アンダーカバー 2024年秋冬コレクション
Image by: Hiroyuki Ozawa(FASHIONSNAP)
2月28日、「アンダーカバー(UNDERCOVER)」が2024年秋冬ウィメンズコレクションをパリで発表した。
“ふつう”のキャミソールとデニムをまとった裸足の女性が、あっけらかんとした“ふつう”の体育館の隅から、しとしとと歩を進めてくる。彼女が近づいてくるにつれ、“ふつう”に見えたキャミソールとデニムは、一体化したジャンプスーツのような服であることが明らかになる。
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Image by: UNDERCOVER
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そして、低くしゃがれた男性の声で、ある詩の朗読が始まった。それは夜が明ける前に目を覚まし、法律事務所で働きながら、もうすぐ9歳になる息子を育て、おそらく日々に少し疲れている、40歳のシングルマザーの日常についてだ。彼女を観察するようにシンプルな言葉で構成されたリーディングは無感情に読み上げられ、映画のような情景が脳裏に浮かんでくる。実際、そのあまりに見事な朗読に心を奪われ、服そのものを注視する集中が欠けてしまうほどだった。彼女の所作や心の揺れが、モデルや服に重なって見えたのだ。
Tシャツ、スウェットウェア、ジャケット、スラックスといった、ありふれたベーシックなものにゆがみを加えていくアンダーカバー。前シーズンはオーガンジーで服をまるっと覆って見せたが、今回の2024年秋冬では“圧着”という技術を取り入れた。ウール、デニム、ビニール、キュプラなど異なる二つの素材を圧着し、大胆にはみ出させるこのデザインアイデアは、計37ルックの全てに通底していた。
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ひらひらと“はみ出した生地”は、詩によって様々なメタファーにもなる。大量生産(繰り返される日常)の際に捨てられてしまう“型の外側”のように見えれば、抑えきれない感情が縫い目から噴き出しているようにも見える。そのドレープは、キッチンの壁にかけられたティータオルのような、日常の密かな美しさを思わせる。
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パリを拠点とする「ブリジット・タナカ(Brigitte Tanaka)」とのコラボレーションによるオーガンジー刺しゅうのバッグは、パンや果物、ワイン、生花を家へと運び、ところどころにプリントされたバラや、豪勢なクラッカーのようなテープは、ある特別な日を祝うようだ。
ショー終了後、その詩を創作し、読み上げたのはヴィム・ヴェンダース(Wim Wenders)だと知らされる。多くの観客が真っ先に思い浮かべたのは、昨年公開された映画「PERFECT DAYS」だった。この映画は、東京・渋谷区にある17の公衆トイレを担当する清掃員、平山の日常を淡々と描いた作品だ(「ロスト・イン・トランスレーション」以来となる、現代の東京の風景を世界に発信することに成功した作品であり、一方で平山や渋谷区が排除してきたホームレスの描かれ方が物議を醸してもいる)。デザイナーの高橋盾は「PERFECT DAYS」に感銘を受け、ヴィム・ヴェンダースに詩の創作を依頼した。ただ、“日常”を描いているのは同じでありながら、平山と詩の中の女性は、ある意味で正反対の境遇にある。社会から距離を置き、自身の殻に閉じこもってひとりの趣味を楽しむ平山とは対照的に、シングルマザーとして子育てをし(息子は混血のため学校で悩みを抱える)、自身のオフィスを持ち、少しの不安とともに慎ましい生活を送る、社会的な責任を負った人物だ。
子どもを寝かしつけた後、女性はやっと自分の時間を持てる。お気に入りのペンで誰かへの手紙を書き、レイモンド・チャンドラー(Raymond Chandler)などお気に入りのミステリー小説を読みながら、自身も眠りにつく。そうして朗読が終わったが、その後もショーは静寂の中で続いた。スウェットドレスのラストルックがバックステージへと消え去ると、モデル全員が闊歩するフィナーレは省略され、高橋が挨拶に出てきた。
フィナーレがなかったのは、テーマとした日常は、華やかなクライマックスを迎えることなく、また朝を迎え、淡々と続いていくからだろう。詩の中では、「いつも通りに(As always)」という言葉が何度も繰り返されたが、争いの絶えない昨今の世界情勢を鑑みれば、この「いつも通りに」は、はかなげな願いにも聞こえた。ショーを構成するシンプルなエレメント、そのすべてが相乗効果を生み出し、ただ美しいだけではない、示唆に富んだランウェイだった。
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