Wata Igarashi ©️ Pedro francisco
今年で3回目を迎える「Sónar Lisboa」が3月22日から24日の3日間に渡り、リスボンのエドゥアルド7世公園(Parque Eduardo VII)にて開催された。同フェスは、バルセロナ発祥のエレクトロニックミュージックフェスティバル「Sónar」のキックオフイベントとして2022年よりスタート。
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世界中から一流アーティストが招聘され、屋内外に設置された各ステージでDJやライブパフォーマンスが披露される。また、最新のテクノロジー技術やアートインスタレーション、パネルトークといった音楽以外にも様々なプログラムが実施される。
筆者は初回開催以来2年ぶりの参加となった今年、各プログラムがそれぞれ違う会場で行われていた第1回目とは変わり、エドゥアルド7世公園の敷地内に全ステージが集約されていたため移動の煩わしさもなく、見たいアーティストを逃すことなく見ることができた。
中でも「Carhartt WIP」が野外ステージのひとつ「Sónar Park」をサポートしていたことに注目したい。カーハートといえば、ディッキーズと並ぶ3大ワークウェアブランドのひとつとして世界的に認知されているが、近年のワークウェア人気と90年代ファッションやカルチャーのリバイバルブームによって人気が再燃している。ヴィンテージショップに並んでいるような程よいダメージが施された味のある古着のカーハートも人気だが、sacaiとのコラボレーションコレクションを発表するなど、ワークウェアの垣根を越えたプロジェクトにも精力的だ。
「Carhartt WIP」として1989年に設立されて以来、音楽やスポーツと結び付きの強いブランドという印象はあったが、スケートボードやBMXといったエクストリーム系スポーツやヒップホップのイメージだった。エレクトロニックミュージックシーンへのサポートが目立つようになってきたのはここ数年だろうか?オフィシャルサイトでも音楽専用のプラットフォームを展開しており、ロンドンの「NTS Radio」とのコラボレーションプロジェクトや昨年には世界中でカルト的人気を誇るベルリンのレーベル「KeineMusic」のショーケースを成功させている。
そんな「Carhartt WIP」がサポートする「Sónar Park」ステージには、Florentino、XEXA、Groveをはじめとする個性的なラインナップに、唯一の日本人アーティストとしてWata Igarashiがライブアクトとして出演。昨年より東京からアムステルダムに拠点を移し、ヨーロッパでのブッキングが後を経たない彼に同フェスについて尋ねた。フロアー奥の土手まで多数のオーディエンスで溢れ、かなりの盛り上がりを見せていたが、手応えはどうだったのだろうか?また、世界のトップアーティストたちと肩を並べてプレイすることにプレッシャーはないのだろうか?
「太陽が落ちてきて夜の空に変わる瞬間がとろけそうで、とても気持ち良かったです。大きなフェスではなかなか感じられないオーディエンスとの一体感があったのも良いですね。プレイ後もオーガナイザーや多数のオーディンエンスから賞賛の声をかけてもらえて本当に嬉しかったです。世界にたくさんいるアーティストの中で自分しかできない世界観の音楽をプレイしようと常に心掛けています。僕のいるエレクトロニックミュージック業界は目まぐるしく、入れ替わりが激しい。だから、毎回これが人生最後のプレイとなっても後悔しないぞ!といった意気込みを入れてますね。あとは体調管理です。アスリートとまでとはいかないですが、時差ボケや睡眠不足などで免疫が落ちて体調を崩してしまう可能性もあるので、日頃から運動したり、食事に気をつけたりして、できるだけベストなコンディションで挑めるように心掛けています。」
筆者がヨーロッパのフェスに参加する度に感じてしまうのは、日本人に限らず、アジア人アーティストのブッキングの少なさだ。オーディエンスにおいてもコロナ前に比べたらかなり少なく、珍しがられることさえある。そういった中で、ヨーロッパローカルに多数のファンを持つWata Igarashiは、日本人アーティストとしてどう感じているのだろうか?
「僕は日本人であることをそこまで意識していませんが、時代の流れを取り入れつつも、100%流されずに自分にしかできないサウンドを常に意識してきたことが功をそうしたのかなと思っています。どんなに変わった音楽でも世界のどこかにその音を好きで聴いてくれる変わった人って必ずいるんですよね(笑)。たとえ、小さいイベントでも自分の表現を極めていく活動を続けてきました。そこから地球の反対側にリスナーが少しずつ増えていって、そのうち各都市に呼んでもらえるようになり、それを見た他都市のプロモーターが彼らのイベントに呼んでくれたり。そういった地道な活動が少しづつ膨らんでいき、大きくなったことで今があると思っています。もちろん運もあるし、常にアップダウンもあるのですが、自分の個性を表現することを常に楽しみながらアーティスト人生を長く続けていくことが大切ですよね。」
今年は16カ国から54組のアーティストが出演し、地元ポルトガルはもちろん、スペイン、イギリス、フランス、イタリア、ドイツなど50カ国以上から19,500人の動員数を記録した。「Sónar Lisboa」の魅力はDJだけに限らずライブアクトも多く、ジャンルもテクノやハウスだけに偏らず、UKガラージ、アフロフューチャー、ラテンサウンドなど幅広いことだ。女性アーティストの活躍が目立っていたことも好印象を与えるし、最先端の音楽と多様性をうまく取り入れた完成度の高いフェスだと実感した。
海が近く、観光地としても人気の高いリスボンだが、ディープなクラブカルチャーが根付いており、フェスの客層も20代前半の女子グループから還暦を迎えているであろうパーティー玄人までと幅広く、真の音楽好きで溢れている。リスボンは初年度の大成功を経て、Sónarのキックオフイベント開催地として固定されているが、早くも来年の開催を発表している。
長野県生まれ。文化服装学院ファッションビジネス科卒業。
セレクトショップのプレス、ブランドディレクターなどを経たのち、フリーランスとしてPR事業をスタートさせる。ファッションと音楽の二本を柱に独自のスタイルで実績を積みながら、ライターとしても執筆活動を開始する。ヨーロッパのフェスやローカルカルチャーの取材を行うなど海外へと活動の幅を広げ、2014年には東京からベルリンへと拠点を移す。現在、多くの媒体にて連載を持ち、ベルリンをはじめとするヨーロッパ各地の現地情報を伝えている。主な媒体に、Qetic、VOGUE、men’sFUDGE、繊研新聞、WWD Beautyなどがある。
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