「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」に15年間従事した小川圭司が手掛けた、ひとつ3万5000円のスタンダードなデイパック。「ホワイタージュ(WHITEÂGE)」と名付けられたこのバッグブランドは、コム デ ギャルソンというブランドが持つ「モードでファッショナブル」なイメージとは一変、体圧分散効果などを備えた機能性を重要視している。
タッグを組んでいるのは、鞄や財布などを販売する店舗を主に駅ビルやショッピングセンターに展開している東京デリカ。なぜ、小川はギャルソンのファッショナブルなクリエイションから、機能性を重要視したプロダクト開発に至ったのか。そこには、飽和状態のバックパック業界に切りこむ、普遍にこそ宿るデザイン性の哲学があった。
ホワイタージュ、デビューの背景
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ホワイタージュのデザイナー小川圭司は、1998年から2014年までの15年間、販売職を経て「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」の「コム デ ギャルソン オム プリュス(COMME des GARÇONS HOMME PLUS)」や「タオ(tao)」などで、マーケティングやMDを担当。2014年に独立した。現在は、ウェブデザイナーやエンジニアとしての顔も持っている。
東京デリカは全国550店舗を構えるストア「サックスバー(Sac's Bar)」を基盤に、「ポーター(PORTER)」や「マスターピース(master-piece)」など、様々な種類のバッグを多く提供。近年はプライベートブランドにも注力しており、2020年にデビューした「エティアム(ETiAM)」では蔵前に直営店を構えている。
昨年10月にローンチしたホワイタージュでは、同社のこれまでのプライベートブランドと異なり、サックスバーでの取り扱いを最小限にとどめた50店舗で展開。「アーバンリサーチ(URBAN RESEARCH)」をはじめとするセレクトショップでの卸売りも行っているほか、百貨店などでのポップアップストアを出店している。1月31日にオープンした阪急メンズ東京でのポップアップストアでは、デビューから3ヶ月ながらも好調な滑り出しをみせ、購買目的の来店数が多く来客の3分の1が商品を購入したという。
このタイミングでプライベートブランドに注力した理由について、ホワイタージュのディレクター塩川雄三は「小売として、ブランドは財産。だが、その財産を1〜2年で作り上げることはできない。本気で取り組んでいくための足掛かりでもある」とした上で「これまで通り、仕入れにもウェイトを置きつつ、財産として自社ブランドの比率も伸ばしていきたい」との考えを示した。そんな中で「できればその異業種のデザイナーと取り組みたかった」と、小川をデザイナーに迎えた経緯を振り返る。
「僕たちは鞄の専門家ではあるが、ファッションの専門家ではい。デイパック市場が飽和している中で、どこで勝負して行くかを考えた時、スペックとファッション性をバランスよく両立することが重要だと考えた」(塩川)。
機能×デザインのファッション性が強み
塩川が言及する通り、ホワイタージュの一番の強みは、機能性とデザイン性の両立だ。ビジネスバッグシーンで、リュックも選択肢の中に含まれ始めたのが約10年前。しかし、必要以上に幾何学的な形であったり、ブリーフケースの形を踏襲したデザインが多く「ビジネスバッグ」の領域を出ないものが多かった。また、両手があくことがメリットに挙げられるリュックだが、一方で肩への負担が掛かったり、機能を重視するあまりポケットが増えることでかえって整理整頓が困難になるなどの意見がユーザーから寄せられていたという。小川は「ユーザーがリュックをもし買い替えるとなった時、手に取ってもらうためには、スーツであろうとなかろうと服を選ばないデザインであることと、『人間工学に基づいたデザイン』などのフックが必要だと感じた」と振り返る。
そうして、たどり着いたのが「ミヤヴィエ(MIYAVIE)」というハイテクノロジー機能素材だ。ミヤヴィエは元々、介護や医療現場のマットレスに使用されている高水準な3Dメッシュスプリング構造で体圧分散効果に優れており、これをハーネスに搭載することで、物を入れたときの体感重量軽減を実現した。塩川は「バックパック市場は確かに飽和状態ではあるが『抜け』もあると感じている。それは『ファッションと機能の狭間』だと思う」と分析する。
「例えばの体圧が分散する、軽くなるみたいなアイテムは現在の市場にも存在します。ただ、ヴィジュアルを見てみると、ハーネスパットが分厚く、それだけで不恰好見えてしまうものもある。そういった中では、ホワイタージュは見た目がそこまでごつくなりすぎずに、機能面をクリアできたと思います」(塩川)。
また、クラシカルなリュックの形が採用されているのも「昔からあるものは既に使い慣れているので、直感的に収納できるはず」という小川の考えから。混雑する満員電車の中で前背負いをしてもアクセスできるポケットも備える。小川は「極論、普段ギャルソンを着ているようなこだわりを持つ人が、スーツを着なくてはならないシチュエーションの時にも、自分のスタイルを崩すことなく使えるバッグを作りたいと思った」と話す。
「コム デ ギャルソン オム プリュスのデイパックも普遍的な形で、人気アイテムですが、あのバッグでパソコンを持ち歩こうと思った時、わざわざパソコンケースに入れてから持ち運ぶような使い方をするしか無いと思うんです。もっと機能的に優秀なリュックがあることは知っているけど、デザイン面を満たしていないから使いたく無い、という層は多い。そういう人たちのニーズに合うことを意識しました」(小川)。
ローンチから3ヶ月、足元と今後の展望
通常デビュー直後のバッグブランドは、月に10万〜20万円の売り上げれば上々という中で、ホワイタージュは30万円以上を売り上げる店舗もあったといい、好調な滑り出しを見せている。今後は、女性も使いやすいデザインのアイテムを増やしていきつつ、ターゲットをセグメントしすぎない戦略を取っていく方針だという。
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