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日本初 "デジタル×ファッション"メディア

デジタルが生んだ新しいバッグの形、「ORISHIKI」開発者が語るデザインの未来

デジタルが生んだ新しいバッグの形、「ORISHIKI」開発者が語るデザインの未来の画像

今年3月に開催されたMEToA Ginzaのオープン1周年イベントに登場した女優の渡辺杏が携え、同じく3月の東京ファッションウィーク2017-18秋冬では、「tiit tokyo (ティート トウキョウ)」のランウェイに小松奈々と共に現れたバッグ。それが「ORISHIKI」だ。

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三角形のみで形成されたこの美しい形のバッグを開発したのは、株式会社N and R Foldings Japanの川本尚毅氏。日本発のデジタル×ファッションという、オリジナリティを持った存在を目指した結果、たどり着いた「ORISHIKI」。その誕生までの軌跡や、氏が考えるデザインの未来について、話を聞いた。

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ORISHIKIで目指したもの

「わくわくするような、かっこいいもの、歌舞いたもの、とんがたもの。例えば、フェラーリやランボルギーニのように、決して乗りやすいとか壊れにくい車ではないけれど、"あれがい""あれがないと嫌"と言われる特別な存在。そんなデザインを日本発で作りたかったのです」と語る川本氏。「ORISHIKI」は決して持ちやすかったり、使いやすいといった"優しい"デザインではないけれど、見るもののが心惹かれ、持ってみたいと思わせる、そんなバッグだ。

「持つことで自信が持てたり、個人の趣向や遊び心が表現できるという理由で『ORISHIKI』を持ってほしいと思っています。クラッチバッグであるというのもポイント。クラッチバッグはアクセサリーやジュエリーに近くて、パーティなどで自己を表現するもの。機能性よりもアイデンティティの表現手段という側面の方が強いですから」と語る。

ORISHIKIができるまで

川本氏は、広島県呉市生まれ。建築に興味を持ち造形大学に進学するが、在学中にインダストリアルデザインに興味を持ち、卒業後にロンドンに留学。ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)のインダストリアル・デザイン・エンジニアリングコース(現在のイノベーション・デザイン・エンジニアリング)で学んだ。修士号取得後にロンドンでロドリゴ・ソロッサーノと共にデザインスタジオ「N and R Foldings」を設立。帰国後は、その日本拠点である株式会社N and R Foldings Japanの代表取締役社長に就任。プロダクトの外装やプロトタイプの製作を手掛け、取引先はアーティストのスプツニ子からGoogle、デバイスベンチャーまで幅広い。多彩な案件で経験を積みながら、「ORISHIKI」のアイディアもアップデートを繰り返してきた。

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川本氏がRCA在学中、最初に興味を持ったのは、モノを大切にするという気持ちを表現するもの、"内と外"を持つ存在である"パッケージ"だった。そこから出発して、卒業制作では"ラゲージ"をテーマに、移動式のバーやスーツケースを製作。さらにそれを発展させ、モノを収納したまま折りためてバッグになる壁などのコンセプトを生み出し、2010年にデザインタイドで発表したところ、好評を得た。

一枚の紙でモノを包んだ時にできた折り目を生成すれば多面体になるというアイディアを、2012年には「Ori-con」というソフトウェアとしてデザインタイドで発表。これは、「ORISHIKI」のようなプロダクトを自動的に生成できるシステムで、包む対象物の形状を3Dスキャンで読み取り、それに合わせて三角形の数を自動的に計算して専用のパッケージを作る、というもの。「毎回コンセプト発表するたびにいろんな方におもしろがってもらえたり、協業の話をいただいたりし、『ORISHIKI』のアイディアがいいものであるという自信がついてきました。似たプロダクトが出て駆逐されることもなかったし、いろんなものに使える可能性が見えてきたんです」

「だから本当は『ORISHIKI』とはバッグではなく、システムの名称でもあります。"SHIKI"は方式の式という意味を持っています。プロダクトではなく、包んだり折ったりするシステムとして、『ORISHIKI』はもっと発展していく予定です」

ORISHIKIは、デジタル×デザインの結晶

一見するとシンプルなデザインの「ORISHIKI」のバッグ。だが、バッグとして閉じた形も開いた形もきれいな形を作るのはとても難しいのだという。「形を追求すればするほど展開図が増えていってしまいます。しかも、点と線で形成される多面体は人の頭では考えづらいので、点が一つずれるだけでバランスが崩れてしまう。スケッチでも表現できない。そこでCADのようなデジタルの力が必要なんです」ランダムなようで計算されつくした「ORISHIKI」の形は、デジタルとデザインの結晶で生まれた。

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「ORISHIKI」の未来にも、デジタルは欠かせない。「これからはこのシステムをライブラリー化し、Aiに覚えこませて自動でバッグを作る仕組みにするなど、いろいろなアイディアがあります。でも、最終的に美しいメリハリのあるデザインを作ることができるのは人間だけ。コンピュータだと均一になってしまうからです。人の意思のがうまく噛み合ってこそ実現する『ORISIHKI』は、一歩進んだデジタルの使い方なのかもしれません」

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「ORISHIKI」は、プロダクトとしても無限の可能性を秘めている。「アーティストとコラボレーションして、『ORISHIKI』に絵を描いてもらえれば、平面にも立体にもなる作品ができあがります。大きくすれば住居にもなります。テクノロジーを搭載したり、三角形をどんどん小さくして体にフィットするようにして洋服にしたり、いろんな可能性があります」

2008年にアイディアが生まれてから、8年たってやっと商品として世に出すことができた「ORISHIKI」。「良いアイディアは長く続けるほど可能性が広がるけれど、そうなれるかどうかは続けてみないと分からないものです。チャンスやタイミングはいつくるかわかりませんから。イノベーションと言われるアイディアはたくさん生まれても、それを本当に使えるものにしていくためには、泥臭くクールじゃないところもたくさんあります。自分で会社を作り、こういうことを続けられる機会をいただけたのは幸運だったし、ここまで来れるような状況を自分で作り出す努力もしました。アイディアは、やり抜くことが必要なんです」

PROFILE
川本尚毅
1980年生まれ。東京造形大学卒業後、デジタルハリウッド大学を経て、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート ロンドンでMA Industrial Design Engineering、インペリアル・カレッジでMSc Mechanical Engineeringを取得。ロンドンでロドリゴ・ソロッサーノと共にNandR Foldingsを設立し、現在株式会社NandR Foldings Japanの代表取締役を務める。
http://naokikawamoto.com/index.html
http://nandrfoldings.com/

photo:SHINICHI KAWASHIMA(STILL)