19歳にして監督した映画『あみこ』でその名を世に知らしめた山中瑶子監督のもとに、これからの日本映画界を担っていく俳優が集結した映画『ナミビアの砂漠』。
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河合優実演じる主人公の恋人・ハヤシを演じた金子大地に、本作への取り組みをはじめ、俳優業への思い、最近の趣味まで幅広く話をきいた。
いいものができるという確信がみんなにあった
― 映画『ナミビアの砂漠』、素晴らしかったです。観ていて引き込まれましたし、観終わってからも思い返してしまう余韻のある映画でした。
観る人によって捉え方も違って、感想を言葉にしづらい作品ですよね。僕自身、「どういう映画?」と聞かれてもうまく答えられないです。
― これからご覧になる方に、どういうふうにおすすめしましょうか?
間違いなくいえるのは、ものづくりに対する熱量がすさまじい作品だということ。山中監督をはじめ、スタッフもキャストも若手中心で作り上げたエネルギーが、観ている人にもどんどん届いて伝染していけばいいなと思います。
― 山中監督は同い年?
僕と寛一郎と監督が同い年で。河合さんは4つ下なんですよ。でもめちゃくちゃ大人。
― 一番しっかりしてたりして。
間違いないです。お姉ちゃんみたいな感じ。
― 河合さんは今年かなりブレイクしましたね。
本作の撮影中に「この作品が終わったらドラマやるんです」「俺もドラマなんだよね」みたいな話をしていて、撮影が終わったら「不適切にもほどがある!」で一気にドーンと。今年はもう河合さんの年になりましたね。
― 河合さんとの共演は、2021年の『サマーフィルムにのって』以来ですか?
そうですね。でも同じシーンは少なかったので、大進化した彼女に会えてうれしかったです。
― 当時から周りと違う雰囲気がありましたよね。
吸引力があって、見ちゃいますよね。絶対にすぐ気づかれるんだろうなとは思っていました。
― 河合さんのブレイクに加え、先日の第77回カンヌ国際映画祭では国際映画批評家連盟賞を受賞するなど、本作にかなり追い風が吹いています。
僕もその風に一緒に乗っていけるとうれしいです(笑)。
― 山中監督からはどんな演出が?
山中監督はあまり指示をせず、自由にさせてくれる方でした。「本当にこれでいいのかな」「何がダメで、何がOKなのかわからない」という不安もずっとあったんですけど、それもおもしろかったです。
河合さんとも「このシーンをどう作り上げていくか」という会話はあんまりしてなくて。「本番よーいスタート」の瞬間にお互いが何をしてくるのか、どう受けるのかということを楽しんでいました。
― まさか2人があんなにぶつかり合うことになるとは……。どうやって撮ったんだろうなと。
ちゃんとアクション部を入れて。
― 殺陣なんですか?
殺陣なんですよ。どう生っぽくするかというところは大変でした。
― すごくリアルでした。全編を通して、肉体的にも心理的にもハードな撮影だったのでは?
撮影自体はすごく楽しくて。山中監督が撮る映画だし、いいものができるという確信はみんなにあったと思います。ただ、ハヤシを演じているときには、(河合優実さん演じる恋人の)カナに対するイライラをずっと抱えていましたね。
カナと同棲することで彼女の本質がどんどん見えてきて、それにハヤシが振り回されるうちに立場が逆転していく。それに対して、ハヤシはハヤシでちょっと抗おうとしている部分もあるんです。わざと相手が欲しい言葉を言わなかったり、ちょっと苛つかせるような返事の仕方をしてみたり。
― 2人の関係は危うくも続いていきますが、ハヤシにとってカナはどういう存在だったと思いますか?
カナと違ってハヤシには脚本家になるという夢があって、だからこそ支えとなるものを簡単に手放すことができなかったんじゃないかなと。
― それはカナの存在が、ハヤシの創作の支えになっていた部分もあった?
それもありますし、ハヤシは自分の身に起こったこと全部を脚本に落とし込むような人なんじゃないか……とか。2人の喧嘩も、実はじゃれているだけのような気もしていて。
― たしかにハヤシが本気を出せば、カナを抑え込めるんじゃないかなという感じはありました。羽交い締めにせず、カナのフラストレーションを発散させているような。
そうなんですよね。
背伸びしないようにお芝居をしたい
― カナの「映画なんか観て何になるんだよ」というセリフが印象に残りました。金子さんは、映画はけっこう観ますか?
映画は観ますよ。あのセリフって絶対引っかかるじゃないですか。でもどう解釈するのか監督に聞いても、きっと答えは教えてくれないでしょうね。
― 金子さんにとっての映画の原体験を教えてください。
小学生のときに『ロードオブ・ザ・リング』を観て、完全に映画の世界観に入り込んで、エンドロールで演者の名前が出たときに「だれかが演じているんだ」ということに衝撃を受けたんです。全部が作り物なんだというのを感じたときに、すごく尊いというか、俳優ってかっこいい職業だなと思ったんですよね。
ー たしかに、エンドロールって壮大なネタバレですよね。たとえばテーマパークだと、キャラクターの中に誰が入っているかなんてトップシークレットのはずですから。
『ロードオブ・ザ・リング』のドキュメンタリーで、撮影の裏話を淡々と話されるのを観て、小学生ながらに「えー」って悲しい気持ちになった記憶が(笑)。でも今では、それも映画づくりのかっこいいところだなと思っています。
その影響もあって、僕はリアリズムを追求する映画よりも、リアリティの中にもちょっとした非現実性のある映画が好きですね。
― 『ナミビアの砂漠』も日常的な生活を描いていますが、どこか映画的というか、非現実的な描写や設定も少なくないですよね。とくに好きなシーンはありますか?
好きなシーンはいっぱいあるんですけど、最後のシーンは思い入れがあります。カナはどう思っていたのかわかんないですけど、僕はやっぱりカナと一緒に生活していきたいって思いながら演じていた気がして。2人ならこの状況を乗り越えられるんじゃないかなと。
― 少なくとも明日はまたこうやって2人は生きていくんだろうなと、未来につながる余韻のあるすごくいい終わり方だったと感じました。
観る人によっても捉え方は違って正解はないですけど、僕はその曖昧な2人の距離感がすごく好きですね。
― 本作を観ていると、2021年に金子さんが出演した映画『猿楽町で会いましょう』を思い出しました。金子さんは、両作とも恋人に翻弄される役どころで。他にもどこか憎めない、純粋な部分を持っている役が多い気がするんですけど、お芝居する際に意識していることはありますか?
持って生まれた性格だったり、育ってきた環境だったり、自分はこういう人間だというところにしか本質は見えないと思っていて。だからいつも、背伸びしないようにお芝居をしようと思っています。背伸びしたって自分の悪い部分って絶対映像でバレるんで。
― それでこそ、金子大地がその役を演じる意味が生まれてきそうです。
僕は18歳からずっと俳優の仕事しかしていないから、社会人としては1年目のままのような気がしていて。同じ28歳だともっとしっかりした人が多いので、僕も年相応に成長していかないとそういう役を演じられないですよね。
― 2014年のデビューから今年で10年になりますが、まだ年齢を気にすることはないのでは?
気にしますよ、「もう28か」って。自分が東京に来たときは18歳だったので、その頃に28歳といったらもっと大人なイメージがありましたけど。
― 金子さんが思い描く、かっこいい大人像は?
ぶれない芯があって、大人の余裕とユーモアを兼ね備えた人はかっこいいなと思います。自分はまだのんびりやっている気もするから、もっとどんどんガツガツしていきたいですね。
人の心に届く何かを残せる俳優になりたい
― ファッションについてもお聞かせください。QUIではファッションシューティングも行わせていただきましたが、普段はどんな服装を?
シンプルな服装が好きですね。ジーンズにTシャツぐらいの格好のほうがかっこいいなって思います。
― 今はジーンズもTシャツも、古着ではかなり高騰していますが、そういったものには興味はないですか?
YouTubeで観て、「ジーンズがこんなに高いの」って驚きました。でもそういう高くていいものをずっと着続けたいという憧れはあります。
― 古着はバブルみたいになっていますけど、数が限られているのでいずれはさらに高くなっちゃうらしいですね。ぜひ大物いってください。
仕事頑張ります(笑)。
― 周りでおしゃれだなって友達はいますか?
いないんですよね。おしゃれな人っておしゃれな人と仲良いじゃないですか。僕もそっちに入りたいんですけど、周りはファストファッションみたいな友人が多いです。
― この秋冬でチャレンジしてみたい服装は?
黒い服ばっかり持っていて、結局同じ服ばっかり着ている気がするので、色が入った服もどんどん着ていきたいなと。QUIの撮影でも青い服を着させていただいたんですけど、それぐらい派手な色も取り入れたいですね。
― ちなみにファッション以外だと趣味は?
釣りとサウナですね。釣りはここ1、2年ぐらいはまっています。
― 海釣りですか?
海です。川は上級者のイメージがあって。
― 釣った魚を食べる?
自分でさばいて食べますよ。ヒラメも捌けるようになりました。
― かっこいい。
YouTubeで見ながら練習して。もっと切れる包丁が欲しいなと思います。あとは野球も最近はまって、日ハムを応援しています。
― 草野球も?
やりたいんですけど人数がね。友達と公園でキャッチボールをするぐらいです。
― では最後に、これから先も俳優業に邁進していくうえで、展望やビジョンをお聞かせください。
時代がどんどん変わっていく中で、いい作品を作り続けることはすごく難しいことですよね。芝居だけやっていても広がらない世の中だから、SNSをはじめ、いろんなコンテンツでもっと影響力を持つ俳優になる必要があると思う一方で、ぶれないでいたいという気持ちもあって。
僕が『ロードオブ・ザ・リング』に魅せられたように、作品を観てくれる人に夢を見せるためにも、僕はやっぱり芝居だけで戦いたいところが正直あるんです。まずは一つひとつの作品で人の心に届く何かを残せる俳優になりたいなとは思いますね。
Profile _ 金子大地(かねこ・だいち)
1996年生まれ、北海道出身。「アミューズオーディションフェス2014」にて俳優・モデル部門を受賞しデビュー。以降、映画・ドラマ・CMに多数出演。2018年には、ドラマ「おっさんずラブ」(EX)で人気沸騰。2019年、ドラマ「腐女子、うっかりゲイに告る。」(NHK)で初主演を果たし、一躍脚光を浴びる。主な出演作に、『逆光の頃』(17)、『ナラタージュ』(17)、『家族のはなし』(18)、『殺さない彼と死なない彼女』(19)、『猿楽町で会いましょう』(20)、『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(21)、河合優実との初共演を果たした『サマーフィルムにのって』(21)、『手』(22)などがある。近年の出演作は、映画では『モダンかアナーキー』(23)、『Winny』(23)、『52ヘルツのクジラたち』(24)、ドラマではNetflixの「サンクチュアリ -聖域-」(23)など。
Information
映画『ナミビアの砂漠』
2024年9月6日(金)より全国ロードショー
脚本・監督:山中瑶子
出演:河合優実、金子大地、寛一郎、新谷ゆづみ、中島歩、唐田えりか、渋谷采郁、澁谷麻美、倉田萌衣、伊島空、堀部圭亮、渡辺真起子
© 2024『ナミビアの砂漠』製作委員会
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