SOSHIOTSUKI 2024AW Collection
Image by: FASHIONSNAP
古くから存在する日本固有の宗教である神道。教祖や経典が存在しない地上の森羅万象に神が宿るという考え方がベースにあり、死生観は「輪廻転生」の仏教や「復活」と考えるキリスト教と異なり、人は亡くなると子どもや孫など家庭を守る氏神になるとされている。死後「家」を守る神になるというこの死生観は武士道へも引き継がれ、国家のためにと集団性を強く発揮してしまった日本の伝統精神の一つであるように思うが、「ソウシオオツキ(SOSHIOTSUKI)」のデザイナー大月壮士は父親が脳梗塞で倒れたことを機に、「品」と「死生観」について考え始め、2024年秋冬コレクションの製作をスタートしたという。
今や東京を代表するメンズブランドの一つになった同ブランドが、デビューの2015年から一貫して「日本人の精神性」を題材にしてきたことは言うまでもないが、2013年に発表した「FINAL HOMME」では、電車を待つサラリーマンの列に父親の面影を重ね、自堕落な父親のDNAと訣別する、ある種“父親殺し”ともいえるコレクションを製作。7年ぶりにフィジカルショーを開催した2023年秋冬コレクションでは、「FINAL HOMME2」と題して踏襲し話題をさらった。そんな中で突如訪れた、父の死の影。「父はだらしがなく、母にはあんたはお父さんにそっくりとよく言われていた」と大月が語るように、大月家での父親の立場は弱く、それ故、過去のコレクションに反映させるまでの父に対する嫌悪もあったのだろう。父と息子の確執を描いた文学、映画作品を挙げようとすれば枚挙に遑がないが、筆者も父親に対する同族嫌悪と侮蔑も持っていた人間であったこともあり、大月の、父の死を前にしても関係性を変えることができないどうしようもなさはとても理解できる。反抗期を未だ拗らせたような息子と死を意識した父のコミュニケーションは、家族のグループLINEでも行われることはなかったという。そんな"死"よりも"粋"を優先してしまう不器用な息子は、リサーチを続けていた神道に想いを馳せ、"神頼み"という感覚を強く持つようになった。「冥土の土産」と訳される「good memory」を2024年秋冬コレクションのタイトルに掲げた背景には、どう接していいのかわからないぶっきらぼうな息子のパーソナルでエモーショナルな父への想いがあった。
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ショー会場の席に置かれた「水清」と書かれた一枚のおしぼりは、手水舎のことなのだろう、観覧者(参拝者)の身と心を清めてこれから行われる"神道の祭式"への準備を促す。ピアノと心音を重ねたようなター(TAAR)による楽曲が流れるとともに始まったファッションショーは、神道のディテールを服に入れ込み、神がかったオーラを持たせんとする意図が随所に見られた。祭祀の格衣から着想を得たであろうステンカラーコートは艶感ある尾州産のウール地で上質に仕上げ、祭礼などの際に用いられる幕にある幕房(揚巻房)をあしらった3つボタンジャケットなどはその最たるものとして和の要素を強めていく。また、前回「ディオール オム(DIOR HOMME)」にインスパイアされたというモデルを早く歩かせる演出は今シーズンも健在で、今回はその効果作用が最大限活かされるドレープテクニックが際立った。大月が持つパターンメイキングのノウハウがあってこそなせる技であろうが、ケープのようなポンチョや着物袖のパターン、滑らかなテキスタイルだからできるコートの落ち感と、いずれも玄人好みの静謐な佇まいがコレクションに奥行きを生み出している。
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コレクション全体としての強度を高めたもう一つの視点はレイヤード。ショールカラーの羽織にテーラードジャケット、ステンカラーコートを重ねたものや、タートルにテーラード、ワークジャケットを同色でレイヤードしたルックは"無骨な男"をイメージさせ、それは"和製アルマーニ"と隠すことなく大月自身が形容するジョルジオ・アルマーニに対する敬意とその潔さにも表れている。また、「コウタ オクダ(KOTA OKUDA)」とコラボレーション製作したアクセサリーと、「ムーンスター(MOONSTAR)」のビジネスシューズライン「バランス ワークス(BALANCE WORKS)」のシューズをスタイリングしてルックにアクセントを加えた。
Image by: FASHIONSNAP
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ショーが終わり、不器用な放蕩息子は、私が見る限りバックステージで父親と抱き合うわけでも、感謝の意を伝えるわけでもなく、変わらず簡素なコミュニケーションしかとっていなかった。今回、ソウシオオツキのランウェイショーをモデルとして歩いてもらった父親に対して、これまで育ててきてもらったことも含めもちろん感謝はしているのだろうが、それをうまく伝えられない大月の心情が、神頼みとしてこのファッションショーを作り上げたことは言うまでもない。回りくどく、それこそ観客からすれば利己的にも見えてしまうかもしれない。ただ、だからこそ武士道の"粋"に通じるソウシオオツキのアティテュードに、品性と誇りを感じずにはいられないのである。
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