VALENTINO 2019SS オートクチュール コレクション
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VALENTINO 2019SS オートクチュール コレクション
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(文:横井由利)

 1月下旬に「PRINTEMPS/ETE2019」のオートクチュールコレクションが開催された。オートクチュールは、60年代後半以降トレンド発信の役割をプレタポルテに手渡した。その後のオートクチュールは、メゾンのテイストを好む富裕層の女性のために存在し、トレンドとは一線を画し、顧客とよりインティメ ートな関係を築いている。

 元来オートクチュールは、メゾンをご贔屓にする富裕層の女性のワードローブに新味を与えるコレクションをシーズンごとに発表している。50年代以降オートクチュールは男性デザイナーの領域となり、理想的な女性像とその女性がメゾンの服を着たときに紡ぎ出すファンタジーを追求してきた。ところが近年、「ディオール(DIOR)」と「ジバンシィ(GIVENCHY)」が女性クリエイティブディレクターを起用すると、女性の皮膚感覚に訴えるリアリティとファンタジックなドレスが共存するようになった。そこが、現代のエグゼクティブな女性のタイムスケジュールに即した服選びと深く関係が関係しているのではないかと思う。つまりリアリティとファンタジーの狭間にオートクチュールが存在するようになってきたのだ。ただリアルクローズの代表とも言えるジーンズとスニーカーはプレタポルテの領域に存在しているのだが。

 「ヴァレンティノ(VALENTINO)」の2019年春夏オートクチュールは、こうしたオートクチュールの流れに逆らうように、女性たちをファンタジーの世界に誘った。19世紀末に建てられた壮麗なオテル・ソロモン・ド・ロスチャイルドの部屋と回廊には、春の花ばながゴージャスに活けられ、コレクションのテーマを暗示した。クリエイティブディレクターのピエールパオロ・ ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)は、この館で度々コレクションを開いているのは、クラシカルな女性の美徳を優雅に表現するヴァレンティノのスタイルに共通するものを見出しているからだろう。

 ファーストルックは、ピンクオレンジのバラを模したフード付きのドレスからスタートした。デイウェアから始まりイブニング、ソワレと続くのだが、最初にコレクションのテーマの答えを示したのだ。

 65ルック中3分の2を占めるおよそ40ルックがタフタ、オーガンジー、シフォン、マラボー、レース、フリル、刺繍が施されたドレスを纏ったモデルが、優雅な裾さばきでランウエイを通り過ぎた。クラシックな薔薇や牡丹や椿の花ばなのプリントがオーガンジーやシフォンを彩り、トランスペアレントのドレスには、花柄の全身タイツをコーディネートし一分の隙さえ与えない完璧な仕上がりに、忘れかけていたオートクチュールの存在理由を思い出させてくれた。今回のオートクチュールコレクションは女性たちが忘れかけていた夢の世界を思い出させた。世界中のセレブは、レッドカーペットを歩くときのイマジネーションを大きく膨らませたに違いない。

 ピッチョーリのもう一つのチャレンジは、1948年にセシル・ビートン(Cecil Beaton)が撮ったサロンでくつろぐ女性達の写真がもし黒人女性ばかりだとしたらという命題にあった。黒人のムーニアをミューズにしたイヴ・サンローラン(Yves Saint-Laurent)、グレイス・ジョーンズ(Grace Jones)にボディスーツを提供した「アライア(ALAIA)」、黒人女性の肌の色とカモシカのような美しい肢体にインスパイアされ、賛美するように彼女にしか着こなせないドレスを製作したデザイナーは存在した。ピッチョーリもまた黒人女性に魅了された一人だ。コレクションの色彩をより鮮やかに表現するには黒人モデルを必要とし、モデルの半数以上が黒人女性にすることで、人種の多様性の時代を軽やかに飛び越えてみせた。



横井由利
跡見学園女子大学マネジメント学部生活環境マネジメント学科准教授。明治学院大学社会学部卒業後、イヴ・サンローラン リヴゴーシュ西武入社。1984年より「マリ・クレール」日本版のフリーランス・ファッションエディターから、「エル・ジャポン」エディターを経て、1990年「GQ」創刊のため中央公論社に入社。後に、2000年より「ハーパーズ バザー」のモード副編集長を務める。退職後フリーランス・ファッションエディターとなり、2015年4月より現職。

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