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映画と写真――今泉力哉と木村和平の対話 最新作「窓辺にて」が公開

映画と写真――今泉力哉と木村和平の対話 最新作「窓辺にて」が公開

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映画監督・今泉力哉の作品『愛がなんだ』『街の上で』をはじめ、さまざまな映画のスチール(写真)を手掛けてきた写真家の木村和平。最新作『窓辺にて』でもタッグを組む二人は、映画におけるスチールのあり方や可能性について、いまどのように考え、向き合っているのか。

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聞き手は、映画『愛なのに』『猫は逃げた』のスチールを担当した写真家・柴崎まどか。

映画のスチールにはもっとやれることがある(木村)

まずは今泉監督と木村さんの、最初の出会いからお聞きかせください。

今泉:自分が演出した『アジェについて』(2015)という舞台を木村さんが観に来てくれていたんです。終演後に舞台の感想をTwitterでエゴサーチしてたら、「すごくおもしろかったけれど笑いの部分についてだけは監督の理想に達していないんじゃないか」みたいな、的確な感想を見つけて(笑)。誰だと調べたら、写真をやっている木村さんという方で。

木村:あれから7年も経ったんですね。当時はまだなにものにもなっていない大学生で、Twitterも言いたい放題。今泉さんがそれを見つけて知ってくれて、出演していた7A(nanae)ちゃんがつないでくれたんです。

今泉:それをきっかけに、映像の中で使う写真を撮ってもらうようになり。

木村:乃木坂46(北野日奈子&堀未央奈『かなしくない I’m not sad』(2015))が最初ですね。

今泉:何度かご一緒したあとに、映画では『愛がなんだ』(2018)で初めて入ってもらいました。

木村:その前にも、内山拓也という同い年の監督の自主映画『ヴァニタス』(2016)は数日参加したりしていましたけど、全国公開の映画は『愛がなんだ』が初めてでした。

映画『ヴァニタス』ポスター ©VANITAS

『愛がなんだ』には、いきなり1人で入ったんですか?

木村:そうですね。ただ映画にスチールで入る作法もなにも知らなかったので、プロデューサーのかたにスチールマンを紹介していただいて、電話でいろいろ教えていただきました。

今泉:本番は撮っちゃダメとか。

木村:そうです。役者さんの目線の先に行っちゃダメだよとか。暗黙のルールみたいなものは一通り教えていただきましたが、本当になにもわからないまま飛び込んで。

先入観のない状態で現場に入ったからこそ気づいたことも?

木村:当たり前ですが、映画の現場は映像を作ることが第一目的なんです。でも、お客さんが最初に見るのってスチールのビジュアルであることが多いのに、なんでその優先順位が低いんだろうという疑問がまず生まれました。

今泉:僕はポスタービジュアルや予告もこだわるほうで、それはたぶん自主映画をやっていたときに自分たちでやっていたからで。それでもスチールは映像の隙間や、与えられたここという日に撮って、撮った写真は素材として勝手に使うことが当たり前になっていて。木村さんとやってからこの現状は健全でないなと気づかされました。いろんな事情があるにしても、議論もされずに仕方ないことになっているのはおかしいですよね。

木村:『愛がなんだ』のビジュアルに関しては、僕は絶対あのおんぶの写真が良かったんです。映画の内容を表現していないとか暗いとかいろいろ言われたんですけど、なんとかティザーに使っていただけて。

今泉:ティザーのビジュアルがあまりに良くて定着したから、宣伝のトップのかたが「やっぱり、本ビジュアルも変えないほうがいい」と。あの映画が広がった大きな理由のひとつはビジュアルだったと思います。

※編集者注…映画における「ティザービジュアル」とは、作品情報を絞って先出しすることで注目を集めるビジュアル。「本ビジュアル」とは、ティザーの後に解禁されるプロモーション本番用のビジュアルを指す。

映画『愛がなんだ』ティザーポスター ©2019映画「愛がなんだ」製作委員会

映画を広めるという目的に立ち返ると、見直したほうが良い慣習もあるはずですよね。

今泉:最近、木村さんに言われてなるほどなと思ったのは、たとえば映画本編で重要なシーンは再びスチールで押さえることがありますが、それって今の4K映像だったら画像として抜き出しできるのではと。もちろんスチールのほうが絶対強いから、本当は意味があることなんですけど。

木村:場面写真って、そもそも無謀だなと思ってて。特に今泉さんの映画に出てくる若者は狭い部屋に住んでいるじゃないですか(笑)。あらゆるところにカメラなどの機材があって、やっとここだって見つけたところには「そこ、いいですか?」って録音さんが立つ場所だったりして、ダメだと言われてしまう……。どう頑張っても、映像がベストなポジションを持っているので。だったら割り切って、スチールにはもっとやれることがあるんじゃないかなと、最近は関わり方をちょっと変えてきています。

今泉:ポスターのデザインでも、なんでこうなったんだろう……みたいなものもあるじゃないですか。でも、あんまり良くないデザインだなあっていう日本映画の海外版のポスタービジュアルがめちゃくちゃ良かったときがあって。いいものはつくれるんだなってわかって。

つまり、デザイナーさんもいろんな制約の中やっているってことなんですよね。『窓辺にて』のデザインをお願いした大島依提亜さんと話したときに言ってたのは、今は印刷しないビジュアルをWEBでいっぱい出すこともできる時代だから、自由に作るだけ作って波及させる方法もあるよねと。

木村さんがスチールを手掛けた映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』(2021)もそうでしたね。

木村: WEB専用で主要キャスト全員分のポスターを作って、本ビジュアルはわかりやすいものになりました。

映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』キャラクターポスター ©2021 C&I entertainment

作品をヒットさせるためのアイデアをみんなで話し合いたい(今泉)

そもそも映画において“良い写真”とは、どういったものだと考えていますか?

今泉:時間が写っていることでしょうか。撮られた瞬間の前後や、そこに漂う空気や温度が見えるかどうか。『愛がなんだ』のおんぶの写真には、まさしく時間そのものが写っていました。

木村:あの写真を提案したとき、本編に同じシーンがないことが少し問題になったのですが、真剣に映画を観た人だったらあれがいつの時間のことなのかすぐにわかりますよね。それに映画を観て「写真のシーンないじゃん」って、ある種の裏切りがあることも魅力になると思うんです。

今泉:『窓辺にて』の本ビジュアルもそうですね。稲垣吾郎さんと玉城ティナさんの両方が手をかざしているシーンは映画にないですから。

木村:ティザーの写真はパフェを食べている稲垣さんですけど、あれも本編にはないです。でも映画を観終わった後に、あったかもしれない時間だよねとなるような写真を意識的に撮っています。

映画『窓辺にて』ティザービジュアル ©2022「窓辺にて」製作委員会

今泉:写真が映画を補うみたいなことなんですかね?

木村:映画と写真、それぞれが補い合えるのが理想だと思います。

それにしても、映画のスチールって特殊ですよね。視覚的な表現を、視覚的に宣伝するという。

木村:本当にそうなんですよ。普通の広告写真とはまったく別物で。だからこそ、映画と写真はお互いに良い作用が生まれるものであるべきだと思うんです。

今泉:あとはシンプルに、部屋に飾りたくなるビジュアルが良いなって思いますね。自分は映画のポスターを20〜30枚持っているんですけど、買いたくなるかどうかって、作品の良し悪しだけでなくビジュアルの良し悪しもある。

木村:そうそうそう。写真作品や絵画も同じで、どれだけ時代を反映させていようがコンセプチュアルだろうが、部屋に飾りたくないものは買わないですよね。

『窓辺にて』では、デザイナーの大島依提亜さんやタイトルロゴをデザインされたIyo Yamauraさんにも、今泉監督からオファーされたそうですね。監督が自らデザイナーを決めることもめずらしいのでは?

今泉:たしかに、デザイナーさんとはお会いしていないときも多いです。あと本当は予告編とかを作っている人とも会って挨拶したいし、話し合いたいなとか思いますけど、まず会わせてもらえない。どうも監督が気遣われている気もして。「そんなことで監督のお手を煩わせるのは」みたいな。なんか別の理由がありそうですけど(笑)。

スチールの場に立ち会わない監督も多いですよね。写真のプロにお任せしますということかもしれませんが。

今泉:難しいですよね。僕はどうしてもいちいち言っちゃうから、もっと任せなきゃいけないと思うときもいっぱいあるし。本当はスチールも、デザイナーも、予告を作る人も、ちゃんと会って時間をかけて話したら、お互いが納得できることも多いはずなんですけど。

木村:だけど、監督の映画じゃないですか。ビジュアルまで含めて監督の作品じゃないの、と。そのビジュアルの撮影に関心がないのは、とても不思議です。

なにも共有がなく任されると、それは分離したものができちゃうよなって思います。もちろんぶつかり合うことが必ずしも良いわけではないですけど、なんとなくの慣例で進めすぎな傾向はあるかもしれません。

今泉:それで、できあがった映画が広がらなかったら悔しいですよね。映画を完成させることよりも、そこから劇場公開に向かうやりとりで、一番心が病むんです(笑)。でも作品を作って、あとはお任せで良いですというのは監督として無責任だと思うから、その感覚は自分にはないし、作品をヒットさせるためのアイデアをみんなで話し合いたい。

ただ、監督の発言力ってどうしても強くなるから、それで他の人が意見できなくなったり、考えていることを閉ざしたりしないようには気をつけています。

映画『窓辺にて』本ビジュアル ©2022「窓辺にて」製作委員会

『窓辺にて』のスチールは、すべてが木村さんの写真ではないんですよね。

今泉:木村さんと飯田エリカさんですね。飯田さんはほぼ毎日ベタ付きでいてくださり、木村さんは特写的というか、ここという日に4、5日ぐらい。

撮影時に意識したことはありますか?

木村:今泉組、特に『窓辺にて』のチームは僕のやり方もなんとなくわかってくださっている方が多いから、すごく気持ち良くやらせてもらいました。(本ビジュアルの写真は)とにかくこの「光の指輪」のシーンが印象的だったので、その時間の続きですよと稲垣さんと玉城さんの2人に伝えたうえで、あとは好きにしてもらいました。

― すごく自然な空気感ですけど、スチール用に演出を?

木村:そうですね。映画と違って写真なら撮っている間に話しかけられるので、声をかけながら。ただ自分の映画における写真の課題としてで、止まっていたくないというのがあって。それこそ時間が収められたら良いなと思っているので、このポーズをとってくださいとは言わないようにしています。今回はシーンの延長でなにかやっていてくださいということだけ伝えたら、玉城さんが自分の手と稲垣さんの手に光を当てて、その過程をずっと撮っていました。

今泉:木村さんって、思いっきり目線が来ている写真を撮るときもあるんですか?

木村:自分が関わった映画では、目線がしっかり来ているのは少ないかもしれないです。それだと写真のための写真になりがちなので。もちろん目線が来てても魅力的なビジュアルだってたくさんありますが。

今泉:1枚絵の強さっていうのもありますよね。

木村:それは推していきたいところです。今泉さんの映画は群像劇が多いので、なかなか1枚絵に収めるのが難しいですけど、でもやりようはいろいろあるんじゃないかなと。

左:今泉力哉 右:木村和平

映画にスチールとして携わることにはどんな魅力ややりがいがありますか?

木村:僕も文句ばっかり言っていますが、やっぱり楽しいんですよね。映画が好きだし、好奇心が刺激される場だとも思ってて。普段自分がいるフィールドだと、短ければ5分、長くても半日というスパンでしか被写体と向き合わないけれけど、映画は何日間、何週間と一緒に過ごすことで、どんどんコミュニケーションが密になっていく楽しさがあります。

それに、ここに入った以上はやっぱり諦めたくないんです。映画に関わっている写真家の方と対談したときも、お互い思っていることは一緒で、諦めたくないよねって。同じように考えながら、この仕事に向き合っている人がいることが自分の励みにもなっています。

今日お話されて、新しい気づきはありましたか?

木村:今泉さんとはお互いに意図を伝え合える関係性なので、このままやっていけたら良いなと。そしてはじめましての方の場合にも同じように、事前に相互理解したうえで始めることが大切でしょうね。

今泉:極端な話、先にビジュアルが決まってから映画を撮るのも良いかもなって、今日話していて思いました。タイトルを先に決めるかどうかと同じで、ビジュアルが先行していたら、撮るときに何が変わるのか。

木村:確かに。そういう新しい試みがあってもおもしろいですよね。

Profile _ 今泉力哉(いまいずみ・りきや)
1981年生まれ、福島県出身。恋愛映画をつくりつづける。主な監督作品に『愛がなんだ』(19)、『街の上で』(21)、『かそけきサンカヨウ』(21)、『猫は逃げた』(22)など。また、キングオブコント2021のオープニング映像、ドラマ「有村架純の撮休」や「時効警察はじめました」の演出を手がけるなど、映画以外にも活動の場を広げている。最新作はNetflix映画『ちひろさん』(23年2月23日配信予定)。
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Profile _ 木村和平(きむら・かずへい)
1993年生まれ、福島県いわき市生まれ。ファッションや音楽、映画などの分野で活動しながら、作品制作を続けている。第19回写真『1_WALL』審査員奨励賞受賞(姫野希美選)。主な写真展に、『石と桃』(Roll、2022)、「あたらしい窓」(BOOK AND SONS、2022)、主な写真集に、『袖幕』 『灯台』(共にaptp)、『あたらしい窓』(赤々舎)など。
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Information

映画『窓辺にて』

2022年11月4日(金)より全国公開中

出演:稲垣吾郎、中村ゆり、玉城ティナ、若葉竜也、志田未来、倉悠貴、穂志もえか、佐々木詩音/斉藤陽一郎、松金よね子
監督・脚本:今泉力哉

『窓辺にて』公式サイト

©2022「窓辺にて」製作委員会

Photography&Interview : Madoka Shibazaki
Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI / STUDIO UNI)

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