エミリー・アダムス・ボーディ・アウジュラ(Emily Adams Bode Aujla)
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「ナイキ(NIKE)」と、NY発のラグジュアリーブランド「ボーディ(BODE)」の新ライン「ボーディ レク(Bode Rec.)」によるコラボレーションコレクションが、5月24日から26日まで開催された「Bode Rec. Nike Clubhouse」で発売された。それを機にデザイナーのエミリー・アダムス・ボーディ・アウジュラ(Emily Adams Bode Aujla)が日本に初来日し、5月22日にBode Rec. Nike Clubhouseの会場であるUNKNOWN Harajukuでイベントを開催。会場は、夫でインテリアデザイナーのアーロン・アウジュラ(Aaron Aujla)がキュレーションしたインドの家具等に包まれ、コラボアイテムの展示のほか、ファッションキュレーターの小木“Poggy”基史を招いたトークショーなども行った。
FASHIONSNAPでは、エミリーとのインタビューを実施。デザイナーがナイキの歴史に馳せる思い、ボーディの哲学、日本の文化への価値観などを聞いた。
ボーディ レク(Bode Rec.)
2024年秋冬シーズンからスタートするボーディの新ライン「ボーディ レクリエーション(Bode Recreation)」。
ボーディ流に解釈した「ジムバッグに入っているような服」を展開する。
ナイキとのコラボコレクションに投影する家族の歴史
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⎯⎯ 今回のナイキとのコラボコレクションについて教えてください。
コレクションの話は数年前に始まりました。私自身ナイキが持つ歴史やその原点にとても惹かれており、「シュードッグ(SHOE DOG)」(ナイキ共同創業者 フィル・ナイトの自伝)も読んでいたので、ナイキのストーリーをベースにしたコレクションにしたいと思いました。あとは、ナイキはボーディと同じアメリカ発のブランドということもあってコラボすることにとても興味があったので、そのことも併せて色々な思いや感情から始まったコレクションだと思います。
⎯⎯ アイテムの特徴はなんでしょう?
このコレクションを包括しているものとして、1750年代にニューヨークの港でボートレースを行っていた「マンハッタン」と「ケープコッド」という2つのボートレースチームの存在があります。今回のアイテムデザインのほとんどがそのチームに由来しており、マンハッタンのブラック&クリームと、ケープコッドのブルー&クリームから着想したカラーリングのアイテムを製作しました。
あとは、「ジムバッグに入っているような服」というボーディ レクのテーマも今回のコレクションイメージの一つです。いくつかのアイテムにはスポーツの歴史に焦点を当てたディテールを施しており、女性の競技出場が認められた1920年代のアイテムを参考にしたビーズの装飾技法なども取り入れました。
NIKE BODE REC. MESH JERSEY
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⎯⎯ ケープコッドの話がありましたが、ボーディの2023年秋冬コレクションではショー会場にケープコッドの家が登場しました。
子どものころは、夏によく家族でケープコッドに行きました。私の母は幼少期時代、家族がケープコッドに家を持っていたらしく、2023年秋冬コレクションではその家を再現しました。実は、母は若い時に自身の父親を亡くしているのですが、彼との思い出が残るケープコッドの家に住み続けることはとても悲しく、私の祖母はその家を手放してしまって。それが母にとってのケープコッドの思い出なんです。このようなことも含めて、このコラボコレクションでも私の家族の歴史についても触れたいと思っていました。
⎯⎯ コレクションのインスピレーション源の一つには、高校生時代にアメリカンフットボールの選手だったお父様の存在もあるそうですね。
そうです。ナイキの起源がインスピレーションの一つとして元々あって、そこに私の家族にまつわる逸話も加えたいと思いました。父は高校時代にアメフトの選手で、1971年に高校を卒業しました。その年は、ナイキがフットボールシューズの製造を任された年でもあり、人工芝に対応するフットボールシューズがまだなかった時代に、ナイキは「アストロターフ」という人工芝対応のソールを開発しました。シューズは、その後黒や緑などいくつかのバリエーションが製作されましたが、今回のコレクションで復刻した黒のモデルは最初に発売されました。
⎯⎯ 今回のコラボシューズのベースに「ナイキ アストログラバー」を選んだ背景は?
私の父が高校でアメフトをプレーしていたことと、このシューズがナイキにとってどれほど重要であったかという2つが決め手にあります。ビル・バウワーマン(Bill Bowerman、ナイキ共同創業者)は陸上競技用のシューズを作り続けていて、その過程の中でワッフルメーカーのような見た目のソールを開発し、そのソールは結果的に「ワッフルソール」としてナイキ アストログラバーに組み込まれました。父がアメフトをプレーしていたことやビル・バウワーマンがソールを開発したことなど、これらの出来事は全て同じ時期に起きており、そのことを興味深く感じました。 加えて、このような靴は年を重ねるごとによくなるし、時代を超越したシルエットだと思い、アストログラバーを選びました。
また、ジェフ・ジョンソン(Jeff Johnson、ナイキ最初の社員)が私にナイキの歴史について初めて話してくれたとき、このシューズが「スポーツ・イラストレイテッド」誌の表紙を飾るなど、ナイキのブランドにとっていかに重要であったかを語っていたことも理由の一つです。
NIKE ASTROGRABBER
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⎯⎯ ナイキはエミリーさんにとってどのようなブランドですか?
好きなことに対する情熱から生まれたブランドだと思っています。私は自分が作った服のための市場を見出し、フィル・ナイト(Philip Knight)はそれまでなかった市場をナイキで確立したという部分が似ているなと思いました。単純にフィル・ナイトの考え方が好きです。
⎯⎯ 今回はスポーツブランドとのコラボですが、アイテム製作で意識したことを教えてください。
丈夫な服を作ろうと意識しました。レクリエーション用に作られたウェアであることが重要で、ランニング用のショートパンツがあるのですが、裏地などランニングパンツとして必要な要素が全部ついています。一方で、実用的なものを作りながら、ジャージーに配した小さなネクタイなどのように手作業の要素も取り入れました。このコレクションには、その両方が含まれていることが重要でした。あとは、ボーディ レクをローンチすることでお客様のワードローブにあるような服を作りたいと思っていました。
NIKE BODE REC. SCRIMMAGE PINNY
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ボーディにトレンドは無縁なもの
⎯⎯ 次に、ボーディやエミリーさんについて聞いていきたいと思います。普段ボーディでコレクションを製作する際は、世界で集めたアンティークやヴィンテージの生地や柄、プリントなどから着想し、コレクションを作ることもあるのでしょうか?
私のスタジオには世界中で収集したかなりの量のヴィンテージやアンティークアイテムがあり、それをコレクションでも使えるように保存しています。一方で、コレクションのストーリーやコンセプトを作り上げ、それに向けて調達することもあります。調達することはすごく好きなことなんです。
⎯⎯ 一番気に入ってるヴィンテージまたはアンティークアイテムは?
私の家族に付随するものは特に気に入っています。最近では、私の祖先が使っていた1860年代のハンカチを額に入れてプレゼントしてもらいました。
⎯⎯ 前回インタビューした際に、女性であるエミリーさんにとって「メンズウェアは私の“外”にあるもの」とおっしゃっていました。メンズウェアを作り続けて約10年になりますが、その考えは今も変わっていませんか?
メンズウェアには前回お話ししたような特定の哲学がありました。それは今も変わっていません。一方で、1年半前にウィメンズウェアをローンチしたのですが、それは、そのメンズウェアの哲学をそのまま当てはめない、別の哲学を持ったウェアとしてローンチしました。また、ウィメンズをスタートさせたときは、アイテムごとではなくコレクションで展開しました。ランジェリーやナイトウェアなどのイブニングアイテムから、下着のようなものまでを製作し、女性のワードローブを完成させました。逆に、メンズは最初は数枚のシャツやショーツ、パンツを発表し、その後何年もかけてワードローブを作り上げていったので、そこもウィメンズとメンズの違いですね。
⎯⎯ ボーディでコレクションを作る上で、トレンドはどのように関わってきているのでしょうか?
ボーディにとってトレンドは無縁なものだと思います。一方で、ボーディのコレクションで発表した特定の衣装やテーマがその後トレンドになったことはありますね。しかし、トレンドを追うようなマインドでデザインをすれば、そのデザインは確実に遅れたものになると思います。ブランド設立時は、色々なプリントや柄、キルト、アップリケなどを使っていたから今よりももっと遊び心に溢れていたと思います。でもそれから8年が経って、今はもう少し大きな規模感で製作しているので、コレクションの顔は特定のプリントや柄ではなくなりました。でも結局は、トレンドに流されるのではなく、自分が文化のどの場所に今いるのかを知ることが重要だと考えています。
⎯⎯ ブランドは「エモーショナル」や「ノスタルジック」と評されることが多いですが、ボーディのどのような部分がそうさせていると思いますか?
ただ何かから何かを作るということと、その背後に意図があり、自分という人間を定義するような作り方をするというのは別のことです。ただケーキを作れる人が作るケーキと、ケーキを作ることに全精力を注いでいる人が作るケーキでは、味も見た目も見た時の感じ方も変わってくるということです。作るということの背景にある意図がどこから来ているのかが重要なんです。洋服を作ることや何かを作るという哲学は、私という人間にとってとても自然なことなんです。私が服を作る方法とその背景には、単に服を作ることができるから服を作るということよりも、私が作る洋服は家族の歴史などの私のドメスティックな部分からインスパイアを受けているように、もっと哲学的な要素がたくさん含まれています。
⎯⎯ エミリーさんはボーディで伝統や文化を守ることをテーマに活動されていますが、これは日本の伝統を継承する文化と近いものを感じました。
日本にとって伝統や文化を継承するという価値観は生き方そのものですよね。大学時代には谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」を読みました。今でも私にとって大切な一冊で、そこに書かれているような“過去に目を向ける”という考え方は、私たちが今いる空間にも目を向けつつ、物事がどのように行われてきたかを考え、革新のためだけに革新的になるのではなく、物事の修理や風化、歴史や物事の仕組みを楽しむということだと思います。
ブランドとしてのゴールは、ボーディを知ってくれた人に、家族と会話をしたり色々なことを自分で調査したり、自分の歴史を遡ってもらうことで、文化や伝統を守る、保存するということを実践してもらうことです。そして、ボーディで昔の工芸技術が使用された衣服などを展開すれば、その服はいつの時代のものでその時代はどのような時代だったのか、どのような文化や社会に由来する技術なのかなど、その衣服が誰かにその服について知りたいと思わせるきっかけになれると思っています。
⎯⎯ 最後に、今回のコラボコレクションはボーディにどのような影響をもたらすでしょうか? また、ブランド設立から10年を迎えようとしていますが、今後のヴィジョンを聞かせてください。
今回はこれまでにボーディのアイテムを購入したことがある人だけではなく、まだボーディの服を持っていない人からも注目されているコレクションなので、多くの人にボーディというブランドを知ってもらえると思います。特に、ボーディ レクのコレクションに光が当たり、それはブランドをさらに成長させてくれると期待しています。
またブランドとしては、今一番大きなことはグローバルに展開することです。 日本では卸先での販売や他ブランドとのパートナーシップなどで知られているかもしれませんが、私たちにとっての次のステップは、世界のさまざまな場所で自分たちの店を開くことです。日本では、東京に旗艦店をオープンしたいと考えています。
エミリー・アダムス・ボーディ・アウジュラ
米ジョージア州アトランタ出身。パーソンズ美術大学でメンズウェア、Eugene Lang Collegeで哲学を学ぶ。自身の名を冠したメンズウェアブランド「ボーディ(BODE)」は2016年にデビュー。2019年にLVMHプライズのファイナリストに選出され、2020年インターナショナル・ウールマーク・プライズでカール・ラガーフェルド・アワードを受賞した。
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