何でもあり?学芸会のようなロンドンファッションの謎を解き明かす

キム・ジョーンズの右腕エドワード・クラッチリーはユニセックスなコレクションを披露

 ロンドン、ピッティ、ミラノ、パリ、そしてNYと続いた18年春夏メンズファッションウィークが終了した。その中でも異色だったのは、やはりロンドンだった。アート、コンテンポラリーダンス、舞台装置、さらには女装、今のロンドンの若手に流れる学芸会のようなパーティームードを解き明かすのはさほど難しいことではなかった。(取材・文:ファッションジャーナリスト 益井祐)

 5周年となる10回目のメンズファッションウィークを迎えたロンドン。アーティストのトレイシー・エミン(Tracey Emin)がオリジナルのアニバーサリーグラフィックを作成するも、ラグジュアリーブランドや「J.W. アンダーソン(J.W. ANDERSON)」の不在で見せ場がなかったのは確かだった。ラグジュアリーからテーラード、若手そしてハイストリートまでがそろった、バランスの良さをウリしたイベントとしてスタートしたが、現在はだいぶ様子を変えた。今の主力となるのは若手デザイナーたちだ。特に今回はストリートフォワードなブランドが台頭、ランウェイデビューを果した。

KIKO KOSTADINOV

 ストリート系の新人で最も注目されているのが「キコ・ コスタディノフ(KIKO KOSTADINOV)」。セントラル・セント・ マーチンズ美術大学在学中に「ステューシー(STUSSY)」とのコラボレーションを発売し即完売した経歴を持つ。そしてデビューしてすぐ、「マッキントッシュ(MACKINTOSH)」とコラボレーションして、オリジナルのラインを製作。17-18年秋冬パリメンズのファッションウィーク期間中にプレゼンで披露された。そんな話題が尽きない「キコ・コスタディノフ」が今回、ロンドン ファッション ウィーク メンズ(LFWM)の公式スケジュールで初のキャットウォークショーを実施。パンストをかぶった銀行強盗か、変質者か、モデルたちが身にまとうのは90年台後半のミニマリズムを彷彿とさせるモダンストリートウエアだった。

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 もう1人キャットウォークに昇格した新人がいた。それは「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー™(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH™)」のヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)の元で、アシスタントして手腕を振るったサミュエル・ロス(Samuel Ross)によるア・コールド・ウォール(A- COLD-WALL*)だ。オフィスに見立てたランウェイを、スーパーの買い物カゴに入れた大量のコピー用紙を振りまきながらモデルが闊歩。謎目かしい演出は師匠譲りの"アート&ファッション"のミックスなのであろう。カットアウトと透明のパネルが施された、ジャケットやシャツをルーズなパンツに合わせる。もちろん今時デザイナーはブランドロゴで主張。コレクション会場周辺を見渡すとプロやファッショニスタの着用が目立ち、ポスト「オフ・ホワイト」として浸透しつつあることを感じさせた。

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COTTWEILER

 昨シーズンLFWMで初のショーを行い、ピッティで「リーボック(Reebok)」とのコラボを披露した「コットワイラー(COTTWEILER)」。今回は会場をトレーラーパークに見立て、近未来のノマドな生活を表現した。シグネチャーであるモダンスポーツウエアを続行。彼らの持ち味と言っていいのが、いち早く取り入れる最新の素材だが、18年春夏で気になったのはリリースに記された「コルク・シェル・システム」と呼ばれるもの。確かにコレクションにはコルク柄のガーメントが登場したが。。。実は粉砕したコルクを繊維に封じ込めているもので、環境の変化に合わせた保温や通気性に優れているらしい。ショーには2シーズン目となる「リーボック」コラボの新作も登場した。

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 一方、スポーツやストリートと全く逆の位置にいるのが、「トップマン(TOPMAN)」と「ファッション イースト(Fashion East) 」がサポートする若手の合同ショー「マン(MAN)」でランウェイデビューしたアートスクール(Art School)かもしれない。レイベーンズボーン大学でデザインを学び、「ウェールズ・ボナー(WALES BONNER)」の元で経験を積んだイーデン・ロウェス(Eden Loweth)と、ショーにもモデルとしても登場したトランスジェンダーのトム・バラット(Tom Barrat)が手掛ける"完全ジェンダーレス"を目指すブランドだ。ドラァグクイーンのショータイムのようなランウェイにはスリップドレスやシースルーのブラウスを着たフルメイクアップのメンズが登場。実は「アートスクール」はリテールに新しい動きを促している。大手であるセルフリッジズ百貨店やマッチズファッションドットコムがデビューコレクションである17年秋冬を買い付けたが、そのジェンダーレスな立ち位置を理解し、明確に分かれたメンズウィメンズの売り場やオンライン上の垣根を取り払い、どちらでも取り扱うことにしたという。

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 女装癖は意外なデザイナーにも伝染していた。「ルイ・ヴィトン(LOIUS VUITTON)」のメンズウエアでキム・ジョーンズ(Kim Jones)の右腕として手腕を振るうエドワード・クラッチリー(EDWARD CRUTCHLEY)には、エリザベス調のガウンやコルセットをまとったマッチョモデルが登場。得意とするプリントやテキスタイルを落とし込んだガーメントはユニセックスのようで、初めてウィメンズモデルの上でも見せていた。

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Charles Jeffrey LOVERBOY

 「チャールズ ジェフリー ラバーボーイ(Charles Jeffrey LOVERBOY)」も、エリザベス調を香らせるドレスを身にまとったトランスジェンダーがフィナーレを飾った。ダブレットを模したレザーのライダースや軍服のつなぎなど歴史ロマンスを感じさせるアイテムの一方で、コマーシャルも考慮したのかハンドペイント風のプリントやキャッチーなグラフィックのアイテムも並んだ。昨シーズンに続きコンテンポラリーダンスと舞台装置で見せた表現力は秀でているが、コレクション事態に対した進歩はなかった。

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 昨シーズンからLFWMのトリを務めている新生ヴィヴィアン ウエストウッド (Vivienne Westwood)もジェンダーレスを強調しているブランドの1つだ。バレエダンサーやアクロバティックなパフォーマーに、透け感のあるドレスを着た男性モデル、ランウェイに生み出された美しくも混沌とした世界観を屈強な男に担がれたヴィヴィアン本人が締めくくった。

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ロイヤル・カレッジ・オブ・アート

 なんでもありに見える今のロンドンを解き明かすのはさほど難しいことではなかった。答えはLFWMスタート直前に行われていた名門ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)やセントラル・セントマーティンズ美術大学、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッション(LCF)、そしてグラデュエート・ファッション・ウィークと英国の様々なファッション高等教育機関の卒業コレクションにあった。圧倒的だったのはクリエーティビィティとテクニックを兼ね備えたRCA。"巨大りんごおじさん"や"サイファイ鯱鉾女"、"フォーチュンクッキーの雨"と、今LFWMのランウェイで起こっているのと変わらないはちゃめちゃな情景がそこにあった。

 そう、今のファッション教育がそのような流れなのだ。少し前からコースの垣根を取りはらったグループショーで見せているLCFも、これまでになくコンセプチュアルなものだった。そのダークでドラマティックな雰囲気は90年代に「アレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)」とともに、英国ファッションを牽引していたアンドリュー・グローブス(Andrew Groves)のコレクションを思い起こさせた。実はそのアンドリュー・グローブスは、ウエストミンスター大学のデザインコースを指揮している。現在ロンドンのファッション教育に従事しているものの多くが90年代ファッションを経験しており、その流れがコンセプチュアルファッションのリバイバルにつながっている。また、ミレニアム期にあった自由なクリーエーションの影響も強くなっている。あのパーティームードの裏には、当時の固定観念にとらわれないファッションを支えていたクラブイベント(元々は80年代リバイバルだが)の経験者たちが教育に携わっていることが挙げられるだろう。