音楽がつなぐ3人の青春を、鮮やかな色彩と音色で描く、長編アニメーション映画『きみの色』。
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これまでに『映画けいおん!』『映画 聲の形』などの話題作を手掛けてきたアニメーション監督・山田尚子による、待望のオリジナル作品となっている。
上海国際映画祭での受賞も記憶に新しい山田監督に、世界が注目する日本のアニメーションの魅力、そして本作に込めた思いについて話をきいた。
無意識で感じるところを大事にしたい
― まず、第26回上海国際映画祭での受賞おめでとうございます。
ありがとうございます。
― 金爵賞アニメーション部門の最優秀作品賞、つまり今年、最も優れたアニメーション作品だと評価されました。現地の会場で発表されるまで、事前に受賞の知らせはなかったんですか?
そうなんです。特に内示がなかったので、すごく気を抜いた状態で着席していました(笑)。
― 改めて、受賞の感想を伺えますか?
うれしいことなんですけど、冷静な部分もあって。賞のありなしは重要じゃないと思っているクールな目線の自分もいつつ、いざいただくとめちゃくちゃうれしい。2つの気持ちがごちゃ混ぜになった感じです。
― 映画祭では『きみの色』も上映されましたが、現地の方の反応はいかがでしたか?
上映後に舞台挨拶をさせてもらったんですけど、ものすごく暖かく、情熱的に迎え入れていただけてびっくりしました。今までやってきた作品のポスターを見せてくれる方もいたりして。
― 中国でも山田監督の仕事をずっとフォローされてきた方がいたんですね。
そう思って感激しました。
― 僕自身はアニメ作品を熱心に観るほうではないですが、それでも本作の予告を観た瞬間に作品の世界に引き込まれるものがありました。なぜ惹かれたのか言語化が難しいんですけど、色合い、動き、音楽、光など、監督の好きなものが濁りなく表現されているように感じたからかもしれません。普段から作品づくりにおいて大切にしていることはなんでしょうか?
私は作品に登場する人たちを、絵だと思っていないところがあって。
― というと?
存在しているような気がしてきちゃうというか。作品を作りながらキャラクターに対して「あなたはどういう人ですか」ということをずっと聞き続けている感じなんです。
だからキャラクターに失礼がないようにしたいということは、ずっと考えている気がします。
― 今回の上海での受賞もそうですが、日本のアニメは世界的にも高く評価されています。
みなさんがどういったところに刺激を受けてくださっているのか。多くはお話のおもしろさとか、キャラクターデザインのキャッチーさとか、かわいさとか、かっこよさに惹きつけられているのかな。
あとアニメーションって、1秒で24コマのフレームなんですね。そのすべてのコマに絵を入れるのはフルアニメーションという手法なんですけど、日本は例外もたくさんありますが大体3コマごとに絵を入れる手法でやっていて。
― 絵のない部分は脳内で補完させるんですね。
それが無意識的にいろんな気持ちよさにつながっているのかもしれないなと思ったり。
― たしかに観る側に委ねられる部分が大きいからこそ、多種多様な人たちが心地よいと感じられるのかもしれません。アニメーションという手法自体の魅力はどう捉えていますか?
つくりものであるという面白さでしょうか。
アニメーションはその違和感を感じなくなる魔法をかけられるんですよね。生ものではない作りものだけが持つ美しさが宿っているような気がしています。
― 『きみの色』ではキャラクターの髪の毛とか指先の跳ねるような動きだったり、机の角がちょっと削れているようなディテールだったり、遅れてくるフォーカスだったり、「こんなところを描き込むんだ」「ここはリアルに表現するんだ」というところが、すごく興味深かったです。
アニメでは、最近とくに細部にこだわる方が増えてきていると思うんですが、私は逆にどこを抜くかを考えている気がします。だからそういうふうに目に残っているものがあればすごくうれしいです。
― 不要な部分を削ぎ落とすことで、ディテールが立ち上がってくるのかもしれませんね。
無意識で感じるところを大事にしたいなと思っていて。たとえば当たり前の動きを、当たり前の速度でやらないところがアニメーションのおもしろさで。それがわざとらしくない、でもリアル過ぎないという絶妙なバランスで、キャラクターデザイン・作画監督の小島崇史さんをはじめとするスタッフさんたちが魔法をかけてくださっているんです。
感想を言葉にできなくてもいい
― 鈴川紗由さんが声を演じた主人公の日暮トツ子は、「人が色で見える」という特殊な能力を持っています。本作を作るとっかかりになったのは、この能力だったのでしょうか?
いえ、「音楽をやりたい」ということが先にありました。それで音を聴かせるためにどうしようかと考えていたら、色というテーマが出てきたんです。
音と光は、物質としてとても密接な関係があります。光を構成しているものが色になって、三次元になると音になる。そういうつながりから発想していきました。
― 本作は山田監督にとって5作目の長編になりますが、新たに挑戦した部分があれば教えてください。
まず、オリジナル作品だということがものすごく大きな挑戦でした。
― 原作のある作品とはなにが異なるのでしょう?
原作があると、原作と二人三脚でやっていけるというか、原作の魅力を発揮するための見せ方を客観的に考えられるんです。でも原作まで自分でやってしまうとなかなか客観視できなくなる部分もあって。スタッフの方々が信じてついてきてくださらなかったら、大変だったと思います。
― スタッフを牽引する役割を原作が担ってくれる部分もあるんですね。
そうなんです。
― 原作がないと、山田監督自身がみんなの拠り所にならないといけなくなる。
インチキくさく見えないようにがんばらないとなと(笑)。
― キャストには俳優が多い印象ですね。
俳優さん、声優さんってところにこだわりはなく、主人公3人に関してはたくさんオーディションをして合う人を選びました。
まず、トツ子のチャーミングさがこの作品を作っていくと思っていたので、トツ子が決まらないと他も決まらないなと。私は最初のオーディションテープで鈴川紗由さんの声に一目惚れしたんですけど、いろんな方のテープを聴くうちに結局いろいろ悩んじゃって。でも初志貫徹で、鈴川さんに決めました。
― トツ子はもちろん、髙石あかりさん演じる作永きみと、木戸大聖さん演じる影平ルイも含めた3人のバランスがすごくよかったです。
本当にぴったりはまりました。
― 実際の3人ともちょっと似ていますよね。
私もそう思います。たまらなくかわいくて、本当に自慢の3人です。
ー 3人が演奏する楽曲はどのようにして作ったんですか?
各キャラクターが考える歌詞と音楽だということをポイントにして、大人が作ったふうにならないように気をつけました。3人が演奏していることに納得できる楽曲を目指しています。
― 青春時代には、だれしも壁にぶつかったり挫折したりすることがありますよね。でも劇中の3人はそれを自分なりに前向きに受け止めて何度も歩き始めているように感じました。彼女たちをどのように成長させるか、意識したことはありますか?
たとえばルイくんだったら音楽の道か医学の道か、どっちに進むかを選んだほうがドラマチックなのかもしれないけど、それってすごくエゴイスティックな気がしてしまって。彼らにはたくさんの選択肢があるということを大切にしたかったんです。
「これでもう終わりだよ」とか、「これをやったらアウト」みたいな考え方ってものすごい呪いだなと思っていて、そういった呪いを解きたかったというか。「こうするにはこうしたほうがいい」とか、人のことを無責任に決めつけないでほしいという、自分なりの怒りを乗せた感じです。
― すごくわかります。本当に正解もないですし、間違えたらまた何度でもやり直せばいい。思い詰めることなんてなにもないですよね。
そう思いたいし、思います。
ー 本作をどんな方に届けたいですか?
欲を言えば本当にいろんな方に観ていただきたいです。これから高校生になる人にも、いま高校生の人にも、昔高校生だった人にも。そして感想を言葉にできなくてもいいのかなと。よくわからないけど心地よかったと、そういう作品が1個ぐらいあってもいいのではないでしょうか、という気持ちです。
― 心で感じればいいと。
体験しに行く映画ですね。
― 僕自身、なぜこの作品に惹かれたのか言語化できないのも間違いじゃないなと思えました。
それもひとつの感じ方だと思います。すごくありがたい話です。
― 最後に、山田監督の今後の目標やビジョンについてお聞かせください。
私は人の手でものを作るのが好きなので、アニメーションという技法はずっと続けたいです。これからも人の手を使って描かれた、人の作りたいという熱がこもった作品を作っていきたいなと思っています。
― なにかを成し得たいというより、手を動かして作り続けていきたい。
そういう気持ちが一番大きいですね。
Profile _ 山田尚子(やまだ・なおこ)
2009年テレビアニメ「けいおん!」で監督デビュー。数々の社会現象を巻き起こす大ヒットを記録し、2011 年『映画けいおん!』にて長編映画初監督を務める。「たまこまーけっと」『映画 聲の形』などの話題作で躍進を続け、2022年TVシリーズ『平家物語』、2024年8月30日配信開始のショートフィルム「Garden of Remembrance」を監督。完全オリジナル劇場長篇最新作『きみの色』では、第26回上海国際映画祭金爵賞アニメーション最優秀作品賞を受賞。何気ない日常描写を瑞々しく描く映像センスと、繊細な映像演出で、現在のアニメーション界において日本のみならず世界で最も高く評価されている監督のひとり。
Information
映画『きみの色』
2024年8月30日(金)より、全国東宝系公開
監督:山田尚子
声の出演:鈴川紗由 髙石あかり 木戸大聖 / やす子 悠木碧 寿美菜子 / 戸田恵子 / 新垣結衣
音楽・音楽監督:牛尾憲輔
主題歌:Mr.Children「in the pocket」(TOY’S FACTORY)
キャラクターデザイン・作画監督:小島崇史
キャラクターデザイン原案:ダイスケリチャード
制作・プロデュース:サイエンス SARU
配給:東宝
映画『きみの色』公式サイト
©2024「きみの色」製作委員会
Photography : Eiji Taguchi
Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI)
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