石井日奈子さん
急速な円安が世界で学ぶ日本人留学生を圧迫している。家賃や物価の上昇、仕送りの目減りという窮地を乗り越える若者を追った。(ニューヨーク=杉本佳子通信員)
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バッグ作り売る
ニューヨーク(NY)のファッション工科大学(FIT)への日本からの留学生は年間100人以上いた時代がある。コロナ禍前時点で二十数人まで減ったが、この5月に卒業した一人に石井日奈子さんがいる。
中学生の時から英語が大好きで、自然と留学を意識するようになった。将来何がやりたいのか考えた時、自分に自信を与えてくれるものがファッションだった。それで、FITのファッションビジネスマネジメント科に留学したがコロナ禍が直撃し、2カ月で帰国した。2年間休学してNYに戻ると、急激な円安が進み、食費を切り詰めながらの生活を強いられた。やがて「もう仕送りできない。日本に帰ってくるように」と母に言われてしまう。
しかし、卒業は諦めるわけにいかない。かぎ針編みのバッグを作って売り始めた。インスタグラムのストーリーを駆使してファンを増やし、購買につなげた。今年2月のファッションウィーク中には、イーストビレッジのイベントスペースを借り切ってブランド1周年記念イベントを開いた。石井さんのガーリーなバッグが大好きで集まった若い女性ファンは350人。大盛況だった。
そんななか、頑張りが限界を越え、心労も重なって電車に乗れなくなった。大学のカウンセラーセンターに駆け込むと、「ここまで献身的な生徒は見たことがない。皆あなたの将来に希望があるからここまでサポートしようとしている。絶対卒業させてあげる」と言われた。最後の授業料と家賃、生活費を負担するという異例の援助をしてくれることになった。
「道は見つかる」
絶対に卒業すると歯を食いしばれた理由を「今まで色々な人にサポートしてもらえ、ここまで来れたと毎日感じていたから」と話す。「留学は1人でするものではありません。サポートしてくれた人たちに恩返しするためにも、自分の夢をかなえるためにも、何がなんでも卒業しようと頑張れた」
今アメリカにいる人は、とても大変な時期を過ごしているだろうとおもんぱかる石井さん。「もし留学で、つらい思いをしている人がいたら伝えたい。きっと道は見つかり、なんとかなる。努力を見てくれている人は必ずいる。つらくても頑張って続けていたら、絶対にいいことはある」と言い切る。将来の夢は「ブランドを作って、その利益でFITの生徒の4年間の学費を負担すること」という。
留学ためらう人励ましたい
私(杉本)はFITの卒業生で去年まで約20年間、日本FIT会ニューヨーク支部の支部長として、在校生とNYにいる卒業生のネットワーキングの会のまとめ役をしていた。
約10年前、人一倍頑張っている学生が2人いた。1人は在日韓国人だった男性。もう1人は母親が中国人の女性。「ホームシックでつらい」と嘆く日本人学生がひ弱に見え、「韓国系や中国系の人たちの方がハングリー精神旺盛でたくましいということかな」と思ったことがあった。だから、石井さんのような人を見ると非常にうれしいし、希望が感じられる。
円安で留学をためらっている人がいたら、こういう留学生もいると伝えたい。英語を習得し、海外で学んだ人材が増えることは、日本のファッション業界にとって必ずプラスになるからだ。
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