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【インタビュー】深化する「ナマチェコ」のクリエイションと影の立役者

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深化する《ナマチェコ》のクリエイション、そして影の立役者。

今年2月に発売した弊誌4月号「CODE in MODE」にて、国内独占インタビューを掲載した《ナマチェコ》が東京にやってきた。《ナマチェコ》は、デザイナーである兄ディランとCEOである妹レーザンのルー兄妹によって2015年設立されたブランドだ。2017-18 F/Wシーズンに初のコレクションを発表し、そのクリエイションが高評価を得て、怒涛の勢いで卸先が拡張している、今一番注目されているブランドだと言っていい。そして2018-19F/Wシーズンより「ドーバー ストリート マーケット ギンザ」での取り扱いも決まり、いきなり《ナマチェコ》の独自スペースをオープンするとのことだ。その設置とお披露目に合わせて、デザイナーのディラン・ルーが来日。彼にはおよそ半年前にインタビューをしているが、まだまだ聞きたいことは山ほどある。ディランに会いにいくと、彼の隣にはある日本人の姿があった。その人の名は、セイヤ・ナカムラ。日本拠点のファッションセールス / ブランドデベロップメント会社「Seiya Nakamura 2.24」、そしてファッションセールス会社「On Tokyo Showroom」の代表を務める人物だ。聞くと、なんとセイヤ氏は《ナマチェコ》の副社長でもあるという。ベルギー拠点のブランドの副社長が日本人? なぜ海を挟んだこの2人がタッグを組んでいる? セイヤ氏がいなければ、今の《ナマチェコ》は存在しない。しかし彼らの関係は、ビジネスパートナーというより仲睦まじい親友のように感じられる。今回のインタビューでは2人の関係性を解き明かしつつ、深化する《ナマチェコ》のクリエイションに迫る。

2018-19 F/W Collection

———セイヤ氏は、《ナマチェコ》でどのような仕事をしているのでしょうか?

セイヤ・ナカムラ(以下 S) 「《ナマチェコ》での仕事は、僕のパーソナルなプロジェクトと位置付けています。僕は自分の会社『Seiya Nakamura 2.24』を代表として運営していますが、《ナマチェコ》でも副社長というポジションで仕事をしています。ブランドのディレクションというよりは、コマーシャルやコミュニケーションが担当領域です。例えばブランドポジショニングに関するストラテジーや商品のプライスポイントの検討といった事までやります。セールスに関しては、『Seiya Nakamura 2.24』のスタッフを動員して一緒に行なっています」

ディラン・ルアー(以下 D)「セイヤさんには《ナマチェコ》のために24時間体制で働いてもらっているよ(笑) いつも僕をケアしてくれて、まるで兄弟みたいなんだ。僕がナーバスな雰囲気のメールを送ると、すぐに電話がかかってくるくらい(笑) パリのエキシビション時期は、彼も他の仕事があるにも関わらず、いつもショールームにいてくれるしね」

———お2人が初めて会ったのはパリですか?どのようなきっかけだったのでしょうか?

S 「いや、スカイプ経由じゃないかな? 初めて《ナマチェコ》のコレクションを見たとき、それはコレクションというよりはアートピースに近いものだったけれど、とても感動したんです。僕はディランのことをもっと知りたくなったし、会って話がしたくなった。そうしてスカイプでミーティングをしたのが最初でしたね」

D 「そうだね。セイヤさんが連絡をくれたときは《ナマチェコ》にとっても完璧なタイミングだったんだ。当時、僕の存在を知っている人なんていなかった。しかしセイヤさんがいると、どんどん人が集まってきて、自然な形でつながりが生まれるんだ。また、パーソナルな規模でのセールスを担当してくれるという点も《ナマチェコ》のスタンスとマッチしていたね」

———そうなのですね。お互いにとって協業を決めるのは大きな決断だったと思いますが、決め手はあったのでしょうか?

D 「まず、口では説明できない化学反応のようなものがあったね。そして、お互いが同じ方向性を志していることも確認できた。セイヤさんは、ブランドがインディペンデントを貫くべきだと僕以上に信じている。だからこそ、ブランド戦略にもパーソナルなアプローチを仕掛けているよ。アートや写真、音楽についても僕たちは同様の興味を抱いているし、人生観も似ているね。同じビジョンを持っていることは、協業する上でとても重要なことだ」

S 「僕らは、会うたびにとにかくたくさん話をします。ディランが日本に来るときには僕の自宅に招いて、常に話に続け、気づけば朝の5時なんてこともあります。僕にとっても、ディランのようにいつもインスパイアされる人間を見つけるのは大事なことなんです。彼のような"どこかへ連れて行ってくれる人"と出会う機会はなかなかない。たまには意見が食い違うこともあるけれど、いつも同じレベルで話せるからこそ最終的には分かり合える。なぜなら、お互いにロジカルな思考の持ち主だから」

D 「そう。ロジカルであることは非常に重要だ。そしてお互いにリスペクトしあっていることもね。意見が違うときも、オープンマインドで話すことで、最初は反対していても話し合いの後で納得することも多い。お互いが信用しあっているからこそ、率直な議論ができる。だから日本とベルギーという距離間隔も問題ないね」

2018-19 F/W Collection

———国の垣根を越えて協業するメリット、デメリットについて教えてください。

D 「メリットは、毎日のように会わなくていいことかな(笑) いや真面目な話なんだけど、遠距離だからこそ、関係性にスペースができるんだ。僕らはとても仲がいいが、会社の中では別々のフィールドを担当している。僕はデザイン、セイヤさんはコマーシャル&コミュニケーション、そして僕の妹と一緒にブランド戦略も担っている。いわば、僕らはブランドに対して別々の視点からアプローチをしかけているから、関係性にクッションとなる余地が必要なんだ。常に一緒の空間にいたら、議論が白熱し過ぎてしまうかもしれない。地理的距離が、僕らの関係性に適切なスペースを与えてくれているんだ。さらにいうと、例えば僕がいつもコマーシャルやコミュニケーションで起こっていることを知っているのはよくない。僕はデザインに専念したいからね。そして、同じくセイヤさんも自分の仕事に専念できる。とはいえ、地理的距離はたまにはデメリットにもなるね。直接顔を合わせて話し合ったほうがいいときもあるから」

———セイヤ氏から見て、《ナマチェコ》の特異性とは何でしょうか?

D 「服だよね!」

S 「もちろんね(笑) まずブランドとして、とてもスペシャルですよね。コレクションを構成するのはコートやニットウエア、シャツ、パンツなど。これらはすべてクラシックなものです」

D 「《ナマチェコ》は、Tシャツやスウェットを作らないからね」

S 「マーケット的観点から見ると、やはりTシャツやスウェットは売れやすいアイテム。だから僕がブランドに加入した直後は『作ってくれ!』と相談したのですが、ディランは折れなかった。今思うと、彼が僕に譲歩しなかったのはとてもよい判断だったと思います。僕は《ナマチェコ》がこれまでのどんなブランドとも違ったブランドになると信じています。ディランは判断を何かに依存することはありません。例えば日本に来て、日本からインスピレーションを得て服を作ることはあるかと思いますが、誰かの指示や要請から妥協して作ることはないのです。その強い意志を僕はリスペクトしています」

D 「《ナマチェコ》は、2017-18F/Wの立ち上げからの短期間で、コマーシャルはとてもうまく行っている。しかし、コレクション制作にあたって何一つ妥協はしていない。以前シルクシャツを作ったとき、メートル単価125ユーロの生地を使ったことがある。一枚のシャツの生地代だけで300ユーロ近くになるんだ(笑) 普通は高すぎるので使用しないと思うけれど、僕は使う。絶対に妥協したくないから。そのようなことを続けるには、セイヤさんのような人のサポートが必要だけれどね。《ナマチェコ》のネームタグがついた商品で、たった200ユーロで買えるものは存在しない。Tシャツやスウェットなんて、作る興味すら湧かないよ。だって、そういうアイテムはすでに他の多くのブランドが作っているだろう。もしTシャツやスウェットが欲しいなら、他のブランドで買えばいい。《ナマチェコ》で買う必要はないんだ。僕はこれをとても健康的なやり方だと思っていて、そのようなマーケットに足を踏み入れたくないし、重要だとも思わない。他のアプローチも多くあるし、すべてのマーケットに対して万能である必要もない。ブランドとして、あるべきポジションにいるだけなんだ。何事も妥協せずに自身の道を貫くことは、ブランドを特別なものにすると信じている。みんながストリートウエアを作るなら、僕はテーラードやミニマルな服を作る。みんながプリントを多用していても、僕はプリントなんて一切やらない」

2018-19 F/W Collection

———今後、どのようなアプローチでブランド展開を行いますか?

D 「次のステップは、ウィメンズウエアを作ることだね。先日パリで発表した2019 S/Sのランウェイではウィメンズモデルも歩いたけれど、彼女たちはメンズウエアをそのまま着ているだけなんだ。近い将来には、メンズとは完全に切り離されたウィメンズコレクションを始めたいと思っている。あとは、プライスレベルの調整にも取り組まなければいけないね。《ナマチェコ》は、毎シーズン同じアイテムを繰り返すようなことはしない。世間には、シグネチャーピースと呼ばれる"定番"アイテムとともに育っていくブランドもあるけれど、僕らは何一つ同じアイテムは作らない。僕が信念を持ってコレクションを作るかぎり、シーズンごとにその色を変えてもアイデンティティは強く残ると信じている。顧客にとっても、買うピースがユニークなものである点は重要だよね。何シーズンにもわたって同じアイテムが展開されるうちに、みんなが持っているなんて嫌だろう? プライスに関しても、ただ下げればいいという考えではない。必要なのはハイとローのコントラストなんだ。《ナマチェコ》はそのレベルにきているよ。それでも使う素材を妥協したりしないね。だから高価格なアイテムももちろんあるよ」

———なぜウィメンズウエアを始めるのでしょうか?

D 「たくさんの女性が《ナマチェコ》に興味を持ってくれているから。実際、すでに多くの女性が《ナマチェコ》を買ってくれているみたいだ。しかしどうせなら、メンズウエアをベースにするのではなく、ウィメンズならではのユニークなアイテムを作りたい。もちろん少しはメンズと似ている点も出てくるけれど、違ったものになるよ。そもそも、僕にとってウィメンズを作るのも自然なことなんだよね。メンズのコレクションを作る際にも、50、60年代のクチュールから多くのインスピレーションを得ているから」

———ディラン氏は、日本のファッションシーンをどのように感じますか?

D 「とても知識があって洗練されていると思うよ。《ナマチェコ》はヨーロッパを拠点とするとても小さなブランドなのに、一番よく名前を知られているのは日本なんだ。それは、メディアの露出が多いことが理由ではない。これまで日本でインタビューを受けたのは『Them magazine』のみだしね。とても知識に貪欲で豊かなマーケットだ。そしてその興味の発端には、セレブリティが着ているからではなく、親から影響を受けるなど世代を経た影響があるようだ。それはファッションへの深い理解をもたらしているんだろうね。僕らのような、ブランディングに特化していたり、ストリートウエアを売るわけではないブランドにとっては非常に重要なマーケットだね」

———ヨーロッパのブランドから見て、日本のマーケットはどのような立ち位置なのでしょうか?

D 「それを端的に説明するのは難しい。僕には長きに渡るファッションのバックグラウンドがあるわけではないから。昔からそうなんだけどなぜかはわからない」

S 「これは僕の考えですが、《ラフ シモンズ》や《アン ドゥムルメステール》《ドリス ヴァン ノッテン》など他のベルギーのブランドにとっても、日本は一番大きなマーケットだと思います」

D 「僕が今一緒に仕事をしている、《ラフ シモンズ》や《ヴェロニク ブランキーノ》を作っていたベルギーの『Gysemans Clothing Industry』という工場も、日本は重要なマーケットだと常に言っているよ。だからデザイナーズブランドの歴史の中で、日本は非常に需要な役割を担ってきたと言っていいはずだ。特にインディペンデントなブランドにとってはね。インディペンデントでいるためには、周りのサポートが不可欠だから。『ドーバー ストリート マーケット ギンザ』も、僕らより長くやっているブランドが他にあるのに、それでも貴重なスペースを《ナマチェコ》にくれたんだ。彼らはブランドの大きさや知名度、そして売れ行きを考えないみたいだ(笑) なぜなら、僕らは『ドーバー』に今シーズンから初めて取り扱われるんだから。だからこそ、僕らにとってこのオファーは驚きだったけれど、この機会にとても感謝しているよ」

「ドーバー ストリート マーケット ギンザ」の《ナマチェコ》スペース

———「ドーバー ストリート マーケット ギンザ」の《ナマチェコ》スペースのデザインについて教えてください。

D 「これは、家へと入るゲートを意味しているんだ。僕が生まれたイラクのクルディスタン地域には、メタルの扉が付いている家が多くある。例に漏れず、僕の生家にも付いていて、展示スペースのゲートデザインはそれを模しているんだ。すべてをトレースしたわけではないけれど、上の方の部分は完璧なレプリカだ。メタルの奥が緑色なのは、パリのショールームからの引用。緑は『クルド人にとって革命、そして自由を表す色』だからね。扉の奥は僕の家、つまり僕の歴史なんだ。ちなみに、これらの什器は日本で作ったよ」

———コレクションを重ねる中で、クルド人としてのアイデンティティへの意識が強くなっていますか?

D 「まさしくね。自分のアイデンティティを探ることはデザイン方法論の一つ。しかし、たまには他のことをして、一息つかないと。今後のシーズンは、そう言った自分のアイデンティティから離れ、次のステージに行こうと思っているよ」

———コレクションを重ねる中で、身の回りの環境や自身の心境は変化していますか?

D 「僕は謙虚なんだ。例えば『ドーバー』に自分のスペースがあるから"自分のことを素晴らしい"とは思わないし、たくさんの取扱店が日本にあるから"良い"とも思わない。『Them magazine』からインタビューされているから"良い"わけでもない。僕は自分が素晴らしいとは思っていないんだ。いつも自分に対して疑問を持っているし、自分のやることに対してもそう。ただ、シーズンを重ねるごとにやることは増えているね。インタビューを受けるのもそうだし、パリのコレクション協会も僕らをオフィシャルのスケジュールに加えたしね。だからこれからも僕は、悩む中でベターなもの、深くてエナジーがあってエモーショナルなアイデアを強く提示していくしかないね」

Edit_Ko Ueoka

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