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【前編】知ってもらう努力、日本の伝統文化を支えるデザイナーの思いとは

品質の高さや技術、美しさから高い評価を得ている日本のものづくり。新しい技術の台頭や後継者不足などにより存続の危機が叫ばれる中、国や民間、個人によるさまざまな取り組みが行われている。

兵庫県の播州刃物や播州そろばん、島根県の石州瓦せきしゅうがわらなどのブランディングを手がけ、世界市場への展開に取り組むデザイナーの小林新也さんもその一人だ。

「グローバリゼーションの中で生き残るには、どこも真似できないものを育て、伝えること」と考える小林さんに話を聞いた。

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小林新也
1987年兵庫県生まれ。大阪芸術大学デザイン学科卒業。2011年「合同会社シーラカンス食堂」を地元の兵庫県小野市に設立。播州刃物や播州そろばん、石州瓦などのブランディングから商品開発、地域財産を世界市場へ向け「伝える」ことに注力した販路開拓に取り組んでいる。

文化は国力。ものづくりが文化を支えている。

兵庫県のデザイン事務所「シーラカンス食堂」の代表小林新也さんが、日本のものづくりに危機感を持ち始めたのは、10代。

日本の文化を支えている「ものづくり」をする人がいなくなったら、文化も衰退していくのでは? ――実家の表具屋(※紙や布、糊を使い、屏風や襖、掛物などを作る)の仕事を間近に見ながら、こう思った。

大学ではデザインを専攻、在学中に世界最大のインテリアと家具の見本市「ミラノサローネ」にも出展した。

海外に出ると、日本のものづくりのすごさが分かる。でも蓋を開けてみると、『この人が最後の職人です』っていうことがあまりにも多い。文化に勝るものって、国の力で言ったらほかにはない。それを絶対に絶やしたくない。

日本が抱える課題はどこも同じ。地元は?

大学2年生のとき、先輩に誘われ、島根県で古民家をリノベーションし若者が訪れるカフェ作りに取り組んだ。多く残る空き家と若者離れを解決する、一種の町おこしだった。

卒業後、このまま島根に住むことを考えていたが、瀬戸内海の島々で開催される「瀬戸内国際芸術祭」に出展しないか? と、教授に声をかけられた。作品やコンセプトのデザイン、会場となる豊島てしまでのフィールドワークをする中で、地元の漁師と交流するように。

話を聞く内に、過去の風評被害の影響で、まだ使える漁船や海苔の加工工場が使われないまま残っていることを知った。

「状況、一緒やな」。

島根と豊島に関わり、そう感じた。

「地元は? なにか産業あったな......そろばんや!」。

それまで当たり前過ぎて"地元"のことを考えたことがなかったが、早速、同級生の父親が経営するそろばん製造会社の門を叩いた。

創業100年の歴史ある問屋だが、需要が減る中、生産量を落とさないため、社長自らそろばんの珠を生かしたおもちゃやそろばんの枠に囚われない商品開発をしていた。小林さんは共感した。

おっちゃん、もうちょっとデザインしたほうがええで。

新しいはさみをデザインしてくれないか? ――金物との出会い

そろばんの珠の数で時間を表示する掛け時計「そらクロ」や、そろばんを自分で作って持ち帰れるワークショップスペース「そろばんビレッジ」。それまでにないデザインの視点を入れた取り組みは、メディアでも取り上げられ、話題になった。

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子どもからお年寄りまで、幅広い世代に人気の「そろばんヴィレッジ」。自分だけのそろばんを、簡単に作ることができる。

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そろばんの珠で、時間を表した「そろクロ」。

新也くん、小野には、金物かなものもあんねんぞ。新しいはさみのデザインできひんか?

小林さんに声をかけたのは、評判を聞きつけた、知り合いの刃物問屋。興味はあったが、金物のことはなにも知らなかった。

人間業じゃないな。

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実際にはさみの製造工程を見た小林さんは、職人の巧みな技術によって作られるはさみの美しさに驚いた。これ以上のものを作れるのか、という疑問と同時に感じたのは、いままで"知らなかった"こと。

自分が生まれ育った町に、こんなにすごい人たちがこんなにすごいものを作っていることを知らなかった。これが足りてないことだって思ったんです。絶対、いまあるものを知ってもらう努力をしたほうがいいなって。

値段を上げるしかない。「高くても売れる」という意識改革。

兵庫県小野市と三木市は金物の町として、はさみや包丁など家庭用刃物の産業に230年以上の歴史を持つ。

しかし、職人の高齢化により後継者問題は深刻だった。また、大量生産で出回る刃物との価格競争で、値段は下がり続けてきた。

新たな人材を雇用するには、生産量を下げ、利益率を上げる必要がある。「単価を上げるしかない」。

しかし、国内市場は、問屋で構成される組合によって金額の秩序が保たれている。いままで販路開拓をしていないところであれば、と考えた小林さんは、「よし、海外へ行こう!」。

当初デザインや刃物の見本市が開催されているヨーロッパを想定したが、東京の展示会出展さえ理解を得るのに一苦労だった。

小林さんの熱に押され、「半信半疑やぞ」と出展が決定。商品を地域の名を取り、「播州刃物」と命名し、展示物にもこだわった。さまざまな刃物を取り扱っている協奏的なイメージを、蛇腹形式のパンフレットで表現した。

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フランクフルトで毎年開催される世界最大級の見本市・Ambienteは、ブランドの認知とバイヤーやメディアへのPRを行い、卸販売の商談をする場。日本の刃物のクオリティの高さは世界的に知られており、特にドイツでは高い評価がある。鋼や硬度といったレベルの高い質問がくる。

展示会では、フランスのディストリビューターから声をかけられ、3カ月後にはパリの展示会に出展。その後も、精力的に海外の展示会に足を運び、フランスの他、ドイツやアメリカ︎など、10カ国以上︎の販路を開拓した。

売上は、2013年の東京での展示会出展から昨年まで、毎年倍の売上となっている。国内外のメディアでも報じられ、注目を浴び、熊本県から、会社を辞めて「やりたい」という人が現れた。

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はさみの美しさと種類の豊富さが伝わるようにデザインした、蛇腹式のパンフレット。日本らしさを、短冊の形で表した。

後継者を諦めていた職人も問屋も可能性を感じ、2015年10月、正式に弟子入り。嬉しい連鎖も起きている。

はさみ分野では、断り続けていた息子の弟子入りを父親が受け入れたり、「どうしてもやりたい」という希望者が増えているという。また、職人の組合が問屋の組合に初めて値上げ運動を起こし、問屋が応じた。

人が雇える可能性が広がった、と小林さんは嬉しそうだ。

僕らが目指したのは、『意識改革』。高くても売れると問屋さんに思ってもらうこと、自分の技術を残すべきだって職人さんに声をあげてもらうこと。それらが事実として分かれば、意識は絶対に変わる。

後編は、デザイナーの枠を超え活動を行う小林新也さんのディストリビューターにかける想いを紹介する。

シーラカンス食堂
【website】http://www.c-syoku.com/