「買い手がスタイルを作る」キーパーソンが語るCOS流ブランディング

 日本上陸から3年。青山と横浜に続き、「コス(COS)」が3店舗目にして進出したのは銀座の一等地だ。H&Mグループのブランドだが大きなプロモーションを打たず、ファストファッションとは一線を引くデザイン性ながら手頃な価格帯という絶妙なバランスで、ファッション業界人からも支持が高い。親会社とは異なるという、設立から10年間で築いたCOS流のブランディングとは?ブランドのキーパソンである、マネージング・ディレクターのマリー・ホンダ氏に聞く。

ブランド設立10年で全世界200店舗

ー2007年の設立から今年で10年を迎えますが、改めてブランドの歩みについて教えてください。

 COSは1号店をロンドンのリージェントストリートにオープンし、現在は世界各地に206の店舗があります。最初の5年は主にヨーロッパ市場に注力し、アジアには2012年の香港を皮切りに、中国本土、シンガポール、韓国に進出。日本には2014年11月に1号店の青山店をオープンしました。現在では、北米、中東、オセアニアにも進出しています。

ーH&Mグループはスウェーデンが拠点ですが、COSのベースはロンドンになるのでしょうか。

 1号店も本社もロンドンにありますが、特にナショナリティーがあるわけではありません。でもH&Mグループの母体はスウェーデンなので、私を含め多くのスウェーデン人が働いていますね。コスの本社ではバイヤーやパタンナー、Eコマースを統括するデジタル、マーケティングやアーキテクトの部署などがあり、約200人が働いています。クリエーティブの部署はウィメンズ、メンズ、アクセサリーを含めて約40人ほどです。

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支持の理由は「着る人を個性的に見せる」服

ー日本1号店は青山のラグジュアリーストリート沿いということもあって、ファッション業界で働く方も来店しているようです。支持される理由をどう捉えていますか。
 
 COSのデザインの特徴は基本的にミニマルでクリーンですが、一風変わった素材やアシンメトリーで構築的なシルエット、オリエンタルな要素がミックスされたアイテムもあります。シンプルなデザインの中に「ひとひねり」を効かせている点が、着る人を個性的に見せる。そのアイデアが国や年齢に限らず、広く受け入れられている理由だと感じます。また価格も魅力の一つですね。

ーブランドカテゴリーが異なりますが同じグループのH&Mと比べると、広告ビジュアルや店内のディスプレーなどコマーシャルの要素が薄いようです。COSブランドの戦略は?

 「たくさん売る」というよりも、商品のアイデアやインスピレーションがどこからきたのか、カスタマーとの"対話"を心がけています。その対話の中で、デザインや品質、価格に満足した状態で商品を購入してもらうということを目指してます。ホームページやSNS、ニュースレターでブランドの雰囲気や統一した世界観を発信することで、「買わされている」という意識ではなく「自分で考え、スタイルを作り出している」というような、あくまでも買い手主導の発想で商品を選んで欲しいという考え方でブランディングを組み立てています。

ー店舗は比較的ゆったりとしていますね。

 はい。お客様に対する店舗での見せ方も、クリエーティブな空間設計を心がけています。ソファに腰掛けてリラックスした状態で、手に取ったアイテムをどのように着ようかと、考えを巡らせることができるような店舗を目指しています。


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ー商品のセレクトなど日本に向けてローカライズしていることはありますか?

 商品の選定に関しては特にローカライズしていることはなく、商品は全世界の店舗で同じものを販売しています。

ー店頭商品の入れ替えが早いようですが、投入のサイクルは?売り切れたら再生産などもあるのでしょうか。

 年に2コレクション発売しているのですが、気候によって投入のタイミングを調整するなどしています。アイテムの追加生産はしませんが、翌シーズンにアップデートが加わった商品が並ぶことはありますね。白シャツについては、襟や袖などが多少変化していますがブランド誕生当初からのロングセラーですね。


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建築との結びつき

ー上陸から3年が経ちましたが、日本市場の反応はどのように捉えていますか。

 手応えを感じています。特に1号店が出店した青山はファッションに関心のある客層が多く、ゆっくりと買い物を楽しむ人が多いエリアなので、ブランドのコンセプトに最適なロケーションだったと感じています。

ー3号店の出店地として銀座を選んだ理由は?

 銀座は東京に来るたびに訪れていますが、伝統とモダンを兼ねそなえ、毎回「進化」を感じる場所だからですね。ギンザ シックスのような大きな商業施設もオープンし、さらに人の行き来が活発になっている。ブランドにとって理想の場所でした。

ミラノサローネで建築家の藤本壮介さんとのコラボレーションを発表するなど、建築との繋がりを強く感じます。

 私たちはインハウスにアーキテクトチームを抱えています。1店舗ずつそれぞれ異なる外観と内装で、店舗の立地によって違う表情を持たせています。入居する本来の建物の姿をなるべく維持しつつ、新しい空間を作っていくのです。例えば2号店の横浜は比較的新しいエリアなのでファサードもモダンなデザインですし、どの店舗も店内に壁が少なく、オープンな空間。銀座店の特徴はファサードのアーチ型の窓ですが、逆さまに配置するなどの遊び心も加わっているので、注目してみてください。


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"考え抜いた"商品や空間を

ーH&Mグループのブランドである「ウィークデイ(WEEKDAY)」や「モンキ(MONKI)」も日本に上陸しましたが、どちらも撤退しました。日本市場は欧米と比べて厳しい市場だと思いますか?

 COSはH&Mのグループブランドの一つではありますが、独立に近い形で活動をしているブランドです。COSについてしかお話することはできませんが、どこの市場が厳しいというより、どの市場も異なり、こればかりは時間をかけて市場とカスタマーを理解するに限ると考えます。もちろんグループである強みを活かして、すでに店舗を多く持つH&Mのノウハウを参考にすることもありますが。

ー3年で3店舗と比較的ゆっくりとしたペースで出店しているように感じますが、いずれも関東でも有数のショッピングエリアです。関西地方など今後の出店計画はありますか?

 現在進行形の計画はありませんが、常に未来にフォーカスしているので可能性は大いにあると思います。

ー最後に、COSを一言で表現するとどんなブランドですか?

 あえて自分の言葉を用いるなら、COSはたくさんの「considerations(=熟考)」が詰まったブランドでしょうか。カスタマーは常に変化します。そこに注意を払い、考え抜いた商品や空間を提供する。そんなブランドだと思っていますし、今後もそうあるべきであると感じています。同時にカスタマーにも、たくさん「consider」してもらいたいという意味を込めています。


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(聞き手:今井 祐衣)

マリー・ホンダ(Marie Honda)

スウェーデン人の父と日本人の母を持ち、ストックホルムで育つ。縫製とパターンメイキングを学んだあと、ロンドンでバイイングとマーチャンダイジングを専攻。2000年にH&Mに入社後はバイヤーの仕事に携わる。スウェーデンのブランド「ワイレッド(Whyred)」のデザインスタジオ責任者を経て、2008年にCOSに加入。2011年から現職。