、現在発売中のMonclerとのコラボレーションの両方で展開したハイゴシックなヴィクトリアンドレス。アンティーク調のチュールが幾重にも重ねられたこのアイテムは、彼女が尊敬する彫刻家であり、ホラー映画の美術監督のアイデアボードにも繰り返し登場してきたルイーズ・ブルジョワの不気味な作品群を彷彿とさせる。

いっぽうGucciは、根強い人気を誇るクラシックホラー『13日の金曜日』を参照し、ジェイソンマスク、鋭利なスタッズのついたパワーショルダージャケットを展開した。

Comme Des Garçons, AW19

しかし、ホラー映画と私たちのワードローブの関係性の考察をもっとも鋭く、そして(おそらく意図的に)曖昧に表現したのは、川久保玲だ。

〈影の集い〉と題されたComme des Garçonsウィメンズウェアショーのフィナーレを飾ったのは、黒いフェルトやゴムのようなレザーでつくられたドレスをまとうモデルたちの行進。パニエのように突き出したシェイプは、数々のホラー作品におけるもっともファッショナブルなキャラクターである魔女を連想させ、女性の身体の歪なヴィジョンをつくりだしている。スポットライトに照らされ、ランウェイ中央で輪になったモデルたちの姿は、アーサー・ミラーの戯曲『るつぼ』に登場する、森のなかで異教の儀式を行う十代の少女たちのようだった。

他の名作ホラーと同様に、ミラーの『るつぼ』も当時のマッカーシズム(1940〜1950年代、共産主義者を根絶やしに政府による〈魔女狩り〉)を痛烈に批判している(ちなみにトランプ大統領も、ロシア疑惑の捜査を非難するさい、魔女狩りという言葉を使った)。

ミラーの戯曲、そして川久保玲によるオマージュは、宗教的熱狂がアウトサイダーを排除する悪意に満ちた風潮に変わってしまう、疑心暗鬼、デマ、不安に満ちた時代にぴったりだ。また、力強い女性を〈魔女〉と呼ぶことは、セクシストが女性政治家に対してする嫌がらせの常套手段となっている。川久保はそれを逆手にとり、アウトサイダーである女性たちの輪をつくることで、静かで瞑想的な美しさを演出した。

ホラーにおける最高の瞬間は、かけ離れたふたつの要素が完璧に重なったときに訪れる。ひとつは、真っ暗な闇夜の消えることのない危機感、私たちが眠っているあいだに襲いにくる化け物の獰猛なうなり声など、闘うか逃げるかという人間の原始的本能を刺激する恐怖。もうひとつは、その時代特有の不安感。たとえば遺伝子操作された肉食植物、人間に敵意を抱いたAIなどだ。

時代を超えたモノと最先端のモノ、このふたつがこれほど見事に融合する分野は、ファッションをおいて他にはない。確かにファッション業界は一歩出遅れたかもしれないが、ホラーはようやく完璧なパートナーを見つけた。このふたつが織りなすダークな魅力を放つ衣服が、この世界のおぞましい事実を暴くのだ。

This article originally appeared on i-D UK.

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