メゾン マルジェラ 2024年アーティザナルコレクション
Image by: Maison Margiela
パリで開催されたオートクチュール・ファッションウィークのトリを務めた「メゾン マルジェラ(Maison Margiela)」。クリエイティブ・ディレクターのジョン・ガリアーノ(John Galliano)が作り出すファンタジックな世界観が話題を呼んだ。時は満月の夜。舞台はアレクサンドル3世橋のたもと。夜遊びに興じるパリの人々が描かれた。
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エモーショナルな夜の世界
今回は単なるランウェイショーでなく、フィジカルおよびデジタルの観客に向け、同時に撮影・編集・配信するというマルチな演出方法で披露された。1920年代のブラッスリーを再現した会場は、割れた皿や酒瓶が転がる退廃的なムードで、まるで映画のセットのよう。そこに、ウエストを絞るシンチャーを身につけたラッキー・ラブ(Lucky Love)が上半身のタトゥーも露わに登場し、「Now I don’t need your love」を歌い上げた。彼は“フレディ・マーキュリー(Freddie Mercury)の再来”とも言われるフランスのシンガー。生まれつき片腕がなく、男らしさの既成概念に捉われない新たなアイコンとして注目されている。
続いて「さあ、オフラインにして、一緒に歩いてみませんか?」というナレーションが入り、フィルム・ノワール風の映像が壁面に映し出された。満月の夜、ジュエリーを盗み走り去る男や、妖しくタンゴを踊る男女——パリで活躍した写真家・ブラッサイ(Brassai)の覗き見るようなポートレートさながらの、危険な香りのする世界観が繰り広げられる。途中で画面がカラーへと切り替わり、映像の中から飛び出してきたかのようにモデルたちが次々とブラッスリーへと現れ、現実世界へとリンクしていく。ファーストルックを飾ったのは、メゾンショーでこれまでも存在感を放ってきたモデルのレオン・デイム(Leon Dame)だ。
演劇的な没入型プレゼンテーション
モデルたちは寒さで凍えるように前屈みで歩いたり、古いビリヤード台に腰掛けたりと、ドラマの一部のように役を演じていく。長年ガリアーノを支えるムーブメントディレクターのパット・ボグスラウスキー(Pat Boguslawski)が監修した振り付けが、それぞれのルックが持つ感情を最大限に引き出していた。各ルックには人々の「無意識のジェスチャー」が込められており、オートクチュールの技術を通して「装いという儀式を考えるための枠組み」となっている。雨から身を守るジェスチャーをそのまま形にしたジャケットなど、人間の動きと形がそのままリンクするものもあった。
コルセットやシンチャーといった補正具が砂時計のようなシルエットを生み出し、オーガンザのドレスがモデルたちの胸元(時にマーキン=フェイクアンダーヘアも!)を露わにする。ヒップを大きく膨らませた古典的なフォルムは、100年の時の流れを飛び越える。また、雨に濡れたようなシリコン加工や、雨粒を表現したクリスタルの装飾などもドラマチック。生地が下から上へと劣化していく様を写し出したレトログレーディング(Retrograding)の技法も、年代物のドレスのような繊細な美を演出する。日に焼け、タバコや油で汚れたかと見まごう加工も施され、見過ごされがちな個性や出来事を衣服に投影した。
トランスペアレントのドレスは、オランダ/フランス人画家キース・ヴァン・ドンゲン(Kees van Dongen)のフォービズムから着想を得たもので、力使くも幻想的な色使いが目を引く。
クリスチャン ルブタンとのコラボ
足元を飾ったのは、クリスチャン ルブタン(Christian Louboutin)と共同で制作されたレッドソールのタビシューズ。多様な素材を取り入れ、パンプスやニーハイブーツ、ダービーシューズなど7型が登場した。また、古びたストッキングの間に忍び込ませたパールのネックレスや腕時計といったディテールにもストーリー性を感じさせる。
シュールレアリストとしてのガリアーノ
ラストを締め括ったのはイギリスの女優、グェンドリン・クリスティー(Gwendoline Christie)。「ゲーム・オブ・スローンズ」のブライエニー役で知られる彼女が、ミルキーホワイトのラテックスドレスとストライプのコルセットを着用し、人形のようなコケティッシュなキャラクターを演じた。艶めくドール肌のメイクアップは世界的アーティストのパット・マグラス(Dame Pat McGtath)によるもので、この非現実的な美しさも一夜にしてSNS上で大きな話題となった。
パットは後日のインスタライブで、エアブラシマシンとフェイスマスク調合液を使って陶器のような肌を作り出したと明かした。モデルの顔に吹きかけ、ドライヤーでコーティングした皮膜は、薄いマスクのように引っ張って剥がすことができる。細いアーチ型の眉や輪郭をぼやかしたリップなども、シュールなクチュールルックを完成させる重要な要素となった。
30分にわたり繰り広げられた今回のスペクタクルは、90年代~2000年初頭のランウェイを彷彿とさせるガリアーノらしい試み。優れたクチュリエであり、ストーリーテラーである彼にしか表現できないビジュアルポエトリーとなっていた。一過性のブームやトレンドでは終わらせない独特の世界観は、メゾンをまた別のレベルへと引き上げたと言えるだろう。心を揺さぶられた観客からは拍手が鳴り止まず、「ブラボー」の声が何度も上がる。だが、どれだけ求められても舞台に姿を表さなかったガリアーノ。そこはメゾンのハウスコードを守り、観客の脳裏にファンタジーを焼き付けたまま幕を閉じた。
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