繊維業界記者・ライター兼広報アドバイザー

異業種からの参入が衣料品業界を活性化する

今年に入って2人の方に相次いで相談を受けた。
2人とも偶然に日本製のTシャツを2000数百円~5000円未満で売りたいという。
ただし、お一人はもうすでにインターネット通販で販売を開始している。
もう一人は現在準備中である。その違いがある。

今回はすでにスタートしている取り組みをご紹介したい。

http://b-webstore.jp/

生地から縫製すべてが日本製だが、半袖Tシャツの価格は2750円(税抜)で、しかも送料無料である。
本当に利益が出ているのかどうか他人事ながら心配になってしまう。

製品の特徴はすべて丸首でガゼット(トレーナーの首元についてるV字の部分)が付いている。

middle_price_thirts_0812_1.jpg

製品サンプルを2枚送ってもらったのだが、生地は予想よりも薄かった。
見た目がスエットシャツ(いわゆるトレーナー)のディテールを取り込んでいるので、もっと肉厚かと思ったらそうでもなかった。

筆者には紺とオフホワイトを送ってくださった。

筆者は基本的に汗っかきで、気温が35度を越える盛夏は、毎日大量の汗をかく。
Tシャツ類はすぐにボトボトになってしまう。
そういう筆者からすると盛夏には着用しづらいと感じた。
それ以外のシーズンは肌触りの良い生地なので着用しやすいだろう。

どうでも良いことだが、盛夏に着用する衣服には細心の注意を払っている。
大量に汗をかくので、すぐにボトボトにならないように超ヘビーオンスの肉厚Tシャツを着るか、逆に乾燥しやすいようにポリエステル混の薄地Tシャツを着るかである。

近年、カットソー類の生地は原材料の高騰もあるのか、どんどん薄くなる傾向にある。
ヘビーオンスや超ヘビーオンスの肉厚Tシャツはなかなか見つけられなくなっている。
そこで綿100%よりも乾燥するのが早い薄地ポリエステル混のTシャツを盛夏に着用することが増えている。

まあ、そんな筆者の好みは置いておく。

この「日本製を中価格帯で売ろう」という取り組みはどうだろうか?
基本的なコンセプトは筆者は評価している。

気仙沼ニットの成功によって、国内の工場は「超高価格を売りたい」と考えているようだが、それは単に「二匹目の泥鰌」を狙っただけではないかというのが筆者の感想である。

成功事例を単に真似したいだけではないか。

そもそも、購買意欲のある人と購買能力がある人がどれだけ存在するかで市場規模は決まる。

1着20万円の気仙沼ニットが成功したことによって、あちこちに同じ価格帯の「類似気仙沼ニット」が誕生したとして、それをすべて買えるほどの購買能力のある人が国内にどれほど存在しているのだろうか。
一説には超富裕層とされている「アッパー層」は1%しか国内にはいないといわれている。
1%で127万人・33万世帯だそうだ。

これがピラミッドの頂点であり、その下の「アッパーミドル層」は7%で889万人・230万世帯である。

その下はミドル、ロアーミドル、ロアー層となっており、この3層を合わせると82%になる。
国内市場は圧倒的にこの3層で成り立っている。

「類似気仙沼ニット」が次々に生まれたところで、そこの客層は上位2層の8%しかない。
この8%を巡って血みどろになってパイの奪い合いをすることになる。

外国人観光客に売るという声も聞こえるが、外国人観光客を狙っているのは工場系ブランドだけではない。
他の大手ブランドも狙っている。
また衣料品業界だけではなく、他の家電や化粧品、薬剤業界も狙っている。

ブランド力がなく、販促の手法も稚拙な工場系ブランドがそれらと戦って外国人観光客を獲得できるとはとても思えない。

82%を狙った中価格帯の国産ブランドを立ち上げるということは理にかなっているのではないか。
そして、ある程度の数量を毎月販売することで、それに携わる製造工場も仕事が増える。
年に1度だけ200枚の発注があってもそれでは工場は運営できない。のこり9カ月は休んでいなければならない。

そんなわけで、サンプル品のお礼も兼ねて、東京に行った際に主宰者の山口悠太さんにお会いさせてもらった。

山口さんはもともと、この繊維・衣料品業界の人ではなく、撮影用機材の製造工場に勤務されていたそうだ。
一念発起して独立する際に「大好きだったTシャツを販売してみよう」と思ったそうだ。

もし、この時期に知り合っていれば「衣料品業界は絶対やめた方が良いですよ」と忠告したのだが(笑)

今年でまだ開業してから2~3年目だそうだが、初年度は大苦戦したという。

とくに最初は子供向けからスタートしたそうだがこれが大誤算だったそうだ。
一般的なマーケティングでは子供用品は2組の祖父母と両親を合わせた6ポケットで高額商品を買ってもらいやすいといわれているが、衣料品に関してはこれはあまり当てはまらない。

子供服はどんなに品質が良くても高額品を買われることが減っている。
なぜなら着用年数が短いからだ。少し大きめを買ってもせいぜい2年半しか着用できない。
子供の体が成長して服が小さくなるからだ。
兄弟姉妹がいるなら、少し質の良い高額品を買って、小さくなったら下の子に着させるということもできるが、一人っ子なら丸々無駄になってしまう。
親戚の子にあげるか、近所の子にあげるかしかない。

そうなると子供服はそこそこの品質で安い方が良いと考える人が増える。
筆者も高い子供服を買おうとはまったく思わない。

西松屋やFOインターナショナルなどの低価格子供服が成長したのはそれを裏付けているといえる。

そこで、本来やりたかったユニセックスのアメカジテイストへと軌道修正したそうである。

ウェブサイトも改良を続けて現在の形になった。
サイト内にはスタイリングブックもある。

毎月何十枚かのオーダーが固定的にあるようにもなったそうだ。

それにしても相談してきた2人は山口さんも含めて両方とも異業種出身である。
逆に業界関係者なら企業しようとは思わなかったのではないか。
それほどに今の業界は疲弊している。

そこにわざわざ飛び込む蛮勇を業界関係者は持ち合わせていない。もちろん筆者にもない。

筆者の息子や親族が業界に進みたいと行ったらきつく止める。

しかし、その一方で、こういう異業種出身の人達が閉塞感漂う業界を活性化させてくれるのではないかとも思う。

そういう意味では期待を込めて見守りたいと思う。

南 充浩