ファッションエディター・スタイリスト

【孤独のコレクション日記 16SS】ロンドン2日目、最もイケてるのは誰だ?

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 渡英前、俺っちのズラを仕立ててくれているヘアスタイリストさんが、「ヘアカットは技術じゃない、センスだよ」と言っていた。ファッションシューティングにおいて、もっとも技術を要する職業、ましてや"超一流"の名声をほしいままにしている方からの、目からウロコ話。極論をいえば、どんなに未熟な手もとでも、最終的にその人に似合っている"イケてる髪型"に出来るのであれば、それでいいってことらしい。これには俺っちも同感。常々スポーツ選手なら、技術が才能を補うってこともあるだろうが、ファッションにおいてそれはまったくない、と思っているから。この世界、ようは生まれ持った資質なのである。ただ、残念な(ありがたい?)ことに、コネクションや口のうまさだけで生き抜いていけるのもこの業界の特徴。どっちにカテゴライズされるかは、自身の立ち居振る舞いと評価によるところだが、結局は長いものに巻かれゴッチャになっちゃうのが正直なところ。だから、コレクションを観るのは楽しい反面、難しくもある。それでも言えることは、本当に美しいものは誰の目から見ても明らかだということ。そして俺っちの使命は、光るヤツらを見つけることにある。ロンドンメンズの2日目は、そんなコレクションツアーの真髄に迫ってみよう。霧のなか、あるいは砂のなかから小さな原石を探す作業。ある程度の目星はついているとはいえ・・・

【孤独のコレクション日記 16SS】
1日目:ロンドン初日、笑いとファッションは紙一重?

■Jermyn Street & St James's

 「FORTUM & MASON」のケイタリングが、お出迎えしてくれた「ジャーミンストリート&セントジェームスズ(Jermyn Street & St James's)」。ご親切な案内看板と、美味なるクロワッサンが、イケてないコレクションをほどよく中和してくれる。

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 いきなりの結果発表となってしまったが、かつて「英国紳士とは?」を必死に勉強しただけに、この手のアプローチはなかなか腑に落ちてこない。タイなしのジャケパンルックでも、もう少し品があってもいいのでは、と思ってしまう。

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 こういう場合は、映画『ブリジット・ジョーンズの日記』を観るといい。ジョーンズの前に現れる2人の男性、マーク・ダーシー(セーターではなく、スーツを着ているときね)or ダニエル・クリーバー、どっちがいいかってことだ。よくわからない人は、さっそくTSUTAYAに急ぐべし!

■Lou Dalton

 カラフルなウィンドブレーカーが目を引いた「ルー ダルトン(Lou Dalton)」。絵画チックにアレンジしたマドラスチェックと、ハリのある素材感は、流行の"レトロフューチャー"ではなく、現代的にアプローチしたことが分かる。実用さを求めたプリンスオブウェールズのコートは、ヒザ上丈のショーツとのマッチング。スケ感のあるナイロンのブルゾンは、かつて親しんだ「パーソンズ(Persons)」(注:80年代、新人類、ネアカ世代に絶大な支持を得たドメスティックブランド)のロゴ入りジャンパーを思い出させる。とはいえ、ときめく要素はあまり見当たらない。

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■Astrid Andersen

 ロンドンにおける、イケてるブランドのひとつ「アストリッド アンダーセン(Astrid Andersen)」。ベースとなるヒップホップとバスケットボールを背景にしたスタイルに、今回はシノワズリを加えてアレンジ。

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ボリューム感たっぷりなメタリックのセットアップや、切り替えたレースアイテムからは、上品さとラグジュアリーストリートという分野で、たくましく生き抜く、タフさを感じ取ることができる。

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Astrid Andersen 2016年春夏コレクション詳細

■Hardy Amies

 駅が直結する「ルネッサンスホテル」は、お化けが出ることでも有名らしい。まぁ、この手の話は欧州ではよくあることだし、あまり気にしてはいけない。そもそも"霊感"てものにまったく縁のない俺っちにとって、あまり実感が持てないのが正直なところだ。それでも、たとえ金縛りにあおうが、カベの画から血が滴り落ちてこようが、いちどは泊まってみたいと思わせる素敵なラウンジは、もしかしたらショーも? と期待してしまうほどイケてる。

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 「ハーディー エイミス(Hardy Amies)」がテーマにしたのは宇宙。かつて衣裳を手掛けた名作「2001年宇宙の旅」からデビッド・ボウイの楽曲まで、いろんな手は施してみたものの、残念な結果に。そもそもリリースで「通気性のいい」「機能的な高品質素材」などとうたっているところがうさんくさい。ギミックを語りたがるのは、イケてないヤツに多く見られる兆候。きっと彼は"おしゃべり派"なんだろう。

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 ワークなポケット付きベストやサッカージャケットに、夜空をイメージしたというネオンオレンジを加えるところは、『うる星やつら』のラムちゃんの手料理よりもヒドい! ほうら、カメラマンたちのしかめっ面が如実に物語っているでしょ。帰り際にふと。あまりにお寒い内容に、ホテルに出るオバケって、このことか? と無理矢理こじつけてみたりしてみたけど、これいかに?

 イケてない度:ハーディエイミスのショー(99)、俺っちの小話(100)。

■Berthold / Several / Lee Roach

 「バートホルド(Berthold)」「セベラル(Several)」「Lee Roach(リーローチ)」。この三者をうまく語るのは、なかなか難しい。

 まずは「バートホルド」。どんなに一生懸命説明しようが、ウェッティな髪の毛と、ゴミ袋(?)を張り巡らした演出では、聞く方のテンションも上がってこない。かつて濡れたヘアを提案して、イケてるクリエーションを見たことがない。まぁ、なにを作るにせよ、人物像と空間も一生懸命に考えないと、ってことですよ。

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 10ポーズで勝負した「セベラル」は、カジュアルなラインアップ。それ以上はいいようがないが、トラッド志向の若者たちが、何気なく着られそうという点では、スタンダードなモノ作りが得意のようだ。

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 ストレート男子リーくんが手掛ける「リーローチ」は、ついにトルソーでの展示となってしまった。かつてはいろんな賞を獲得したり、ランウェイでも頑張っていただけに、殺風景な展示はなんともはや寂しい限りだ。

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■Coach

 会場にスケートコートを建設した「コーチ(Coach)」は、スチュアート・ヴィヴァース2回目のショー。当日はアンバサダーとして、ブライアンボーイや我らがマスイユウが、SNSを盛り上げる。

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 アメリカ西海岸のサーフと、東海岸のヒップカルチャーを掛け合わせたコレクションは、蛍光グリーンやピンクを、サイケデリックに混ぜ合わせ、グラフィカルに落とし込んだもの。中盤からはライダース、モッズコートといった定番アイテムを、切り替え、パッチワークで見せ、落ち着いた色合いのルックでしっかりとコマーシャルもしていく。足もとのアッパーがファーになったサンダルや、マルチカラーのスニーカーは、なかなかの売れ線となるやもしれない。

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 とはいえ、せっかくなら実際のスケーターが会場を滑走したらもっとイケてるコレクションに感じたかもしれない。まぁ、よくある演出だし、言ってみてもあとの祭りだし・・・なかなかどうして、ねぇ。

Coach 2016年春夏メンズコレクション 全ルック

■Agi & Sam

 コミカルさが売りの「アギ&サム(Agi & Sam)」は、ワークにフォーカス。インナーにシャツを合わせたレザージャケットやコートは、ボタンとジップを全開にし、肌見せルックに仕立てる。腰に巻いたオーガンジーのストライプシャツが風になびくとともに、パジャマ縞を入れ込んだアイテムが軒を連ねていく。クロップドやショーツで構成されたパンツ群は、全体のバランス感を絶妙に保つ大切なもの。

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 足もとの「コンバース」と、☆柄をまぶした黒いお化粧が、らしさと統一感をもたらすが、回を重ねるごとに、さらっとした雰囲気になっていくのは、成長と後退、どっちの証か?

■Casely-Heyford

 親子鷹ジョー&チャーリーがお届けする「ケイスリー ヘイフォード(Casely-Heyford)」は、いまや定番となったレイヤードアイテムを軸に、ハイブリッドなスタイルを披露。

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 得意のテクニックをジャケットや、ロング丈に仕立てたモトクロスコートなどにのせながら、足もとは編み込みのサンダルで軽やかにアレンジ。時おりパンツやトップスに赤や緑を加え、視覚的にも飽きさせない流れにするも、クリエーション的にはそろそろ新しい提案も欲しいところ。さて、このブランドをイケてる風に見せるのは、着る人間のセンスによるところが大きい。

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 日本人たちにとっては、なじみのあるスタイルだけに、提案されたレイヤリングルックを踏襲するのか、解体するのか? それはアナタ次第です!

■Sibling

  "イケてる"って、こういうことなんですよ。ハッピーで素敵なショーを見せてくれた「シブリング(Sibling)」は、冒頭で驚きのテイラードを披露。作風が変わったというわけではなく、これは今季より立ち上げた新ラインなんだって。

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 さて、前説が終わると、会場は一瞬にして「フィールド オブ シブリング」と化す。色とりどりのニットアイテムを中心に、ミリタリーコートやラフィアをファーとしてあしらったモッズコートなどが、ランウェイを楽しく踊っていく。

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 アメフトのユニフォームをお得意のニットや、マクラメ編みのプロテクターなどで表現していくさまは、半ケツ状態のジョグ・ストラップの登場で最高潮に。

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 組合員のかたのみならず、みなが注目した半ケツ、もといランウェイフィールドは、ラフィアボンボンを手にしたチアリーダーや、ブランドの頭文字「S」がついたニットタンクを着たマッチョメンをみていると、まるで実際の試合風景が実写化されていくかのような錯覚に陥る。奇をてらった演出はいっさいなく、クリエーションの力だけで、ここまで観客やモデルたちを楽しませてくれる。このコーチング、やっぱイケてる!

Sibling 2016年春夏コレクション詳細

 ファッションの勉強をしたことがないラフ・シモンズが、アントワープ王立学院に入学を希望した際「アナタはここで学ぶことはないわ」といわれたことは、あまりにも有名な話。その後の彼の活躍をみると、その教授の眼力は相当なものだったと言える。人を引きつけるのは技術ではなく、天性のセンスなのだろう。卓越したものならば、技術も人を魅了することは十分にあるが、それは今回の趣旨とはちょっと違うので、またこんど。ところで、毎回どんな才能に巡り会えるのかを楽しみながら行脚している俺っちは、はたしてイケてるのだろうか・・・。たまには自問自答してみるとしよう。

■本日の飛び道具

 ランバンのポインテッドブーツ

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【孤独のコレクション日記 16SS】
1日目:ロンドン初日、笑いとファッションは紙一重?

村瀬昌広